17・深く考えると頭痛が(レオル視点)
「フィリシアは本当にすごいなぁ」
食後のお茶を終えたディノが、リシアの前でぴょんぴょん跳ねて騒いでいる。
「僕は五百年前の錬金術師たちを知っているけど、錬金釜で日用品の蜂蜜や茶葉を作るような魔力の使い方をするなんて、非常識なことだったよ!」
おい、非常識と知っていてリシアにねだったのか。
猫なのに喋ったり二足歩行だったり錬金釜と一体化したり、もともと常識が通じない奴だと思ってはいたけれど。
「僕、そんな無謀な魔力消費をする錬金術師は、エドランしか見たことがないよ」
リシア、伝説の錬金術師と並ぶのか。
「エドランだって、ここまで贅沢に作ったら、失神して三日は寝込むだろうなぁ」
聞き間違いだろうか……。
「心配しなくても大丈夫よ、私は倒れていないから。倒れそうにもないわ」
「すごいよ!」
……そうだな。
深く考えると頭痛がしてきそうだし、「すごい」で受け入れればいいのか。
「フィリシアのその魔力量は、きっと従姉の真似をしたくてハマった、魔法を使う特訓の成果だね! だけど、町に着いたら錬金釜やその魔力のことは秘密にしておいて欲しいんだ」
「どうして? 私、色々作ろうと思っていたのに」
「だってフィリシアの使い方を見ていたら、あの錬金釜が羨ましくなる人がいるはずだよ。僕はフィリシアと一緒にいたい。だからこっそり作ろうよ!」
「そうね、確かに何度も断ったり、勝手に持って行かれたら面倒ね。だけど結構な大きさがあるし、盗むのも一苦労だと思うわ。これから町まで運ぶのだって大変そうだし」
「それなら大丈夫だよ! 付属の鞄があるから、フィリシアの魔力を使えば錬金釜関係の物は全部それにしまって簡単に持ち運べるんだ」
「本当? それなら良かったわ」
「すごいでしょ!」
相変わらず信じられないような解決方法だと思うけれど、驚いているのが俺だけなのはなぜだろうな……。
リシアとディノはその後も楽しそうに話し続け、それはディノが眠そうにあくびをするまで続いた。
「そうだわ。私、寝る前に錬金釜で作っておきたいものがあるの」
立ち上がったリシアに、俺は顔を上げた。
「リシア」
「倒れないわ」
リシアは先手の返事をすると、疲れを感じさせない足取りで老朽化した塔の中へと入っていく。
ディノがごろんと草地に横たわった。
「ふふ、レオルは心配性だなぁ。笑っちゃうよ」
あの魔力消費を見て不安になるのは、俺がおかしいのか?
古代には、俺の想像を超える人や猫が生きていたのか。
それともこいつらが規格外なのか。
「だけど今日のリシア、すごく嬉しそうだよ」
確かに、初めて錬金釜を前にしたリシアは子どものように夢中になっていて、その姿を見ていると時間が経つのも気にならなかった。
「まぁな。出来はともかく、暴発しか使い道がないと思っていた魔力で色々作れたんだからな」
「それもあるけど。レオルと一緒にいるからだよ」
意外なことを言われて、俺は黙り込む。
ディノと会う前に妙な悪癖に目覚めて、散々嫌がられることをした事実がよぎり、今更ながら後ろめたい気持ちになった。
……直そう。




