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魔法想花の小さな庭園  作者: 流水一
新章ー大陸を歩くー『精霊の住み処』
93/105

実戦その②

「フゴ?」


目の前10mくらいの距離で、つぶらな瞳が私を捉えていました。

あの目に映るのは、自らを刈る敵対者が移ったでしょう。

自分達はなにもしてないのに!と、うるうるしているように思えてきます。

しかし、これも時の.....いえ、運命(さだめ)です。

どの世界でも、狩り狩られる関係は存在している筈、この世界でも例外は無いでしょう。

魔獣が人を襲い喰らうように、人もまた倒した魔獣の肉を食べる。

強いものが勝ち、弱いものは食料に成り下がるそんな真理。

故に、私たちも。

心の中でごめんねと呟きながら、せめて全力で戦う意思をもつ。

私は視線が合った魔獣アテブに向かって駆け出そうと―――。


「フゴゴオオオオオオオオ!!」

「いざ、参り.....って、ちょっとまぁぁ!?」


目が合った《アテブ》はクリリとした黒真珠のような目をハートマークにさせ、相対した私に猛ダッシュしてきました。

さながら、自動車の如く!


「フゴフゴフゴ!!」

「ちょっっ!?」


あっぶな!

間一髪、横に跳ぶことで正面衝突は避けました。


通りすぎた《アテブ》は体全体でブレーキを掛けつつ、しかし、けして愚直に止まることはありませんでした。体全体が再び生い茂る草で隠されますが、ガサガサいう音と草の揺れから推測するに、ブレーキを掛けながら、大回りに旋回していることが理解できました。再び突っ込んで来る予定なのでしょう。


「なんで!?なんで!無害って!?」


アクセルさんとシユウさんから、大したことのない魔獣だっていう話だったのに、めっちゃ大したことあるんですけど!!ぶつかったら只じゃすまないんですけど!!


「っ!」

「フゴゴオオオオ!!」


大回りが終わり、再び草の中から飛び出してくる《アデブ》。

今度もなんとかかわした。


ああ、また旋回に入っていますね。

ここまでこの魔獣が好戦的なら最初に教えてくださいよ!!

そんな思いを抱き、ここに「簡単よ?」と送り出したメンバーに殺気を乗せ睨み付ける。


しかし―――。


「え?なんで襲われてるのでしょう?」

「.......初めて見たぞ」

「アン、早く害獣をとっちめるのですわ!ギタンギタンに!!」


私が襲われている光景に、唖然と目を見開き固まる二人と、どこから取り出したのか黄金色に輝くレイピアを辺りかまわず、ピュンピュンと振り回して応援しているアサギリさん。


再び突進してきたピンクの魔獣をなんとかやり過ごします。


「っと、この!なんなんですか!?この状況!」


声を出来るだけ張り上げ、ちょっと離れたところにいる未だに思考が追い付いていない二人に聞こえるように言います。


「っあっと、不測の事態ですね、今助けます!」

「....うむ」


パチパチと瞬きをして、行動に移ってくれました。


そこからは、さすがAランクの冒険者。

アクセルさんが唱えた【ハイスピード】という速度上昇支援魔法を受けたシユウさんが《アテブ》の横っ腹にドカっと、槍を貫きました。


断末魔をあげながら、次第に動きが鈍っていく《アテブ》を見て、アクセルさんの元に文句を言いに向かいました。


「ちょっとアクセルさ―――」

「アン、不測の事態も切り抜けることが出来なければ冒険者としてやっていけませんよ?」

「いや、そうですけど私のランクHで―――」

「ランクなんか関係ありません、いいですか?冒険者というのは―――」


アクセルさんに文句を言おうとしたら、アクセルさんが私の頭を優しく撫でつつ、冒険者のなんたるかを説いてくれました。


「それに、槍で突かれれば一発で死ぬ程度の相手に、何を恐れていたんですか?」

「え?そ、それは情報と違うから慌てて.....」

「すべての情報が手元に手に入るとは限りませんよ、冷静に対処することが大切なのです」

「確かにそうですね」


不審に思いつつも言われることは間違っていない気がして、そうなると、私が慌てて回避しかしていないなんて冒険者としてダメダメな気がしてきました。そうですね、今度は対応して見せましょう!!


『.....うまく丸め込まれてるですぅ』

「え?何か言いました?」


私の周りを旋回しているルシャから呆れた感情が流れてきます。


―――――――――――――――――



場所を移動しつつ次の獲物を探して私たちは歩いていました。


「私は空間魔法が苦手で入れられるモノは10個が精々ですね」

「まぁ、適性がなければ使えませんもの、使えるだけですごいですわ」

「して、植物精霊足る主は幾つまで持てるのだ?」

「おほほほっ、数に限りはありませんわね!領域の広さの分だけ余裕ですわ」


シユウさんに聞かれたアサギリさんはドヤ顔をしていました。

シユウさんが倒した《アテブ》はアクセルさんのアイテムボックスに入れられました。このアイテムボックスは私はみんな全員が持っていると思っていましたが、違うようです。

話を聞くと空間魔法や領域持ちのみが使える特殊収納技術らしく、重宝されているみたいです。


「アンはどのくらい持てるんですか?」

「え?そうですね......」


次の戦闘に備え、頭に『メリーさん』を乗せ、肩には身長程もある魔改造『高枝伐りバサミ』を担いだ準備万端な私にアクセルさんが話しかけてきました。

因みにアサギリさんは私から2mは離れ近寄ってきません。

近寄ると嫌そうに離れていきます。

あの序列上位のアサギリさんが!!

【対植物】なんて強力なスキル!!


「アン?」

「え?あ、すいません」


私が黙ったために、アクセルさんは不思議そうにしていました。

いや、しかしですよ.....私の【小さな庭園】のことをどう説明したらいいのでしょうか......

庭園内上空を飛び回るエルシュさんとリコリスさんに聞くに少しずつ広がっているとか、言われましたし、前からレベルがあるから成長することはわかっていましたけど、今じゃ、どのくらいかなんて自分でも不明ですよ。


「アンの庭園は私達が20人は住めそうですわ、今のところですが」

「へ?精霊が住める?」


私が答えに窮しているとアサギリさんがアクセルさんの質問に答えていました。

しかし、武器のせいかアサギリさんは寄ってきませんけど......


「精霊を20も匿える領域.....神秘です解剖したい」

「っつつつ!?」


アサギリさんから言われた台詞にアクセルさん目が怪しく光り、背筋をゾッとさせました。


『あれ?誰か捕まってるですぅ?』


ルシャの台詞に私は足を止め周りを見回しました。

どうやらこのメンバーの中で一番索敵能力が高いのは私のようです。

これは私の半身を受け持つルシャの能力でしょう。

わたしの頭の中に、私を中心とした5km圏内の魔力振動を読み取れるコンパスがイメージ出来ます。

そこに、青い点滅している光と隣接するように赤い光がありました。

《アテブ》が赤で表示されていたので、赤が敵性、青が襲われているやつということでしょう。


「こっちに襲われている人がいます!」


私はみんなにそう告げ先を走り出しました。


「襲われる?こんなところでですか?」


アクセルさんは不審がっていましたが無理もありません。

今私たちは街道を大きく外れていますので、普通の人が魔獣が闊歩するここを通る筈ないからです。

同業者であってもここの魔獣は雑魚と言われているレベルみたいですね?

......雑魚に負ける私は―――


「うぬ、そうなると闇ルートか」

「あら?面白そうな展開ですわ」


私が感傷に浸っている内に私を追い越し、先に駆け出したシユウさんとアサギリさん。

たぶん、探知に引っ掛かったのでしょう。足取りに迷いは無く、わたしの脳内ポイントと同じ場所に駆けていきました。


「あ、リーダー!もう!」


アクセルさんは遠ざかるシユウさんに声をかけますが、シユウさんは森の中に消えていきました。

あれ?でも「加速の魔女」と言われるなら誰よりも早く向かっていきそうなものですけど......

隣を並走するアクセルさんを不思議そうに見つめます。


「アクセルさんは行かないんですか?」

「......きないのですよ」


ん?何て言ったのでしょう?

顔を背けてぼそぼそと言ったので聞こえませんでした。


それに若干アクセルさんの顔が紅くなった気が.....


「え?なんです?」

「っ!だから、私は索敵ができないのです!!」

「......え?」

「なにか言いたそうですね?」


アクセルさんは私をジトッと見つめてきます.....いえ、睨み付けてきます。

しかし、索敵出来ない魔女って奇襲され放題じゃないですか.....使い魔を出せば。


「先に言いますけど、私が召喚する使い魔も索敵出来ませんよ?」


じゃ、あれですか?視認したら、その名の通り高速で近づき、高速で魔法を叩きつける。

ってことですか.......


『と、当代の加速の魔女はバカなのですぅ』


ルシャの呟きがアクセルさんに聞こえなかったのが唯一の救いですね。


「こ、こっちです!行きましょうアクセルさん」

「なんかイラっとすることを言った気配が.....」

『索敵できねぇーのにバカなこと言ってるじゃねーですぅ』

「また!?」

「......いいから行きますよ」


アクセルさんはチラチラと周りを気にしつつ私の後をついてきます。


そんな私たちの更に後方.....ルシャの索敵能力の外から私たちをつけていた存在にはこのとき気づきようもありませんでした。



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