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最前線の街

近年稀に見る筆の進み具合。


街を出てから走り続けた結果、僕はとうとう最前線の街に到着した。随分ピリピリとした空気だ。大工たちは怒鳴り合いながら仕事をするし、街を駆ける兵士たちの顔には緊張がみなぎっている。うっかりしていると誰かにぶつかりそうな慌ただしい街を歩き、僕はこの街の冒険者ギルドに向かった。


ここでは有志の冒険者たちが魔族たちと戦っている。彼らの報酬は平均よりは高いが、危険と比べれば割りがいいわけではない。それでも人々のために戦っているのだ。


取り敢えず依頼を一通り見た後、ギルドを出ようとした。依頼の状況から大体の戦況を掴もうと思ったが、よく分からなかった。


「おい兄ちゃん、なんもせずに帰んのか?」


目ざとく見つけたおっさんが絡んできた。


「この街に臆病者の居場所はねえぞ」

「そうですか」


相手にする気はない。彼らに誇りがあるのは分かったし、僕が今日何もする気がないのも確かだ。


「おい待てよ!」


肩を掴まれた。僕は振り払うこともせずに身をまかせる。


「この街に何しにきたんだ。てめえ」

「何って、戦いにですよ。あわよくばこの戦争を終わらすために」


ここで過ごす分の金は持ってきている。ギルドで依頼を受ける気はなかった。


「なら依頼を受けな。力を示さねえ奴に戦う資格はねえ」

「なら……これを受けます」


誰も手を触れていなかった一枚の依頼書を彼の前に差し出した。


「おい、冗談は程々にしろや」


その内容は「大魔王の討伐」。


「冗談は苦手なんですよ。この依頼は僕が、僕達が達成すべきものだ。誰にも譲れない」

「本気かよ……お前」


僕はそう言い切ると踵を返してギルドを出た。今日は宿をとって寝よう。明日から情報収集だ。


ーー


街にきて二日目、街の北側では今日も魔族との戦闘が起きている。最近押され始めているらしいが、なんとか持ちこたえているようだ。午後から戦闘に参加してみようか。と、僕は考える。


僕が一番欲しい情報は大魔王の能力だ。魔王たちはそれぞれ特異な能力を持っていた。「憤怒」は身体強化、「色欲」は生物の改造などだ。八大魔王は全員持っていると考えていいだろうが、大魔王は一際強力な力を持っているだろう。


とにかく僕は兵士たちが集まる酒場にいる。どうも彼らから得た情報をまとめるに、魔王は戦場に出ているが、大魔王は一度も姿を見せていないということが分かった。残りの魔王は五体。二体は僕が倒し、一体はここで勇者が相打ちで殺したようだ。


「うーん、今この街に勇者は僕一人か」


ここにいた勇者は死んでしまったし、もう他の勇者はいない。魔王は大して強くないから問題ないが、一般の兵士にとっては十分脅威だろう。少し減らしておく必要がある。戦線の維持を出来るくらいにして、あとはここの人たちに任せればいい。一条たちが到着したら攻勢に出れば勝利も近い。多分。


街の様子を見るに、兵士たちに限界はまだ来ていない。人間の最大戦力を投下しているのだから当然と言えるが、なかなかの強者もいるんだろう。僕は戦場の様子を見るために、城壁の向こうへ向かった。


ギルドカードを見せればあっさりと最前線へ入れた。兵士たちが隊列を組んで戦っている場所から少し離れたところに冒険者たちの戦場がある。少数ごとに連携して戦っているここでは、まあまあの戦果を挙げていると聞く。


久しぶりの戦場だ。否応でも気が高ぶる。地を埋め尽くすほどの魔族が見える。僕は紅雪を呼び出すと跳躍し、戦場のど真ん中へ着地した。僕に気づいた魔族が襲いかかってくる。遅い。昼食後のまったりした気分を崩すことなく斬り捨てた。


「今日は貢献してみようかな」

「死ねぇぇぇッ!」


次々と集まってくる魔族を全て一刀で斬る。剣を砕き、槍をいなし、矢を避け、魔法を斬る。連携など気にしなくていいこの戦場は僕に合っている。兵士に混じって戦っていればこんな自由には出来なかっただろう。


周りの冒険者たちも最前線というだけあってそれなりに強い。ただの魔族に遅れを取らない。気がつけば戦線は大分上がっていた。


それでも僕は止まらない。冒険者たちを置き去りにし、闘争の空気に酔ったように僕は走る。すれ違う魔族の首はことごとく地に落ちた。周りには魔族しかいない状況になったが、刹那の後にはすべて死体となった。ただひたすらに刀を振るい戦場を駆ける。僕の顔には自然と笑みが浮かんだ。


しばらくして、僕の服は返り血を浴びて真っ赤に染まっていた。交代の冒険者も来たので、僕は城壁の中へ帰ることにした。


「おいお前、すげえ強いな!」

「何体倒したんだよ」


共に戦っていた冒険者たちが褒めてくれる。彼らに連れられるまま、僕はギルドに入った。


「おう帰ったか……てめえもか」


昨日絡んできた中年男が僕を見て言った。周りの冒険者たちは口々に僕の戦績を褒めたてた。正直恥ずかしくて聞いてられない。


「口だけじゃなかったみてえだな、歓迎するぜ、兄ちゃん」


ここにきて友好的になった彼は手を差し出してきた。僕もその手を力強く握り返しておいた。


「水月です」

「ローゼスだ。一応ここのマスターだ」


結構えらい人だった。


「ミヅキ……聞いたことがあるな。確か、ファーナシアのギルドにえらい化け物がいるって噂だ。『月下狂人』つったか?」

「あ、それ僕です」


誠に遺憾ながら僕である。そろそろ勇者っぽいホーリーな異名が欲しいものだけど、ここでもその夢は叶いそうにない。


「おおお、頼もしいぜ」

「俺も聞いたぜ」

「笑いながらモンスターを殺しまくったっていうあの?」


なにが「あの」だ。やめてくれよホント。


悶々としているうちにローゼスさんを交えて酒盛りが始まったので僕も加わることにした。大半が僕の戦いぶりで盛り上がるわけで、僕は苦し紛れに話をそらした。


「他にも腕利きの冒険者はいるんじゃないですか?」

「おう、お前と同じで南の方からきた奴がいてな」


ほろ酔いになった冒険者たちの舌はよく回る。聞けば戦場に出る時間はシフト制になっていて、大方の担当は決まっているらしい。二十四時間攻めてくる魔族を抑えるのにはそうするしかないのだ。コンビニのバイトに似ている。僕が戦場にいたのは昼の時間帯。今は夕方の担当が戦っている。


「ちょうど今戦ってると思うぜ」

「『閃姫』フェイス、大物が来たもんだぜ」


あ、知り合いだったか。闘技大会の折に出会って以来、会うこともなかったが、挨拶ぐらいはしておこうか。


適当に食事をとってから、さらに盛り上がりを見せてきた酒盛りから抜け出して、僕は再び戦場に向かった。顔とか忘れられてたらショックだな。


城壁の向こうから聞こえる戦場の音に血が熱くなる。漂ってくる血の匂いは足を早めた。いや、戦いに来たわけじゃなく、フェイスの顔を見に来ただけだと自分に言い聞かせてながら城壁をくぐり抜けた。


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