『理由と契約』
せっかく乗り気で自己紹介しようとしたところで、シュレイさんの後ろに佇むエルシュさんのせいで飛ばされ、不貞腐れた私は膝を抱えつつも、皆の自己紹介を聞いていた。
が、限界ってあると思いません?
「ちょっと、こら!もう。」
「不審......どうしましたか?」
「え、な、何でもないです御免なさい。」
「疑惑.....そうですか.....」
苦笑いをしつつしょうがないと肩を竦めるシュレイさんと、不思議そうに声を掛けてきたエルシュさんは、顔を真っ青にしてフルフル震える私が気になったのでしょうが、私はそこまで気が回りませんよ。
原因はここにいるメンバーにあります!
と大声で言いたいのですけど、言ったら殺されません?
私と皆さんの実力差なんて比べるまでも無く、ミストレニア様が隣で手を握ってくれていないと走って逃げてしまいそうだったんですけど......
そして、ミストレニア様の『順位』を聞いて、手を振りほどき、対面にいたシュレイさんの後ろに抱きつくように隠れたのは、ついさっきのことです。
「そ、そんなぁ。」
仰け反るようにショックを受ける薄紫の髪を持つミストレニア様は、周りをユラユラと周回していた霧の塊すら四散させるリアクションを取っていた。
「バカね、ミストレニア....これで貴女の信用も地に落ちたも同然よ!」
『おほほほ』と口に手を当て嘲るように笑うのはさっき紹介されたアサギリという女性だ。
アサギリは笑いながらツンツンと固まったミストレニア様をつついていた。
そんな光景に残りのメンバーは、生暖かい視線を向けている。
「アサギリはどこにいってもこれだもんなー。」
「仕方ありませんよ、アサギリですし。」
「戦いになれば、うふふ、飛び散る鮮血、叫びをあげる肉体。はぁはぁ。」
なんか一人怖いこと言ってトリップしてる御方が居たんですけど、目を合わせたくないのでシュレイさん越し、覗いたら、目があってドキッとしてしまいました。
「確認......これで全員紹介は終了と言うことで。」
「ちょっと、待てですぅ!」
自己紹介も終わり、本格的な話し合いに出る前に待ったの声を掛けたのは、綺麗な4枚羽根を持つ可愛らしい妖精だった。
「失礼.....ではお願いします。」
甲斐甲斐しく頭を下げるエルシュさんに満足したのか、妖精さんは上機嫌に自己紹介をしました。
ミニマムな胸を張って答える妖精さん。
「任せろです!おほん、」
咳払いをして注目を集める妖精さんはテーブルの上をクルクルと回りながら、丁度シュレイさんの目の前で止まりました。まるで、私に言い聞かせて、覚えて貰えるようにと.......そう考えると、今までの紹介も全部私に向かってヤっていたような.....
「そうですよね.....皆さん知り合いのマブダチですもんね。はははっ。知らないのは私だけ、どうせ、ハブのアンポンタンですよ。」
「私は....て、なに暗くなってるですか!?」
「き、気にしないで続けて頂戴。」
シュレイさんにそう言われた妖精さんは渋々続けます。
「私も、植物精霊の一人です!その名も......『幻妖花のルシャ』ですぅー。」
「え?植物?なの。」
「そうなのですよ!」
じゃじゃん!と自分で良い光のエフェクトを出す可愛らしさに看取れてしまいましたが.....今の私は判断基準が違います。ふふん!と仰け反る妖精の見た目のルシャをじっと見つめる。
「序列は?」
「うぅ!?言わなきゃダメです?」
ん?この反応は、もしや!
ここにいる精霊種と違って普通....
はっ!
「いえ、いいですよ。御免なさい、変なこと聞いて、序列なんて関係ないですよね。」
「アーちゃん!!ありがとうですぅ。」
ニッコリと微笑み優しく答える私はシュレイさんの後ろから出て、小さなルシャに手を伸ばしました。
私とルシャが手を握ろうとした瞬間、シュレイさんがボソリと言いました。
「でも、その子序列11位だけどね。」
「裏切り者が!!」
「なんでです!?」
手を取ろうとした手を勢いよく引っ込め、これでもかと睨み付けました。
ふわふわ浮いていたルシャが、こう、擬音的にいうと『ピピピピン!』と上下に振動したのち、浴衣のリコリスの対面に座、るナチュリオレのカラフルで派手な頭の上に、着地してへなへなとしているようです。
『どんまいだなー。』
『あらあら。』
『逃げ惑う動物のような、不安と恐怖の交差。はぁはぁ。』
みんなから励まされているルシャを見つつも、なんでここまで警戒するかというと......
みんなの自己紹介が原因で、その事実を裏付けるように懐かしむシュレイさんのせいでもある。
右から順にした自己紹介は簡略化すると、こういうものだった。
ミストレニア、序列7位、物理攻撃とか色々無効の人、。
ルナリア、序列4位、先の戦いでバカでかい粒子砲撃を行った一人。
アサギリ、序列8位、私が7位とうるさい、ちょっとKYぽい人。
リコリス、序列9位、戦闘狂にしか見えない浴衣のお姉さん。
ナチュリオレ、序列自分でもわかってない、植物精霊の中でも例外の人。
で、
ルシャ、序列11位、見た目妖精の子。
という感じだった。
私だって、順位なんか本来なら気にしませんけど、自己紹介の際にちょいちょい挟まれる昔話を聞いてしまうと、下手をしたら私も.....と思うようなことばかりです。故に警戒してしまうのはしょうがないことです。そう、しょうがないんです。
「ちょっと、アン!そう怖がっているようですが、貴女が盾にしている想天花だって、相当悪行をやって来たのですわ!」
「そうですね、懐かしいです。」
「そうなのかー。」
「うふふふ、天より降り注ぐ雷の鉄槌。すべてを飲み込む侵食の霧。ああ、あのときの人々の悲鳴。はぁはぁ。」
「ああ、そういえば、あれって2200年くらい前ですぅ?」
「おし、アンタ達しょうがなく緊急避難先に私の領域に入れてやった恩を忘れたのかしらね?そして、私があの『重傷者』の手当てをしている間に、アンの領域への門を勝手に開けてくれちゃって。」
ああ、そういうことですか。
どうやら、先の戦いの際に避難先になったシュレイさんの領域から、私の領域に繋がるラインを通って......
「そして、私の領域でハチャメチャバトルを.....」
「「「......」」」
ジトーと視線を皆に向けました。
さっと剃らされましたが。
あとシュレイさんは怖くありませんよ?おこらせなければ......
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「というわけです。」
「右に同じ。」
はぁ......自己紹介が終わった私たちは、なんでこんなことになったのかを聞いていたのですが、どうやら本当に緊急事態が起きていたようですね。
私がコンクレント城でリラさんそっくりの風の精霊に殺された同時告に、フルエンクでは、機械人を多数引き連れたワーズさんが、精霊とマスター20?というトップクラスの魔術師が戦闘をしているところに現れたのだとか。
ワーズさんにはシュレイさんが機械人しか使えないアーティファクト、【カシオペア】と【シリウス】
を渡してあって、それを使い捕まりそうだった、攻め込んでいたメンバーを回収したから、治療してやってくれ!と頼まれたのだそうです。
「その間俺らが時間を稼ぐ、アンタ達は結界を壊すんだ!!」
と......ワーズさん.....カッコいいじゃないですか。
「まぁ、結界なんてミストレニアが分解を仕掛ければ、なんとか壊せましたが......」
「そうだなー。シュレイなら解析済んでるから何時でも壊せたしなー。」
うんうんと頷くルナリアさんとナチュリオレさん。
......あの、精霊様方が何を言っているのか、私には分かりません。
「アン、か、勘違いしないで欲しいのだけど、あの場では相手の殲滅をした方がこの先有利になるからよ?けして、皆して久々の緊張感を楽しんでいたとかじゃないからね?」
言い訳がましく言うシュレイさん。
「......ほんとですか?」
席を無理矢理変え、シュレイさんの隣に座り直した私は、シュレイさんを嘘臭そうに見つめます。
するとシュレイさんが何か言う前に、アサギリさんとリコリスさんが声をあげました。
「え?あれは久々の対人戦で私が目立つために結界を解かなかったのでしょう?」
「戦乱の最中、狂乱の宴。血飛沫をあげる有象無象の人間達.....はぁはぁ。」
自身の豊満な胸に手を当てるアサギリさんと、幸悦の表情のリコリスさん。
やだぁ、この二人ベクトルは違うけどなんか同じ空気を感じるんですけど。
「まぁ、そう言うわけでして、シュレイがエルシュを呼んで、颯爽と退却したわけです。」
ルナリアさんが二人を無視して私に言います。
「私が入るときエルシュに舌打ちされましたけど。」
「笑止.....被害妄想乙。」
ミストレニア様がボソリと言った声にエルシュさんがハッと鼻で笑っていました。
シュレイさんの斜め後ろ、つまり私の真後ろのエルシュさんと、私の対面に座るミストレニア様が険悪な空気に......
ちょ、私を挟んでにらみ合いをしないでください。
「それでですね、庭園から見ていたのですが、その時にはアンはその、アレしてましてーーー」
ああ、そうですね、死んでいたと。
「それより、私と一緒にいた他の......」
「ああ、大丈夫ですよ、ちゃんと対処していたようです。」
それはよかったです。あんな不意打ちされたら堪ったもんじゃないですもんね。
ルナリアさんの話でそこからは戦闘が始まったが特別問題はなく撃退したということでした。
自然精霊同士の封印を解除しての戦闘のせいでコンクレント湖上都市は完全に崩壊したんだとか。
「封印?」
「ああ、アンは知らなかったわね。自然精霊は5人しかいない不滅の精霊なのよ。それは知っているでしょうけど。」
突っ伏していたシュレイさんが起き上がり説明をしてくれました。
「はい、オリジンさんに聞きました。殺すことはできてもそれは一瞬のことでしかなく滅することなんて出来ない....もしそれができたなら、世界は終わるだろうって.....」
「そうですか、オリジンがふふふっ。」
ルナリアさんがオリジンさんことを聞いて嬉しそうに微笑む。
やはりオリジンさんも種は違えど友好関係は広いようですね、ミストレニア様とも知り合いのようですし。
「未だに私の元にいたことにビックリよね?でも、まぁ、オリジンの言ってることは、間違いないわ。たとえ、私たち植物精霊の一角が落ちても、世界に影響はあまりないけど、自然精霊はそうじゃないの、火の精霊リラと、水の精霊ミュゼがいる限り、世界の温度は保たれているし、彼らが住まう近くはそれぞれの影響が出ているのよ。」
「北は寒くて南が暑いとか?」
「まぁ、そうね間違いないわね。」
うんうんと頷くシュレイさん。
でもそうすると、土の精霊さんはどんな影響が......
「あと、中央に存在する大陸はご存じですか?」
ルナリアさんに、問われたことに何だろうと考えるが分からなかった。
「中央に大陸なんかないじゃないですか。」
ニッコリと微笑むルナリアさん。
「ありますよ?中央神大陸。神族がよく産まれた地として遥か昔から。」
「え?でも地図には.....」
あっけにとられる私にシュレイさんが答えました。
「ま、それも自然精霊の力ってことよ。」
自然精霊の力?
えっと私を教えていたセラフィ何て言ってましたっけ?
火は世界を温め、水は世界を潤し、風を世界を循環させ、
「地は、世界を豊かにし、光は......」
「光は世界を明るくする....ですが、光の精霊がいるところは周りからは消えて見えることは知っていますか?」
私の言葉を引き継ぎ、そのまま教えてくれたルナリアさんが指を立てて言いました。
「じゃあ、見えないのはその精霊が住んでるから?でも、大陸全土を覆い隠すほどだなんて......」
「まっ、それほどの力の持ち主達は通常通りに生活するためにはある程度力を封印しなければならないのよ。そのまま振るえば、絶大な力だけど、その分世界に対する反動は果てしないしね。」
反動ですか.....そういえばリラさんが使った【ゼロ・フレア】の後、外の温度が急激に下がっていた気がしましたが、世界全土に及ぼす反動だなんて。
「それは下手に力も使えませんね。だから封印していると言うわけですか?」
「そういうことよ。」
「まぁ、本人の気まぐれでちょいちょいとかれますが......」
うんうんと頷くシュレイさんに、困ったような顔を作るルナリアさん。
つまり、それで封印が解かれてぶつかり合った余波だけで湖の水を干からびさせ、コンクレント事態を風化させる大惨事が発生したという。
「決着は着かず、風の精霊のフィオはフルエンクに戻り、フルエンクは西大陸に向けて移動を開始したというわけです。」
「あとは、もう、滅びたした言い様のない光景が広がっていたと言うわけよ。」
そ、それは果てしない....しかし、あの戦闘の余波で亡くなったものは皆無だという。
それはそれで良いのですけど......
「で、無事だった魔皇城の結界を解いて、中を見たら.....中も大惨事!と言うことはあの子達の体も造らないといけないので、アンを守ることは少しの間出来なくなるのよ。」
「え?そ、そうなのですか.....」
「ま、そう落ち込まないでよ。庭園に来れば会えるじゃない。」
しかし....そうですね。
「わかりました。シュレイさんも無理しないでくださいよ。」
「もちのろんよ。あと、外にいる元私の使用人ズは回収させてもらうわよ?手を借りたいからね。」
「レーゼンさんもですか?」
「レーゼンと10名くらいは、コンクレント周囲のお片付け、コンレルもいるし、彼処には優秀なメンバーが多いからね、ああ、あとロリ艦長もそっちで頑張っていくそうよ。」
「へぇ~、それはすごいですね。」
今何人くらい機械人養ってるんだろう.....
純粋に気になってきました。
「あとは、重傷者は治療が終わり次第、降りて貰う予定なのよ。」
「なるほど、じゃ、本当に忙しそうですね。」
「まぁね。」
ため息をつくシュレイさん。
ん?
ということは、これからは一人旅となるわけですか....
「....なんかワクワクしてきました。」
そういう私にジト目を向けるシュレイさんと苦笑いをするルナリアさん。
「ほらね?分かるこの嬉しそうな表情。」
「な、なるほど、これはこれで不安ですね。」
聞こえてますけど!!
でも今の私は気分が良いので気にしないのです。
『異世界』で『一人』で『旅』ですよ!!
これはワクワクがとまりませんね!!
「じゃ、本題に入るわね。」
「え?」
もう、終わったんじゃ。
「いや、今のは説明しただけだから。これからよ?」
あっけらかんと答えるシュレイさん。
「じゃぁ、誰から契約を結ぶ?」
その言葉に周りの空気に緊迫感が3割り増しになった気がしますが気のせいですよね?
「......」
これ、もしや戦いの原因だったりしませんよね。
あと、なんで契約したミストレニア様まで真剣な眼差しを向けているのでしょうか。
「ほ、保留は、」
「「「もう一度言って貰っても?」」」
やばいですよ、私の頭の花も枯れそうです。




