嫌いって....じゃあ私も嫌いですよ!②
「アン!」
頭の中に、あの時の光景がまた流れ出したとき、私は肩を揺すられました。
揺すったのは隣に座るアクセルさんでした。
アクセルさんは真剣な顔つきで私を覗き込みます。
「どうしたのですか?具合が悪そうですけど.....」
私はアクセルさんのお陰で、意識がこちら側に向いてきました。
あの光景は実体験したのが私じゃなく、私は見ていただけですが、こんなにも魂を揺さぶられる程トラウマになっているとは思わず、勝手に体が震えてしまいました。
「ぁ.....ぅ」
なんとか喋ろうとしますが、体が震え、カチカチと歯がなり、声が出ませんでした。
『ダメですぅ!落ち着くですよぉ!!私まで引っ張られるですぅ』
半精霊の特殊体質な私は、現在はルシャが半身.....つまり、シュレイさんなら花、ミストレニア様なら霧となどが存在するのですけど、感情のブレはダイレクトに伝わるようで、光の玉となったルシャの光源が激しく点滅を繰り返していたのです。
『.....が、.....ぅ』
ルシャの声が段々と遠くに聞こえ、私の意識も堕ちそうになってきました。
心臓は飛び出すのではないか、と思えるほどバクバクで、体は凍ったように動きを止めてしまっている状態でした。
視界が霞んできたとき、電流が走ったような痛みを右手に感じ、反射的にその場から動こうと体が勝手に反応しました。
「いっ!?」
痛みがなんなのか視線をさ迷わせると、アクセルさんが針が付いた筒を.....注射器を持っているのに気が付きました。
「な、な、な、なにするんですか!!」
「パニック症状を起こしてたので覚醒薬を使ったまでですけど?」
確かに打たれてから意識がはっきりしてきましたが、もっとこう穏便なやり方は無かったんですか!
助かりましたけど、でも、納得いきません。
そもそも何を打ったって言いました?
「か、覚醒薬って、危ない薬じゃ.....」
打たれた右手を引っ込め、注射器をもつアクセルさんからじりじりと距離をとろうとします。
「ん?いや、そんなわけないでしょ?」
「そうですよね」
注射器を魔女帽の中に入れ......え!?
魔女帽の中.....え!?
「なにをバカみたいな顔を.....ああ、薬に副作用なんてないですよ」
「そうじゃなくて!それも気になりますけど、でもそれ.....」
なんていう異次元ポケット.....いや、帽子!!私使えませんかね?
そうと決まれば、帽子についてレクチャーを!!
指差す私はもはや数分前とは打って変わって元気を取り戻し、好奇心のままに突き進んでいたのです。
このとき私は、さっきまであったこと、トラウマを思い出していたことを忘れていました。
アクセルさんまさか、そこまで計算してないでしょうけど.....
「アクセルさんはアイテムボックスとか無いって言っていたのに、帽子からアイテムなんて!!」
「ちょ、さっきは死にそうなくらいだったのに.....まぁいいですよ。
帽子についてはノーコメントです、さすがにこれは緊急時しか使いませんからね、しいていうなら切り札ですか....多分そういう扱いですよ」
「ええええーーーー」
ということは私が手に入れても使えないのですか.....しょっくです。
切り札.....いい響きですね。
......あれ?
―――――――――――――――――――
しばらくして、私は自分がおかしくなっていたことに薄々気が付きました。
なんか可笑しなテンションになったのは薬のせいですか?そうでしょうね。
段々と落ち着いて来ましたけど、帽子より.....なにより、今の現状はどうなんでしょう?
何してましたっけ?私は記憶トリップで死にそうになった所を、アクセルさんに助けてもらいました。
じゃ、みんなは.......
私は周りを見回します。
場所は、なにもない平地。
弾ける焚き火。
その場にいるのはアクセルさん、シユウさん、私とルシャ、黒目黒髪の少年、アサギリさんの5人。
全員の視線は私に......ってそうか、さっきの暴走を見られてしまうとは......
私は重圧から逃れようと必死に言葉を紡ぎました。
「ちょっと混乱していただけです.....忘れてください。あっ、アクセルさんのお陰で目もぱっちりですよ!」
私は思い出したトラウマで、気を失いそうになったなんて不覚でした。
「まぁ、アンだし.....よくあることですね」
「おほほほほ、いい肴ですわ!」
「.....トラウマなのか?.....知らなかったぞ」
アクセルさんはため息をつき、アサギリさんは大爆笑、シユウさんは顎に手を当てて考えている様子。
三人以外に視線を感じた私は、その方向へと視線を向けました。
その先には、先程まで身の内を話してくれた黒目黒髪の少年がいました。
少年の表情は、驚きにそまっていました。
「チビも、親は殺されたの?」
「そうで......え?なんて?」
私は、私より小さい少年に言われた言葉に、イラっとして聞き返してしまいました。
少年はキョトンとしたあと、素直に言います。
「チビ.....じゃん」
「な!?」
こいつ.....
「いいですか?私は確かに小柄ですが、これは植物魔法を掛けているからであって、貴方みたいに豆粒じゃありません、そもそも、あなたの父親は生きているんですから、早くそっちに帰ればいいじゃないですか!!」
「......うるさい、チビ」
こ、こ、殺したい!!
さっき、いや、私が取り乱すまで、私のことをビビってたのに!
何が原因ですか!?
やはり、取り乱したこと?
くっ、アサギリさんの服をつかんで放さないようなお子様に、暴言を吐かれるなんて!!
私と少年が威嚇しあっていると、アサギリさんが少年の頭をぺしっと叩きました。
「こら、遊んでる場合ではないのですわ」
「.....はい」
頭をおさえた少年は私に、お前のせいだぞ、という視線を寄越して来ます。
私は、口を手で引っ張り「いい~~~~」としてやりました。ちょっと気分がよくなりました。
お返しに少年に中指を立てられましたけど!
当然やり返しました!!
そんな不毛な争いをしていると、いままで黙っていた......呆れていたルシャの声が聞こえます。
『種撒いて放置タイプで、魔王との契約者.....多分父親は『ダンディライオ』な気がするですぅ、アンちょっと調べるのです、なので無茶はやめるですよ?』
私の体がいきなりダルくなり、疲れがどっと来ている感じがしました。
多分、ルシャが庭園に引っ込んでしまったのでしょう。
そのため、いままで補って貰った分の負担がどばっと来たのです。
ぐたっとアクセルさんに寄り掛かってしまい、しかも体を起こせませんでした。
「ぐぅうお......動けない」
「?なんか魔力が極端に減少しましたけど、何か魔法使いました?」
「使ってないです......よ」
私の体を支えながら、私の魔力の減少を感知したアクセルさん。
しかし、不運なことに私の魔力減少と同じタイミングで、アクセルさんの張った幻惑結界が破壊されるガラスの割れる音が響き渡りました。
「な!?結界が!!」
「出番が来たようですわ!!」
「やれやれだぞ」
「っっつ!?」
「ちょ、いまうごけなっ」
アクセルさんがひび割れていく夜空を見上げ、アサギリさんが颯爽と立ち上がり、シユウさんも槍を担ぎ直していました。そして、立ち上がったアサギリさんの腰元に張り付く少年と、アクセルさんの手でその場に寝かされる私。
あれ?少年と私の扱いって、足手まといってやつなんじゃ......
そんなことを考えていると、遠くから、どたどた、という足音と男達の声が聞こえました。
「おい、いくぞオラ!」
「へい、旦那!!」
「逃げ出したのは『魔王ユズ・サカキ』の一人息子だ!探し出せ」
「「「へい、全力でさ!!」」」




