終わりの始まり
読んでくれてありがとうございます。がん、ばり、ます。貯まった小説を読みきってから再開しますよ。あと気が向いたら別の話を書くかもしれません。今度は広がりすぎないと良いな。
「ふん、そこそこの力を持っているようだが今の僕にとっては敵ではないなぁ、じゃ、あとは任せるよ。」
「あいよ。」
「あの精霊メイドよりはましだな。」
「同感やね。」
王の台詞に赤・青・黄色のローブの人物が答え、茶色に黒を加えたメンバーがそれぞれに相対している。
対する相手はチビッ子の双子、悪魔の女性、天使の青年、青髪の騎士、竜人、魔女、ハーフエルフ女性の8名だ。
一色触発の状態も長くは続かない、いずれ切られるであろう戦端は意外なところで切って落とされた。
ヒュッーーー。
という風切り音と何もない空間から突如として現れる槌。
『そこそこかどうか身を持ってどうぞ!!』
突然真横から現れた9人目が得物をフルスイングして来たため、とっさに回避する王。
「なんだ、どこから.......」
フルエンクの王は侵入してきた多種族に対して対して興味ないとばかりに踵を返して玉座の後ろの出口から去っていこうとした。
しかし、現れた9人目の兎の獣人はいったいどうやって感知されずに現れたのだろうか、戦場における気配の察知能力は前世の頃からそれなりに鍛えていたし、ここで過ごした30年でより磨きがかかったはずだった。さらにいえば今の体は衰えを知らないハイエルフの魔王の体だ、魔力の感知スキルも体を乗っとるときに奪っているので不覚はないと自負できていたが、それを越えられた。
驚きを隠せず、顔が自然とにやけてしまう。
「おもしろい......」
目の前の槌を振りきった姿の獣人に視線を送る。
「ロッキーッ!!油断すんなよこいつらやべぇー。」
「すまん援護には行けん。」
赤ローブと青ローブの前世からの知り合いが叫ぶように声をかけてきていた。
その方向をチラッと見ると赤ローブ相手に猛威を振るっているのは赤黒い槍を振り回すチビッ子の双子だった。
青ローブの方は、青髪の騎士が威圧を放っているのか表情はニッコリしているのに、只者ではないような雰囲気を出していた。そして膠着状態になり、お互いに動きがない。
「まだまだ!!オラァァ。」
回避した王に追撃とばかりに玉座を蹴り付けこちらに投げ飛ばしてくる。
玉座は不自然に加速して向かってくるが、それをゆったりとした動作を持ってして、構えた腕に玉座が触れると同時に優しく受け流す。方向を反らされた玉座はアーザストの右の壁に食い込み、ミシミシと音をさせたまま継続して食い込んでいき、数秒後に完全に動きを止めた。
受け流されたことにウサミミをピクッと反応させる目の前の銀髪の少女。
「......やるじゃない、あんた。」
「いやいや、こちらこそ、驚いたよ。」
そういう王は玉座に触れた右手を軽く振る。
視線を今度はしっかりと敵対者に向ける王。
「まさか【星光流ー『光鏡』ー】で跳ね返せずに受け流すのが精一杯とはね」
アーザストはリラックスした棒立ちのまま、目の前の少女に右手を上げ、自らの方へ手招くモーションをかけ挑発していた。
「ああぁん?」
「遠慮はいらないよ、君を好敵手と『わずかに』認めよう。」
ウサミミを含め毛を逆立てる少女から殺意の気が発せられる。
「ぶっ殺す。」
射抜くような金眼。
纏う殺気は視認できるほど真っ赤に染まっている。
もはや『あざやか』と言えるほど具現して見えていた。
そして、整った美しい顔に凛々しい姿。
靡く銀髪に宝石のような輝く瞳。
アーザストは何て美しいのだろうと思った。
そしてもうひとつ。
(ああ、残念だ.......『時間切れ』のようだ。)
目の前の兎の獣人がアーザストの顔面を掴もうと手を伸ばしたとき、この『王の間』から音が消えた。
音はないが鮮やかに飛び散る鮮血。
真っ白のカーペットを染める赤い色素。
スローモーションのように緩やかに流れる景色。
「ーーーッ!?」
唖然と見開く金眼。
少女の口許からあふれだす赤い液体。
金眼の少女が後ろに視線を送ろうとしながらそのまま前に倒れ込んだ。
倒れた少女の脇腹には切断面すら見える綺麗な傷跡。
とめどめなく溢れてくる血は明らかな致命傷。
「!ーーーッ。」
意識を手放す限界まで何かを喋ろうとする少女の声は残念なことに届かない。
美しかった彼女の最後を見届けてあげたいが、とりあえず周りを見渡す。
正直見なくても結果はわかりきったことだが。
色とりどりのローブの5人は何が起こったのか分からないという顔をして、倒れ伏す致命傷の敵対者や辺りの状況に視線を送っていた。
『王の間』入口近くに半身を黒く変色させ倒れているチビッ子の双子。
若干だが動きがあり死んではいないようだが、放置すれば同じ末路をたどるだろう。
上から瓦礫が落ちてきたかと思い上を向くと、遥か天井でこちらに盾を構えたまま気を失っている青髪の騎士だった青年が天井に食い込んでいた。青年の白銀の甲冑は左手の盾と右足のすね当てを残して残りは砕け散ったのか無くなっていた。
ハーフエルフはうつ伏せに倒れたまま動く気配はない。
着ていた衣服が真っ赤に染まっていた。
無数の斬撃を食らったかのようだ。
ここまでの時間僅か15秒。
そして音が聞こえだした。
ガガガガガガガガガガガーーーーー。
キンッーーーーカキンッ。
何かを削る音。そして金属同士がぶつかり合う甲高い音だ。
それが始めに聞こえてきた。
「う、な、にが.......」
「せ、いれ.....」
次に聞こえたのは呻き声だ。
あとは雑音を含む音がよみがえる。
「なんだ?なにもわからんが、そうかわかった。」
「おい、六路......こりゃ、いったい。」
長い黒髪を片手で振り払いよく分からない自信でうんうんとうなずく茶色ローブと完全にやる気がないようなだらっとした振る舞いの黒ローブの二人の女性はアーザストに問いかける。
「ああ、そうだね、言うならば『心強い味方』かな。」
アーザストが声に出すと同時に、玉座が元々あった位置に爆砕音と粉塵を巻き上げた。
『うんうん、そうですよね!味方ですよ、私は。』
『キャピーン!』という可愛らしい声に陽気な雰囲気。
粉塵が晴れたさきには、仰向きで叩きつけられている赤髪の悪魔の女性と、その胸の上に足を乗せる翠髪の小柄な少女がいた。
「ケホッ、ゴホッ......はぁ、はぁ。う。」
『さすが悪魔公爵ですね......まだ息があるなんて。』
胸の上に乗せる足に力を込める翠髪の少女にキッとした視線を返す。
「フィオ!!ガハッ。」
『おいたはいけませんよ。リラねー様ではあるまいし。』
「うぅ、......」
悪魔が魔力で形成された赤黒い角の間に闇色の閃光を放とうとしたとき、指をパチリと鳴らした。
それにより、悪魔の女性は頭の中を揺さぶられ気を失った。
その光景を見ていたローブの人物達は、なんだ本当に味方か、と信じ警戒を解いていた。
敵対していた相当な実力者な彼らを簡単に倒してしまったこの少女を、自分達はどうすることも出来ないと思い、だったら親友の言う通りに信じた方が精神的に楽だと言う考えもある。
「それにしても、」
「あの無音の15秒で、苦戦してた相手をこうも簡単になぁ。」
「ふむ、そうだろう?そうだろう!」
「あんさんじゃないやろ。」
「......六路てめぇ、どうやって引き入れた。」
考え込んでいた黒いローブの女性はアーザストを睨み付ける。
「簡単さ、彼女が欲しいものを僕が持っていて、それの片割れを上げたら、もう片方欲しいって言うから条件で雇ったんだよ。」
あっけらかんと答えるアーザスト。
そしてそれに追随する翠髪の少女。
『そうですよ!!私を突き動かすのは完全なる物欲!これがほしい、これは飽きた!それこそ自由気ままに欲しいままに!まさに気まぐれの風のように。リラねー様のように燃え上がる友情や愛情、などの感情も良いですが、私は完全な物欲。物欲の下僕と言ってもいいですよ。』
言ったら殺しますけど。
そう続けて熱弁を振るう彼女にゾクリとするローブのメンバー。
つまり、今の興味はアーザストが持っているあの金色の目玉だが、飽きれば自分勝手にいなくなり、敵対者に興味の物があれば簡単に寝返ると言っているように聞こえた。
きっと事実寝返るのだろう。そう思う5人だった。
「いや、さっきのは援護してくれたってことだよな?」
そう聞く赤ローブに『yes!』とサムズアップするフィオ。
「そうか、君らは知らないけど、僕が彼女とあってからかれこれ20年は経つんだよ。それからずっと『ある意味』一緒さ。」
『私的には、あの頃の姿の方が好みでしたね。』
アーザストが彼女とどういう関係なのか手短に話し、うんうんと頷く彼女。
「彼女にはこの前まで『精霊隔離エリア』にいて貰ってね。彼女の力を媒体とした主砲が壊れたから出てきて貰ったのさ、その時に約束の眼をあげたんだよ。」
『こ、れ、です!!』
少女の手にあるのは確かに目玉だ。
しかし不思議と嫌悪感は浮かない奇妙な感覚。
むしろ、触りたい、食べたい。と思える。
これは素晴らしいとまた、熱弁を始めた彼女を呆れながら眺めた後、ここに倒れ伏す死にかけの敵対者の数が少ないことを聞いた。ローブを着る彼等も異世界人なのに死にそうな人を見て平然としていた。
しかし、この世界は異世界だ、それが普通の光景である。
『ああ、そのことですか......チビ魔女をその窓から外に放り投げたら、竜の人が慌てて飛んでいきましたね。そのとき殺気を向けて矢を射ってきた半天エルフには矢を倍速で打ち返して、彼女に触れた瞬間に風爆が起きるようにしましたが......』
割れたステンドガラスを指して、身ぶり手振りで説明するフィオ。
そこに茶色ローブが問う。
「ふむ、ならば、あの天使の美少女はどうした?」
『少女?』頭に疑問符を浮かべるフィオだが、あの場に純天使は一人しかいなかったので検討はついている。
『光の速さには流石の私も追い付けませんので、逃がしましたが?』
「なんやこの子、なんで自信満々なんやろ。」
黄色ローブがため息を吐く。
そう、襲ったとき、天使のコーラルは【カーラーン神書】から勝手に出た『閃光のローレンシア』によって連れ去られていた。
逃がすまいと、フィオの半身のような存在の小型な風の渦が追いかけていったが追い付かなかったと言うわけだ。
そして、いま風の渦がフィオの側まで戻ってきた。
「カカカッ、早い早い。」
「まぁ、そんなわけですよ。オーバー?」
風の渦は高速で回転しているときもあれば、衛星から見た台風のようにゆっくり回っているときもある。
アーザストはこちらは片付いたし、出航の準備をしようと決めた。
倒れ伏す彼らを運ばせようと視線を周りに向けるとそこには跡だけで倒れていた人たちはいなくなっていた。眼を見開き驚きつつ、自分の予想を越える展開に嬉しそうにしていた。
「これはすごい、また僕の力を突破するとは......」
「でも、風の振動も感知しませんでしたよ?」
頭をかしげるフィオにアーザストは聞いた。
「何かを引きずったり、持ち運んだりする音は聞こえませんか?」
風の自然精霊は遥か遠くの音すら識別できる。
しかし、結果は芳しくない。
「だめですね。屋外で20対6の集団戦が起きてるようですけど、それ以外は何も。」
「カカカカッ!珍妙キテレツ。」
いったいどうやってこれだけの人数を運んだと言うのか......その正体が気になるが......
考えるアーザストの手を引くフィオがいた。
「リラねー様を捕まえればいいのでしょうか?今【三大封印】の2つ目まで解いてるようですし、弱体化や今の環境から見てもいけそうですよ?」
「む、そうかい?お願いできるかな。でも無理は禁物だよ?殺られたら【誓約】が解けちゃうからね。」
視線を合わせ中腰になるアーザストにそっぽを向く風の自然精霊のフィオ・フェレック。
「むぅ、こっちにだって【三大封印】がありますし......」
「カカカッ、子供扱い。小間使い。」
そう言って空気に解けるように消えていくフィオ。
「お、おわったんか?」
「アイス食いてー。」
「む、氷魔法でなんとかならないのか?」
「バカが、俺にこれ以上仕事をさすんじゃねーぞ。」
「ははっ、六路なら持ってそうだな。」
「おや、視線を向けられても困ったな、妹の分しか持ってないな。」
「なんや、この「シスコンが!」」
「妹になれば貰える、のか?」
「ん?なに?お前女だったのか!?そうかすまない......『男の癖に小柄だ』なんて思って。」
「こいつら、あんな血なまぐさいとこと見てんのにメンタル金属かよ。」
言葉のジャブを放ちながらローブの彼等も疲れたのかへたり込みぐったりとしていた。
(結局、連れ去ったのは分からずじまいか......まぁ、問題もないだろう。)
そう決め込み、彼らに部屋に戻るようにいい、自身も部屋に戻ろうと機械人のメイドを呼ぼうとしたが見つからなかった。
アーザストはフルエンクの軍管制室に通信を繋いだ、すると、
映像が繋がらなかった。
ザザザッーーーー。
というノイズのみで通信が出来なかったのだ。
しばらくして、『王の間』に駆け込んでくる長身の女性がいた。
「大変です!王様。」
「どうしたんだい?エレス、そんなに慌てて......」
玉座がないので座れないから、たったまま応答した。
エレスは顔を真っ青にして震えているようだ。
「私がいながら、まとめてさらわれました。その......機械人を。」
怒られる、いや、殺されると思ったエレスは、青い顔が真っ白になっていた。
「ふむ、そう来たか......いや、いいよどうせここで廃棄しようと思ってたからね。」
「は?....え、はい。」
王がどうでもようさそうに言い捨てた台詞は、やはり機械やロボットとしか機械人を見ていなんだろう。
「それよりエレス、誰が連れていったのかは教えて欲しいんだけどな。」
にっこり微笑む王。
「ッ!申し訳ありません。わ、ワーズです!反逆者のワーズ艦長です。」
「反逆者......ね。」
エレスがチラッと見た王の顔は可笑しいとばかりにニヤニヤしていた。
アーザストは洗脳を掛けたエレスを滑稽に思っていた。
「王様?」
不思議そうにするエレス。
「ああなんでもないよ、そうかありがとう。そっちも放って置いて良いよ。」
王は、にやけていた口許を手で覆いながら、問題ないとばかりに返す。
「しかし、それでは航行管制と防衛手段が失われたままですが......」
フルエンク空中都市は艦長という名がある通り、動かすための操縦オペレーターと司令塔が複数必要であることは当たり前だがこの王はいったいどうやってフルエンク空中都市を維持しようというのか......
「ん?おお、それね?それはね『風の精霊』様が全部やってくれるんだって。すごいでしょう?」
「ぜ、全部とは?」
恐れながら聞くエレス。
「ああ、まず今まで何人もの魔法使い達が日毎に【飛行核石】に魔力を送っていたけど、それが今度はフィオが風の自然魔法の極致【永久浮遊】の魔法を使って浮かせてくれるんだよ。これは風の精霊の加護を最大限に受けるか、膨大な魔力量で継続させるかでしか得られないんだけど、特別にね。つまり、フィオに言えばイチイチ操作せずに航行出来ると言うわけさ。」
「......う、そ。」
今まで試行錯誤してきたフルエンクの風魔法研究者が道化に感じてしまうほど、圧倒的な驚きを感じるエレスだった。言葉を失うエレスに、今までのフルエンクのあり方を否定するようなことをアーザストは言う。
「それに空飛ぶものは、いずれ墜落すると相場は決まってるからね。とりあえず、最終目的地は、幻の中央神大陸かな。」
【中央神大陸】フルエンクに置いても義務教育でまず習う大昔に存在した大陸の名前だ。
その大陸は中央の空白の大海にあると言われていた。
今では地図にすら書かれない、つまり、いくら探しても見つけることが出来ない大陸なのだ。
しかし、さらには4つの大陸の真ん中の大海は大きな障害もある。
真っ白な霧で常に覆われていて魔法を使い空からの撮影でも霧以外なにも写らないのだ。
さらには、その大陸でこの世界の神が生まれた国があるとも言われている。
まさに【幻の神大陸】というわけだ。
それを目的にしているこの王の目は本気だった。
この世界の子供が誰でも夢見るロマンの一つをこの王は疑うことなく、突き進むらしい。
なぜか、その姿にゾクゾクしてきたエレスは自然と答えた。
「フルエンクのため、お手伝いさせていただきます。王様!!」
その夢を語る姿が突然乱入してきたワーズに被るように見えた違和感を不思議に思いながらエレスはかしずいた。胸と頭が少しズキズキとした。
「じゃ、フィオが戻り次第出発かな?」
王は『王の間』から自室に戻っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
時は遡り、『王の間』で戦いが始まる10分くらい前の出来事。
そう、フルエンクの20人のマスタークラスの魔導師......【マスター20】がまだ『王の間』にいるときの事だ。
フルエンク中央内部において、ルシャに襲われて逃げ回り、何故か途中でアサギリが乱入してきたが、シュレイとナチュリオレは、なんとか体の自由を奪われているルシャの捕獲に成功した。
ルシャをシュレイが持つ魔法干渉無効の鳥籠に入れ、抱えて歩いている。
そして、その隣をアサギリが歩き、ことあるごとに扉を勢いよく開け放ち存在をアピールしていた。
「アサギリ、あんた昔と変わり無いわね......」
「ここですわ!!あら?違いますの。」
バンバンと扉を開くアサギリにため息をはくシュレイ。
「アサギリうっせーですぅ!お前帰れですぅ!!」
「おほほほ、捕まるような間抜けにいわれる筋合いはありませんわね。」
鳥籠をシュレイから取り上げて、両手でがっしり掴む。
ルシャとアサギリは犬みたいな威嚇の声を出しつつお互いを牽制していた。
ルシャをアサギリに取られ手持ちぶさたになったシュレイは反対隣を歩くナチュリオレに話しかけられた。
「さっきの機械人とあの人に、『あんなもの』渡してよかったかー。」
「ああ、地上へ戻る道教えて貰えたし、あの元艦長も知り合った仲だから良いのよ。」
「知り合った仲って言ってもなー、側にいる機械人の二人に思いきり睨まれてたじゃないか.....絶対嫌われてるぞー。」
フルエンクの内部詳細マップを両手で広げ、道を確認していたナチュリオレは呆れたような返事を返す。
「い、いいのよ、昔から何故か機械人には警戒されやすいから。」
「いやー、絶対余計なこと言ったんだろー。それともエルシュのせいにでもするのかー。」
「そうよ、エルシュが......」
シュレイは拳を握り何かを言おうとしたとき、声に呼ばれて出てきたのかシュレイの目の前に姿を表す長い緑髪に長身の女性.......シュレイの魔法領域そのものであり、管理者でもあるエルシュがいた。
「エルシュが、ゆ、優秀だからいけないのよ。」
「......うわー。」
そう言ってシュレイはエルシュに指を指すが、それを見ていたナチュリオレは絶対貶そうとしてたのに言葉変えたよこの人......そう思いジトーとした眼を向ける。
「不快......当然ですよ主様。」
エルシュもきっとシュレイが言うことを変えたのを理解してるのか、口許をピクピクと吊り上げながら簡単な礼をする。
「と、ところで、どうしたのよ!?呼んでないのに出てくるなんて。」
話を必死で変えようとするシュレイを、いつもならばからかうが、それすらなく報告を始めた。
「緊急報告......現在、対植物精霊への対抗手段の一つである結界による魔法領域とのパスの切断が行われています。結界のタイプは結界の神子『イシュリカ』をベースにした種族限定の結界のようです。」
報告を聞いたシュレイはまず、ナチュリオレを見たが彼女は杖を掲げていた。
「む、もう既に全体を覆っているようだなー。通り抜けも出来なさそうだぞー。」
「そう、つまり敵が『敵襲ですの!?燃えますわ。』。」
声が上がった方を向くと少し先を進んでいたアサギリとその奥に3人のローブ姿の人物がいた。
「あら、私のための私だけの武器が出ませんわ、???」
どうやら、先手を討たれたらしく、魔法領域と繋がっていない植物精霊は、自らが持つ強大な力を振るうことが出来ないのだ。当然その領域にあるモノを呼び出すことも不可能だったりする。
つまり、
「やべー、ピンチですぅー。」
あわわわと鳥籠の中を右往左往するルシャの言う通り明確に弱点を突かれたことになった。
「ふふふっ、どう?今まで振るっていた絶対の力が失われて、ただの雑草に戻った感想は。」
クスクスと嘲るような笑いをこぼす3人のローブ。
彼らは勝利を確信しているのだろうが、残念ながら例外というのが存在することを知らない。
確かに序列でもトップクラスであるアサギリや外にいるルナリアも領域とのパスが切れて弱体化をしているだろうがこの場に【魔法領域】を持たない特殊な精霊がいることを。
「何をするのか知りませんが、あなた方の今の実力はせいぜいA-級の魔獣程度でしょう?」
「ふっ、我らはこれでも全員がA級の実力者だ。その程度の魔獣など数秒で葬ってきたぞ。」
「諦めるのが、得策ですよ.......ごめんなさい。」
白い修道服に金縁加工のデザインと一房ごとに色が違うカラフルな配色の髪を揺らし袖口をごそごそと漁るナチュリオレに罵声と嘲りを向けていた。
彼女は『これでいいかー。』と呟いたとき、後ろにいたシュレイが注意した。
「ライオンと亀は辞めなさいよ?」
『.......』
そして再び戻して渋々、一枚の水色の透明な硬貨を取りだし足元に落とす。
魔法領域を切っているのに無駄なことを、と見ていた三人は目の前で起こる【召喚術】そっくりの現象にポカンとする。
GaaAAAAauuuruーーー
その静寂に、威圧するような獣の咆哮が上がった。
咄嗟に身構える三人のローブはこれでもトップクラスだ。
召喚余波による煙がうっすらと晴れてくると、そこにいたのは......
3mはあろう大型の肉食獣だった。
全体を覆ううっすらとした冷気。
足が着いている側はパキパキと氷が出来ていく。
口許には巨大な二本の牙。
鋭い眼光。
全身を覆う青い毛皮に包まれたがたいの良い体。
Gururururuーーー
目線を合わすと後ずさりしたくなるほどだった。
「【ナチュリオン・氷狼王】......行くかなー。」
神聖なる森を守護する劵族、その一角である彼は咆哮を上げて向かっていった。
ローブ姿の三人は周りを凍らしながら襲ってくる獣を横に飛ぶように避ける。
なんとかかわすことに成功したローブの人物たちは折り返して襲ってくるだろうと思われる獣が通りすぎた方向を向くがそこには、その獣の背に乗る獣を呼び出した主人とその背中にしがみつく黄色い蛍光色の髪を持つ少女、さらに、獣の真後ろを全く同じ速度で走る緑髪の女性は、片手に鳥籠、反対の手に、首根っこを捕まれ苦しそうに引きずられていく女性がいた。
そして、気がつく彼らが逃走したと言うことを。
三人は慌てて彼らを追いかけていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
そして外に出ることが出来た三人は、防戦一方のルナリアとシーダの元へと駆け寄った。
周りを囲んでいた17人の魔術師は突然現れた【氷狼王】に警戒をあげていく。
シュレイはここまで来る間に、なぜ自分はエルシュと繋がったままなのか聞いたら。
イシュリカの結界をバカにした答えが返ってきた。
『笑止......私に同じ手が通じると思っているのですか、そんなものは解析済で、無効化しました。』
全くなんて頼もしい相棒だろうとシュレイは思った。
相棒にルシャを領域に匿い、掛かっている魔法効果を解くように指示してこの場についた瞬間鳥籠を持ち消えていった。
『失礼......では、これで。』
この場に残されたのは、眼を回しているアサギリ、シュレイとルナリア、そしてこの場で唯一の男性精霊のシーダの4人だった。
「ルナ、苦戦してるの?」
「ええ、一対一なら今の状態でも確実に勝てますが、魔力残量を考えると下手に動けませんし......」
「そう、やはり月粒子も阻害されているの?」
「そのようですよ?回復効果が発動しませんので、困りました。」
どうやら相手は一番の警戒対象を『月光花のルナリア』にしているようで、この満月の夜に月粒子を遮断させる効果を結界に含ませていたみたいだ。
考え込んでいる状況でもなく、この状態でなんとか対処しないといけないようだった。
シュレイは周りのメンバーを見渡して、側まで来たシーダを見て呟いた。
「げっ......」
「おぉい、想天花なんだその嫌そうな顔はよ?」
現在のシュレイの身長では昔と比べてさらに見上げることになる身長の『群林のシーダ』がこちらの頭を片手で『縮め!』とばかりに体重を掛けてきたので払い除けて睨み付ける。
「なによ、当然でしょ?」
「はっはっは、コイツ......」
二人して下と上からの視線が交差して火花を散らすようだ。
「やめなさい、二人とも。そんな状況でもないでしょう?」
「うっ......」
「ふん。」
そこに、割ってはいったのは、やはりルナリアだ。
「そんなことよりー、お前らー私一人に戦わせるつもりかー。」
「いいから、やりましょう。私が目立つ最高の舞台を!!」
そんな声を受け固まる5人。
5人で背中合わせに立つと相手の魔導師も20という数の暴力を用いて集団戦を仕掛けてくるようだ。
「お互いの連携が大事だぞー。【ナチュリオン・竹鮫】。」
ナチュリオレが牽制とばかりに全方位に地面から飛び出る体が竹で出来た鮫が魔導師達に襲いかかった。彼らも燃やしたり、叩き落としたりして、ダメージは無さそうだが、これは集団戦だ、この攻撃は相手を浮かせる誘いにすぎない。
『ガッ!?』
浮いた4人の魔導師に青白い雷が貫通していく。
直撃をうけた4人は確実に意識を刈り取られていた。
攻撃したのはシュレイだ。
この場の植物精霊の中で、唯一自らの領域に繋がる【空飛ぶ島】の武装の一つ【雷光線】
【空飛ぶ島】の側面に設置された対空兵装の一つだ。
「あら?殺さないんですの?」
「ん?気分よ、気にしないでほしいわね。魔力の温存ともいうのかしら。」
「ふーん、そうなの。」
そう聞いて来たのはシュレイが宝物庫から取り出したレイピアを持つアサギリだった。
アサギリの正面には動きを止めたまま停止した魔導師がいた。
ナチュリオレの初撃を掻い潜り接近したところをアサギリが仕留めたということであろう。
仕留めた相手はその場を霧のように細かく分散されて風に飛ばされ消えていった。
「これで、5人倒しましたけど、同じ手は通用しないと見て良いでしょうね。」
「遠距離戦で対電装備持たれたら終わりだな。」
真後ろの二人は相手が近寄ってこなかったために動きはない。
「風の自然魔法【ウインド・ヴェール】」
「地の自然魔法【コンダクション・アース】付与!」
彼らの言葉に賛同するかのように呪文を唱え始め距離を取り出す15人の魔導師達。
それを見ていたナチュリオレがボソリと呟く。
「これがフラグかー。」
「上等よ!」
そう答えるシュレイ。
ここからは善戦はするが防戦一方になる植物精霊達だったーーー。
だがしかしーーー。
その筈が、戦場を覆う真っ白な霧にすべてを飲み込まれ、散弾銃のような音と、何かを綺麗に切り裂く
音だけが聞こえてくる。
「くっ、やってくれるじゃないの【イレイズ】。」
戦場は混乱するかに思われたが、相手にいる女性魔導師が、消滅魔法を唱えたことで霧が消える。
「もう、解除されましたか......」
「うふふ、でも良い声で泣いてくれたわ。ああぁ、なんて恍惚の響き。」
霧の中から現れたのは薄紫の長い髪にそれに合う同色の着物。
右手に持つのは、あちらの世界で言うところの日本刀。
彼女周りには常にうっすらと霧が纏われていた。
もう一人は、真っ赤な浴衣。
深紅の髪。
一言で言えば盛ったように持った髪型。
彼女は口許に扇子を当てて顔を赤くしている。
「「ミストレニアとリコリス!?」」
序列7位と9位の二人が援軍として現れたのだ。
実際は最初からここに面白半分で乗り込んでいたリコリスを後から来たミストレニアが見つけて行動を共にしていたのだ。結界に覆われる前に一部をミストレニアがスキル【霧喰らい】で穴を空けていたため、ある程度の活動するための魔力を補給しているリコリスと、スキルの吸収効果により結界を喰らって魔力の減少が少ないミストレニアは異常事態を感知して向かってきたのだった。
当然ながら結界の穴は即座に修復されたが......
突然現れた彼女らに、対処できなかったのか。
相手も致命傷をおったのが数名いるが回復魔法で回復させ戦線に参加するようだ。
さらに、【召喚術】を執行し倒された5名分を補っていく。
召喚されるは主に『火』の系統の存在ばかりだった。
さすがに植物にとってこの弱点は大きいことだろう。
呼び出される『火鼠』×2、『火蜥蜴』、『炎蛇』
の三種類の魔獣達だった。
そして、6対15から、6対20の戦いが始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
コンクレント城まで辿りついた私は、原型を留めていない光景に言葉がでない。
抉られた地面。
そこらに転がる不気味な残骸。
「生き残りを探しましょう。」
「了解。」
「これはすごいですねー。オプシー生きてるでしょうか......」
私以外にもこの場に来たメンバーは各々勝手に虫食いのような城壁から中に入っていった。
緊急時の連絡は『何かしらのアクションを起こせば駆け付ける』らしい。
なんて大雑把な方達でしょうか。
しばらくして、息も絶え絶えのオプシディアを背負ったセラフィと、ボロボロの格好のセレナイトさんが現れた。
「もしかして、アン様、です、か?」
「そうですよ?エッヘン。」
「間違い、なさ、そうです。」
中学生になったくらいの男の姿だから戸惑うのも無理はない。
そして何を感じて判断したいか聞きたいところですが、お疲れのようですし見逃しますよ。
セレナイトさんから話を聞いていると、ギルドに入る前の砲撃の後、コンレルさんが呼び出した大公クラスの悪魔とフレイヤが召喚した古龍の頂上決戦の最中、フレイヤの影から魔王のもう一人の『霊界の魔女』と呼ばれる嫁が現れて、さらに、捕まえたハズのファリエラまでもが出てきて、戦線が激化したが、こちら側も【ソロモンの書】の魔神達がたくさん出てきて対処していたらしいです。
さすが魔神様達。
しかし、突然ことは起こったそうで、両陣営の間に魔王テルヤが5人のローブの人物と現れて、何を思ったのか駆け寄ってくる三人の嫁を魔王が抱き留めた後、胸を穿ち、致命傷を負わせてしまい、相手の陣営は混乱して統率がとれていなかった。という。
さらに、主人を不意打ちで攻撃されたことで怒り狂った【召喚獣】が向かっていったがこちらの世界にいられる魔力が急激になくなり、霞のように消えてしまった。これは、今まで維持してきた魔力を払えなくなったからだと、ラクダに乗った魔神パイモンが教えてくれたらしい。
その光景を一番近くで見ていたパイモンは魔王がこちらと戦う気はないことを感じ取り、傍観していた。魔王は倒れ伏す嫁に止めを刺すべく魔力を手に集めるが、目の前にいた嫁達が、猫の獣人にかっさらわれてしまい、無駄な爆発を起こすだけだった。
して、依然とこちらの存在を無視しつつ転移していった。と、セレナイトが聞いたことを聞かされた。
対価の関係で魔神達は全員が帰ってしまい、詳しくは聞けませんでしたが......そう言って表情を曇らせていたが、実は問題はこの後に起こったらしい。
魔神達が帰り、残党も消えて静まり返るコンクレント城が突如、爆発を起こし始めたのだ、慌てて外に出るとそこには、今まで前線で活躍していたオキニスが上半身と下半身を切断されて倒れていた。
その近くには翠髪の精霊が佇んでいた。
その後は襲ってくる精霊に、力を振り絞り、撃退に成功したが、けして相手にダメージを与えた訳ではなく、ふといなくなったのだという。
翠髪の精霊がもたらす破壊と暴力でボロボロになって今にいたるらしい。
オキニスさん.......
悲しい顔をしているといつ戻ってきたのか、レーゼンさんが頭を撫でてくれた。
「......平気、死んだ訳じゃない。体がなくなっただけ。」
そうですよね、今は落ち込んでいる場合ではありません。
それに魔皇城にいた精霊達も......
その事もありますし、今は初心......いえ、当初の目的を果たすまでです。
ここまで破壊されると憂い無く攻めに転じられると言うものです。
ここにいるメンバーを全員集めることが終わった私たちは、致命傷を受けていたコンレルさんとオプシディアの治療のためユーディアちゃんを残して、あとのメンバーで先に向かっていた人たちの援軍に行こうと思います。
「では、小人族の『霊薬』を使い、回復したのちフルエンクに向かいましょう!」
「そうですね。やられっぱなしは虫が好きません。」
「あっちまではお任せください。」
という、オリジンさんとセラフィ。
「ぐぅっ、すまない。」
「ごめんね、アンちゃん。」
申し訳なさそうなコンレルさんとオプシディア。
いいんですよ、といいますか私に謝れても.......あれ、私一番やくたたずじゃないの!?
「あれ、私も残った方がいいのでは?」
「.....点呼。」
「全員居んだろ?もんだいねーよ。」
「ここにいるメンバーって飛行可能なのかしら?」
「リラ.....飛べるのは、セラフィ.....と、私たちだけ。」
私の言ったことを無視するレーゼンさんに、めんどくさそうに言うフリードさん、どうやっていくのか疑問符を浮かべるリラさんと火の玉さん。
リラさん私がその疑問解決しますよ!!
「これを使うのです!これを使うとなんとフルエンクまで僅か数秒でーーー。」
「「なんだ(なによ)、転移石か(ね)......」」
フリードさんとリラさんが私が説明する前に答えを言ってしまいました。
別にいじけてません。
頭をワシャワシャとしないでください、レーゼンさん。
立ち直った私は皆の中心に立ち、転移石を発動させようとしたとき、視界に写る光景にとっさに動いてしまいました。
「リラさん!!」
「なにすんのよ!?」
リラさんを勢いよく突き飛ばすことで、リラさんは地面を一回転した後、こちらに怒った顔を向けました。
しかし、それも即座に驚いている顔に変わりましたが.....
私は視界が段々と真っ暗に落ちていくのを何とか堪えようとしますが、駄目のようです。
「ーーーー!っ!?」
「ぁーーーーーーーーーー!?」
「ーーーっそが!?」
声が明確に聞こえません。
あれ、眠くなってきました。
胸辺りに暖かい感覚が、これは液体が暖かいのでしょうね。
一肌くらいでーーー。
でも、私は死ぬ訳じゃありませんので、後悔はありませんよ。
この仮初めの身で誰かを助けられるなら、それはそれで良いのかもしれません。
でも、欲張りな私は最後にみんなが無事かどうか確認したかったのですけど、残念です。
私が行動を起こしたのはリラさんの後ろからリラさんそっくりな女の子がリラさんに向かって魔法を放ってきたからです。
たぶん普段のリラさんなら即座に気づいていたかもしれませんが、さっきは全然気づいた様子は有りませんでした。
何かしら原因があったのかもしれません。
飛んできた風の剣は私の胸に刺さり、傷口を広げるように爆散したのです。それにより、私は木っ端微塵になったのかもしれませんけどね。
そんな死に方嫌すぎます。
そんなことを考えながら意識を完全に失いました。
次に眼を覚ますときはきっと私の領域【小さな庭園】の大樹の根本でしょう。
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そして、私は2週間後に眼を醒ましました。




