事後処理
僕は走りながら右手を開閉する。問題なく動いた。暫く安静にしておけば、激しい動きに耐えれるくらい回復するだろう。観客席に跳び上がり、修復されていた結界を再び砕く。
「探すべきは結界を張っている魔導師か」
魔族は全員僕の忘却によって無力化したので、それは他に任せても大丈夫だ。
「水月!無事か!」
魔導師を探していると、倒れ込んだ魔族達の合間に一吾を見つけた。見た所、疲れてはいるが、大きな傷はなさそうだ。
「一吾こそ、大丈夫?」
「俺は大丈夫だ。お前、腕は……え?なんで治ってんだ?」
「あれくらいならなんとか治る」
「冗談だろ」
「ところで結界を張っている魔導師知らない?」
「知らん、俺もう限界」
「おっと」
気が抜けたのか、一吾は倒れ込んできたので、慌てて支える。
「悪りい。寝るわ」
「わかった。」
……放置してもいいのかね。ま、いっか。
その場を離れようとすると、フェイスに出会った。
「スイゲツ!」
「ああ、フェイスか。魔族はどうだった?」
「全く、お前は呑気だな。まあ、大丈夫だ。国王はご無事だし、観客達への被害も少ない」
「そうか、よかった」
「それにしてもあのミヅキという男、何者なんだ?」
魔族の撤退とともに消えたのでミヅキも魔族側だと疑われてる。僕は本当のことを話すことにして仮面を取った。どうせ仮面も壊れてる。
「は?」
「水月だ。改めてよろしく」
「いやいやいや、ちょっと待て。スイゲツは?」
「僕だけど」
「は?」
フェイスの戸惑いは至極もっともな物なので僕は申し訳なく思う。
ー
事情を説明し、フェイスが落ち着いたところで質問する。
「それはさておき、結界の魔導師知らない?」
「私が保護しておいた。そろそろこの結界も消えるはずだ。」
「ああ、ありがとう」
「スイゲツ……いや、ミヅキ。一つ、聞いていいか?」
「ん?」
「なぜ隠してたんだ?」
「二重登録したかったから」
なぜ?って聞かれるとまずいな。僕はフェイスとの会話を切り上げると、国王のところへ向かった。
ー
「これは酷い。」
僕はVIP席の惨状に顔をしかめた。
実際にはこの程度の惨状は見慣れている訳で、顔をしかめたのは格好だけだが。とにかく、僕は折り重なる魔族の死体を避けながら、生き残っている者ー国王と騎士団、それと一条の元へ行った。
「無事でしたか?」
「おお!ナルセ!よく来てくれた」
「ご無事そうで何よりです」
「うむ、イチジョウがよくやってくれた」
「よかった」
「いえ、それも俺をここへ連れて来たスイゲツという男のお陰です」
一条も忘却にバッチリかかっているが、ばらすつもりはない。
「では、報告を」
「うむ。お前達、極秘事項だ。下がっておれ。イチジョウも、ゆっくりと休んでおいてくれ」
国王と二人きりになり、僕は口を開く。
「やはり水谷は魔族側でした。幸い、騎士団も魔法師団も準備をしていたので被害は少ないですが。」
「そうか」
「それと、今回魔王と名乗るものが2名現れました。一人は処理しましたが、もう一人は逃げられました」
「うむ、お主本当に何者だ?」
「ただの学生です」
僕はVIP席を出た。
ー
試合場に戻ると、怪我人達が担架に乗せられ、運ばれていた。傷の浅い人が率先して動いている。
「ケヴィン!大丈夫?」
丁度ケヴィンが運ばれているところだった。顔色は先ほどより大分良くなっている。僕は少しホッとする。まあ腹を刺されたくらいで死にはしないと思っていたが。
「ああ、結構ざっくりいかれちまったが、なんとかな生きてる」
「よかった」
「それにしても、あいつはなんなんだ?」
「水谷か?」
「お前らの仲間なんじゃ無いのか?」
「さあ、どうなんだろうね」
僕はクラスメイトというものをどう表現すればいいのかわからなかった。
「?なんだそりゃ。じゃあ、またな」
「お大事に」
ケヴィンは運ばれていった。
それを見送ると僕も帰路に着いた。一吾達は後から来るだろう。
ー
「ただいま〜」
「ただいま……」
「腹減った〜」
僕が夕食を作っていると、一吾達が帰って来た。
「おかえり」
三人とも疲れているようで、ふらふらと食堂の椅子に着いた。僕は丁度出来上がったオムライスを持っていく。
「オムライスか!」
オムライスは一吾の好物だ。今日は大分奮闘していたので作ってみた。
「ナイフを使って卵を切るこの感じ、大分凝ったわね」
「まあね」
このオムライス、なんとオムレツ型の卵をナイフで切ってとろっとさせるタイプである。
難しいが成功するととても美味しい。
「うめー!」
「美味しい」
1日を振り返り、大分働いたなと思いながら、僕も卵にナイフを入れた。




