「怠惰」アニク
遅れました。
もうそろそろ夕焼けになりそうな空を見上げながら僕は戦場を歩いていた。昼に大分押し返したお陰でここら辺には魔族がいない。冒険者がいる場所に行くと、昼とは違う顔ぶれが戦っていた。昼の連中は今頃いい気持ちで酔っ払っているだろう。
なぜだか夕焼けに郷愁を覚えながら彼らが戦っている様子を眺める。戦争中に夕焼けを見上げたところで風情もクソもない。カラスの鳴き声なら歓迎するが、聞こえるのは断末魔ばかりだ。
「うあああああああ!」
「紅雪」
冒険者の間を抜けてきた魔族を切り捨てた。昼の反省を生かし、返り血を凍らせる。そうすれば服も汚れなくてすむ。そんなライフハックを披露したところで、フェイスを探すことにした。知り合いが近くで死んだともなると寝覚めが悪い。
幸い彼女は目立っていた。他の冒険者とは一線を画する剣技をもって魔族を屠っていた。あの様子なら心配ないだろう。ある程度戦況が落ち着くのを待ってから彼女に近づいた。
「や、久しぶり」
内心忘れられているんじゃないと冷や冷やしながら声をかける。え?誰だっけ?とか言われたら涙を流して一吾の元に帰ろう。うん。
「おお、ミヅキじゃないか!」
ありがとう!僕は感動のあまりフェイスの手を取った。正直、闘技大会の時しか関わりがなかったから不安だったんだ。
「ミヅキも戦争に参加しにきたのか?」
「うん。そろそろ他の勇者も育ってきたしね」
「本格的に攻勢に出るか。道理で昼に魔族が大量に死んだわけだ。ミヅキが来ていたんだな」
「……あれはただ調子に乗っただけと言うか」
「戦闘狂は相変わらずだな」
フェイスは呆れたように笑っている。元気そうで良かった。今日のところは帰ろうとフェイスに別れを告げた時、少し遠くで冒険者たちの悲鳴が聞こえた。
「なんだ?」
「強い魔族が一体来たみたいだ」
ようやく手応えのあるのがきたか。ただの魔族では置物を切っているのと変わらないので飽き始めたところだ。
「行ってみようか」
「ああ!」
フェイスもやる気のようなので、二人で走り出した。見えてきた光景は異様だった。
不自然なほど遅い動きの冒険者たちを一方的に殺していく魔族。魔法かなにかで動きを遅くされているに違いない。試しにここから魔銃を撃ってみるが、弾は魔族の手前で遅くなった。
「固有魔法か?」
「そうだね。魔王の一人かもしれないよ」
固有魔法の正体を探るため、さらに掃射で弾を撃ち込んで見る。いくつもの弾丸が飛んでいくも、やはり魔族の前で遅くなる。ハエでも止まりそうな弾速では当たるはずもない。
「チッ、新手かよ。めんどくせえ」
立っていた魔族はこちらを見て吐き捨てるように言った。フェイスは緊張の面持ちで問いかける。
「何者だ!」
「八大魔王が一人、『怠惰』のアニク」
やっぱり魔王だったか。登場してすぐに退場させるのは心苦しいが、運が悪かったと諦めてもらおう。
「ミヅキ、私にやらせてくれないか」
そう言われた時の僕の顔はきっと不満に満ちていたのだろう。フェイスは頼み込むように僕の顔を覗いた。
「魔王相手にどこまでやれるか試してみたいんだ。そのために来たんだからな」
「わかった。任せるよ」
渋々任せることにし、僕は少し離れたところに移動した。仕方ない。解説キャラとして見届けてあげよう。
「『閃姫』フェイスだ!いくぞ!」
凄まじい加速を斬りかかる。細剣が風を切ってアニクの喉に突き刺さらんとした瞬間、アニクは上体をそらして避けた。だがフェイスも並の剣士ではない。剣先を下に向けて不利な体勢のアニクに打ち込んだ。
「やりやがる!」
アニクは腹を貫かれていた。しかし魔王はそれでは死なない。僕の時は首を落としても生きていた。
あれ、今気づいたんだけど、剣士と魔王ってめちゃくちゃ相性悪くない?僕は紅雪で無理やり殺せるし、勇者筆頭たる一条の聖剣も光で消し飛ばせる。普通の剣士では決定打に欠ける。
「フェイス!ただ切っただけじゃ殺せないぞ!」
「なんだと!?」
とりあえず助言を送ってみたが、フェイスは驚いている。本当に大丈夫かな。
「チッ、本気だすか。『サボタージュ』!」
途端、フェイスの動きが緩慢になる。危うくなったら手を出せるよう、僕は紅雪に手をかけた。しかしフェイスはさらに加速した。普通の人より少し速い程度だが、それでもすごい。
「ハッ!なめんな!」
フェイスの剣とアニクの爪が火花を散らした。だが技量ではフェイスが優っている。即座に体勢を崩されたアニクに、フェイスは無数の刺突を繰り出した。その一つ一つに魔法を纏わせている。
「かはっ、てめえ……」
身体中穴だらけのアニクが呻いている。すでにサボタージュの魔法は解け、フェイスは息を切らしながらも立っていた。
「はあ、はぁっ、これが私の全力だ。もう魔力もからだ……」
今にも倒れそうだったので、僕は駆け寄って支えた。そして地面に座らせると、アニクに向き直った。
「まだ生きてるんだろ?なら僕とやろうよ」
フェイスは強かった。一吾たちよりもはるかに強いだろう。でも相性が最悪だった。サボタージュに対抗するための加速に魔力を割いてしまったため、最後の刺突が甘くなってしまったのだ。あれがなければアニクは死んでいただろう。
ここでとどめを刺せばいいわけだけれども、それではつまらない。僕はアニクが再生するのを待った。
「戦争に参加して一日で魔王に出会えるなんて、今日は運がいいね」
「ケッ!こんなとこで死にかけるなんて、最悪の日だ」
「ところでなぜ魔王たる君がこんなところに?」
再生するのを待ちながら、気になっていたことを問いかける。すると答えは頭が痛くなるようなものだった。
「昼頃にここでウチの軍勢が壊滅したっていうから、めんどくせえがその調査にきた」
「……」
ま、まあ運良く自分で尻拭いでいるからいいよね?今ここでこいつ殺したら次の魔王も来るかもしれないけどいいよね?
僕は自分に言い訳をしながら刀に手をかけた。再生しきったアニクも構える。
「そこの姉ちゃんはもう動けねえだろ。お前を殺せば俺も帰れるってもんだ……『サボタージュ』」
「いや、君は死ぬよ。今の内に最後のセリフを考えておいた方がいい。『修羅』」
動きが遅くなるのに対抗するには、さらに速く動くのが手っ取り早い。僕は修羅化した上で、最速の一撃を繰り出すため、居合の構えをとった。
「てめえが死になッ!」
「雪花・一輪……!」
交錯した僕たちは、一瞬の静寂の後、一方の首が飛んだ。当然アニクの首だ。切断面から吹き出る血は紅い雪となり、舞い散る花のように地を染めた。
音を立てて倒れた身体はやがて芯まで凍りつき、そして砕け散った。
「最後のセリフ、言う間も無かったね」
少しは面白い相手だったが、僕とは相性が悪かったみたいだ。気絶寸前のフェイスを抱えて僕は街へ帰った。
まさかの連続投稿に自分が一番ビックリです。この調子でいける!……かな?




