不穏な相談
遅れに遅れ、やっと更新です。
扉が開かれる少し前
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僕は資料室のような場所にいた。まだ転移の魔法陣は使えそうにないので、本棚を見ていた。
一冊の背表紙に触れたところで、手を止める。
「む、これは駄目だな。トーマ、ここの本は触らない方がいいよ。」
「なんで?」
「なんか封印されてる。」
触った瞬間に判った。これはヤバイ。こんなのを封じてるなんて、賢者って何者なんだ?
慎重に本から手を離すとトーマの隣に座った。
「そう言えば、紅蓮亭で打って貰ったていう刀、まだ見せてもらってなかったな。」
「そうだっけ?はい」
トーマから腰にさげた刀を受け取る。
「うん、いい刀だ。やっぱりいい腕してるなあの人。」
銀色に輝くこの刀はトーマの体に合った長さだ。いいものを作って貰ったな。お代は僕が払うらしいが。
「手入れをちゃんとするんだよ」
「はーい」
「…じゃ、寝よう」
「は?師匠?」
「何?」
「いや、もうそろそろ魔法陣使えるんじゃないかなーって」
見ると、魔法陣は光り出していた。
「乗ってみるか」
「おう!」
僕達は恐る恐る魔法陣の上に乗る。するとぐにゃりと視界が歪み、僕達は階段の下に戻っていた。
「やっぱり階段だよね…」
円柱状塔の内壁に沿って設置されている階段は依然としてあった。
「師匠、登るしかねーよ。諦めようぜ…」
十歳の少年に諭されるなんて…惨め過ぎだ。この世界にいた時間を入れると僕は22歳な訳だから、もういい大人なのに。
…僕は諦めない。
「よし、ちょっと動かないでね」
僕はトーマを小脇に抱えると、金陣を展開した。もう意地でも階段なんて使わない。
次々と金陣を展開し、とうとう僕は扉の前まで辿り着いた。
トーマを下ろすと、僕は勝ち誇った気分で扉を開けた。
まず目に入ったのは一悟、白沢、森山だ。あれ?エヴァンはと思って部屋を見渡すと、目を見開いた老人がいた。賢者か。僕が思うと同時に魔法が飛んできた。指一本動かさずに賢者が魔法陣を展開したのだ。僕も対抗して目線だけで金陣を展開した。魔法が金陣に当たって砕ける。
そこで賢者はやっと口を開いた。
「本物だよ…」
本物?僕は不思議に思い、賢者の顔をまじまじと見つめる。
ああ!今度は僕が目を見開く番だった。
「まさか千年前の知り合いに会うとはねえ。変わってないねえ。」
口調は年相応の物だが、賢者の顔にはかつての仲間の面影が確かにあった
「君は大分変わったね、レイナ。竜人は長命とは聞いたけど、千年生きるとは。」
「あたしもビックリさ。それにしても懐かしいねえ。あの5年間は昨日のことのように思い出せるよ。」
「『あたしをさらって!』なんて言ってた君ももう千年か…」
「恥ずかしいからやめておくれよ…」
「なんだ?その話」
興味津々という顔で一悟が聞いてくる。あの頃のレイナはこんな落ち着きのある感じじゃなかったなあ、と思いつつ真顔に戻る。
「その話は後でしよう。なにか話があるんだろ?レイナ」
「流石にわかるもんだねえ。じゃあ遠慮なく言わせてもらうけど」
そこでレイナは一旦言葉を切った。僕は少し身構える。
「水月、あんた全盛期の力なんか取り戻してないだろ」
「え?まさか」
昔を知っているレイナに言われると自信が無くなってくる
「話は聞いたよ。腕を切られたんだって?魔王に」
「まあね」
「あたしも魔王の一人を見たことがあるんだけどね、三下も良いところだよ。」
「もしかして、僕の記憶、完全には戻ってないのか?」
「そりゃあね。いくら奇襲っていっても、水月が腕を切られたなんておかしいからねえ。」
「どうしようか…」
「でさ、相談なんだけど、あたしの研究に付き合ってくれないかい?」
「研究?」
「そうそう、記憶も戻るかもしれないし」
僕はレイナの笑顔に不吉な物を感じる。
「そ、そうだね。で、でもいいんじゃないかな?」
「ほう?」
「今回は一条って奴とかいるしさ、魔王はそいつらに任せて、僕はそんなに頑張らなくても…」
「へえー本当にそう思うのかい?シュルツやディランが聞いたらなんて言うかねえ」
「ぐ…」
あいつらは腑抜けだとか言って来るだろう。それは癪だ。そもそもレイナに説教されているのが癪だ。
「もう一度来ちゃったんだ、この世界に。腹くくりな。」
「はあ…いつの間に口が達者になったんだか。まったく、わかったよ。せっかくこの国をつくったのに、壊されるのは癪だ。僕らが命を賭けたあの5年は、無駄にさせない。」
「フン!相変わらず世界って言わないねえ。」
「僕らが戦ったのは世界の為なんかじゃないだろ?」
僕らはそんなに立派じゃなかった。
「そうなんだよねえ」
世界を救ったっていうのは、ただの結果だ。
「話を戻すか。で、実験っていうのは?」
「水月はそっちの部屋で着替えときな。その間に準備してくる。」
ー
「レイナ、この服って…」
部屋にあった服に着替えた僕は首を傾げていた。
「千年前に着てたやつじゃないか」
「よく持ってたね」
「お、水月、袴じゃねーか」
そう、袴だ。前回、素振りの最中に異世界に来た僕は、袴に木刀という出で立ちだった。そのあと胴着を小袖に変更し僕はそれを戦闘着にしていた。なぜ変更したかって?その方が武器を隠し持てるからに決まってる。ちなみに、僕の像を見たら僕は鎧を着けていた。その方が「勇者らしい」んだろう。
「その方が記憶も戻るかもしれないしねえ。」
「はあ…」
「じゃ、下に行くよ。」
レイナが魔法を発動させると、僕とレイナは階段の下にいた。
見覚えのある本を、レイナが取り出す。資料室にあったやつだ。嫌な気配がする。
「これに封じてる奴と戦って、倒してみな!」
レイナはそう言って本を放り投げた。
禍々しい光が溢れ出した。




