ああ、その人ね
闘技大会で色々あってから数日が経ち、僕は孤児院に来て、トーマに修行をつけていた。
「師匠、俺も刀にしたいな」
「なんでまた」
僕は刀の方が得意だが、王宮でちゃんとした剣術の指導受けていたので、剣術の方が教えやすかったのだ。
「いや、この前すげえ人を見たんだ」
「誰?」
僕の記憶には刀を使う「すげえ人」はいない。
「スイゲツだよ。俺もあんな風になりてえ!」
「あ、その人ね」
記憶にない訳だ。僕なんだから。
「いいんじゃない?」
「よしゃぁぁ!」
「ただし、指導が下手でも文句を言わないこと」
「お、おう……師匠、失敗する気満々じゃねえか」
当たり前だ。トーマが目を輝かせていたので、非常に断りづらく、承諾してしまったが、僕は教えるのが苦手だ。
「じゃ、明日から木剣を木刀にチェンジで」
「イェーイッ!木刀!木刀!木刀!木刀!」
「なに騒いでんだ?」
声が聞こえたのか、他の子供と遊んでいた一吾が来た。
「トーマが刀を使うって言うから教えることにしたんだ」
「まじで?俺には教えてくんなかったのに?」
「断りづらかったんだよ」
「どうせ俺は見込みなしですよ……」
一吾はいじけてしまった。めんどくさい奴。
「わかったわかった、一吾にも気配関連で色々教えるから」
「しゃぁぁ!」
まさか今のいじけたフリだったんじゃ……
「ご飯できたわよー」
森山の声が聞こえたので、僕たちは食堂へ向かった。
ー
満腹状態になり、食後の運動がてら一吾に稽古をつけることにした。
「本当にこれ付けてやんのか?」
一吾は目隠しを巻いた状態で剣を握っている。
「視覚を塞ぐと他の感覚が鋭敏になるでしょう?まずはそこからだ」
「いや、結構最終段階っぽいんだけどコレ!」
「まあまあ、取り敢えずやってみよう。」
そう言って僕は木刀を振りかぶった。
「メインは聴覚だ。風を切る音、地面を蹴る音、息遣い、果ては体の内部の軋む音を材料に、敵の動きを割り出せ」
一吾に向けて容赦無く振り下ろす。
「いってぇーッ!」
「最初はそんなものだよ。ほい、次」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「次!」
「いやぁぁぁぁ!」
「次ッ!」
「ブホォォ!」
「はい次ィ!」
「なんでちょっとノッてきてるんだよぉぉぉぉ!」
ー
「いてっ」
しばらくやると、一吾は慣れて来たようで、ダメージを抑えられるようになって来た。剣で受けれるようになるのはまだ先だろう。
僕は少し変化をつけて木刀を振るった。
「おーい、ミヅキー!いるかい?って、ええ?」
声がした方を見ると、エヴァンが目をパチクリさせていた。この光景ははたから見れば、目隠しした人をボコボコにしているだけなので、僕は言葉に詰まる。
「ほら、あの〜気配感知の修行だよ」
「へ、へぇー、そうなんだ。」
「ところで、今日はなにしに?」
「ああ、パナケアって薬を買いたいって話をしたろ?」
確か母親が病気で、薬代に金貨百枚必要だと言っていた。闘技大会の優勝賞金、金貨百枚は僕が貰ってしまったので申し訳なく思う。
「賢者様が作っているらしいね」
「そうなんだけど、直接貰いに行こうと思って」
「え?出来るの?」
「うん、ファーナシスの外れの森に住んでいて、そこに行けばくれるらしいんだ」
「……簡単じゃないんだろう?」
金貨百枚はかかる物が直接行けばただで貰えるなんて、裏があるに違いない。
「その通り、賢者様の家まで辿り着けた人はほぼいないらしい」
「で、辿り着ければただでくれると」
「そうなんだ。で、暫く王都を離れるから挨拶しに来たんだ」
「それは、ご丁寧にどうも」
「いやいや、だいぶ世話になったからね」
僕がスイゲツだと言うことはエヴァンにも話してあった。
「じゃあ、気をつけて」
「うん」
「ところで、賢者ってどんな人?」
「えーと、気まぐれ、かな。出回ってるパナケアも賢者様が気まぐれで売っているらしいし。」
「成る程」
「あ、あとすごい長生きなんだ。千年は生きてるらしい」
「なんだって!?」
もしかしたら知り合いかもしれない。
「エヴァン、僕も賢者のところに行く」
「え?」
「よし、一吾、白沢、森山、準備だ!」
「え?え?」
「エヴァン、よろしく」
「あ、ああよろしく……」
こうして僕は賢者に会いに行くことになった。




