まさか、ね
カラオケで喉をやられた今日この頃。
次の日の朝、僕達は準備を済ませ、王都の門の馬車乗り場へ来ていた。賢者の住む森の入り口までは馬車で行くので、馬車を頼んであるのだ。
ありがたいことに、見送りには紅蓮亭の店主や、孤児院の院長と子供達が来てくれていた。なぜかトーカはいないようだが。
「じゃ、行ってきます」
「おう、そいつ、大事にしろよ?」
紅蓮亭の店主は、僕の腰にある鴉を見て言う。
「もちろんです。」
「みなさんが居なくなると子供達も寂しがります。」
「ええ」
「ミドゥキー!バイバイ!」
「イチゴもバイバイ!」
全然寂しがってないんですが。
「馬車が着いたぞー!」
「では、しばらく出かけて来ます。」
僕達は馬車に乗り込んだ。
「なんか忘れている気がする。」
自分の家を離れる時、何か忘れ物をしているような気がするが、僕も今そんな感じだ。
「師匠ーッ!俺も行く!」
そんな声が聞こえた。小さい影が馬車に乗り込んでくる。
「え?トーマ?」
「ミヅキさん、トーマをよろしくお願いします」
院長が深々と頭を下げて来た。
「まさか、ね」
「おい!ナルセ!そいつの刀打っといたから!帰って来たら金払えよー!」
紅蓮亭の店主もそう叫んでくる。
「いやいや、冗談だと言ってくれ」
「よし!出すぞ!」
僕の嘆きを連れて、馬車は出発した。
「本当について来るの?」
僕がいれば危険では無いと思うが、万が一ということがある。
「うん!院長がいいって言ってたぜ!」
「ジーザス」
僕は現実から目を背け、窓の外を見た。
「あ、一条じゃないか。」
隣を走る馬車に、一条の姿を見つける。
窓越しに声をかけると、あちらも気がついたようで窓から身を乗り出して来た。
「成瀬か。あと佐藤も白沢も森山も。」
「うん、一条はどこに行くんだい?」
「何故か神聖国家から招待を受けたから、大山と清水と鈴木と柿崎と野村で行くことになったんだ。」
「随分と大所帯だね。」
「ああ、そうだな。」
「じゃあまた」
「待て」
顔を引っ込めようとすると、一条から制止の声が聞こえた。何かを悩むような顔をしている。
「何?」
「強くなるには、どうすりゃいい?」
僕は馬車の中をチラリと見て答えた。
「師匠でも見つければ?」
「そうか」
そういう問題では無い、一条はそういう顔をしていた。
ーー→
適当なことを言って引っ込んだ成瀬を見て、一条は溜息をついた。
「なんか、あいつは余裕があるな。」
羨ましげに一条が呟く。
「ああ、昔から成瀬はそうだ。」
「昔から?」
「中学の頃だ。剣道の大会でよく見たが、いつも余裕を持ってる感じだったよ。」
清水は懐かしむように言った。
「俺もあれくらい余裕が欲しいな」
「まあ、一生懸命な一条もいいと思うぞ?」
「そ、そうか?」
そう言いながら一条は数日前を思い出す。
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