てへぺろっ
【邪神】......その人物が異世界人であることに疑いはない。
なぜ【邪神】になったのかは本人しか知らないことだろうけど、そもそもそんな状況じゃないことも、理解はしているつもりだった。
でも、どうしても『あの人』を知っている気がした。
『ーーーんだぁ?知り合いかよ......』
『いいえ、そうであっても友好と言うわけではないでしょうね。』
『.....バレたのは仕方ないとしても、その目と感情をあの子に向けるな!!』
魔法や近接格闘の攻撃の撃ち合いをしていたメンバーが少しの間を置いて再び襲いかかっていった。
レーゼンさんがキレ気味に向かって行ったことで、その【邪神】と呼ばれる20代くらいの男性も『むぅ、』と唸りながら体を存分に活かしての対処に追われはじめ、私との視線が途切れました。
私は、さっきの『言葉』とあの顔と感情から相手が、あの時の関係者であること間違いないと思う半面、間違っていて欲しいとも思った。
体の硬直は融けましたけど、両手両足がが震えてしまい立てなかった。
『バケモノ』『刹那』『もうそばにいない』
その3つの言葉とあの不快感MAXの笑み。
私は、忌まわしい惨劇が脳裏にフラッシュバックしてしまい、浅い呼吸を繰り返していた。
「はぁ、.......はぁはぁ、うぅ。落ち着く、んで、す。」
顔を上げ、視線を向ければ4人の魔法やスキルを最小限の動きでかわしていく男性の姿が、段々と近づいてきているのが目に見えて分かる。
唾を飲み込み、今【精神安定】のスキルが無いことを悔やみながら、その男性から離れようと必死で後ずさる。
しかし、動きは緩慢だ。
私が後ろを確認せずに後ずさると背中に暖かい何かがぶつかった。
視線を後ろに向けるとそこにはーーー。
私がここに来てはじめて会う人物がいました。
「ねぇ、あんたから知っている気配を感じるんだけど、何者なのかしら?私に教えるべきね!」
今の私と同じくらいの身長をもつ可愛らしい女の子が、綺麗な紅蓮の髪を揺らし胸をはっていた。
私は瞬間的にこの人が自然精霊のリラ・ギュケルなんだと悟ってしまった。
物質精霊達が念入りに彼女の容姿や言動、性格を事前に教えてもらっていたからだけど、そんなことよりも、もっとも分かりやすい特徴が目の前にフラフラと浮いていたことが結びつける一番の印象だと思う。
『リラ......間違えなく、シュレイ様の気配を、感じる。』
「......へー。」
メラメラ燃える火の玉が言ったことでリラの周囲の温度が急上昇した。
これは気のせいではないと思う、私の体に当たる熱気はストーブの近くにいるような熱さを感じさせた。
私は彼女の無表情の顔とこちらに着実に向かってくる『あの人』との間を行ったり来たりと視線をさまようわせていた。
いったいこの精霊さんは私になんの用が.......
「あ、あのぅ。『テメェェェエエエ!!手伝えや!?ロリババァァァ。』うえ?」
「う、るさいなぁ、もう、なんなのよ!」
私がリラさんに話しかけると同じタイミングで罵声が響いてきた。
その声は地面から出た一日目の私にあれこれと世話を妬いてくれた雑草の声だった。
その声により、こっちを凝視してた顔を後ろ髪が引かれるように振り向き様まで眺めてきたが、その場から飛び立ち、近づいてくる【邪神】と言われる男性に手を向けていた。
「しょうがないわね!ほんとにもう、しょうがないかしら!いくわよ!!」
『......了、解。』
口調は弾むようで、嬉しそうに手を翳す彼女の手には、先程から周りを飛び回っていたオレンジ色の揺らめく火の玉が収まっていた。
火の玉が真っ赤に燃え上がると、彼女のギルドの紋章が入った服に赤いラインが入っていく。
服が自然にコーディネートされていく光景に見とれてしまった。まったく、何て幻想的な光景でしょうか......
しかし、見かけだけではなく翳した腕に幾重にも折り重なる赤く光る魔方陣。
4重になった魔方陣はどれもが同じ形をしていなかった。
『本来の、行程を、カット......構築終了。』
火の玉がより一層赤く輝く。
「ふふん!ちょっと気になることが出来たから加減は無しよ?」
チラッと私の方を向いた気が......
そして聞こえ始める歌声のような詠唱旋律。
ー天上も、地上も、すべてを焦がす大いなる火よー
彼女に向かって集まってくる魔素粒子が熱を持ったのか発光して折り重なる魔方陣に取り込まれていく。
ー始祖精霊である私がここに願わんー
さらに熱を持ったのか、もう直視できなかった。
『マジかよ.....【ルヴェール(覚醒)】!!』
『......天象陣、地法陣、具現するは天地創造より溶けない氷!!【アイス・コフィン】。』
『なに!?貴様っ!』
その非常事態にやはり気づき、文句をいう叫びと、焦るような『あの人』の気配。
ー世界から集え、万物に宿る『少し』の炎よー
『あの人』が逃げようとするが、しかし今度は、右手右足が真っ青な氷塊に埋もれていて、身動きが取れなくなっていた。
ー対価に一時の寒冷が訪れようとも迷いはなくー
え、まさかこれ世界規模の力の具現なんじゃ.......
あせる私は突然持ち上げられて、驚いて声も出せなかった。
「近すぎです!!蒸発したいのですか!?」
オリジンさんに抱えられ、ものすごい速度で太陽のような輝きを放つ彼女から離れていきます。
オリジンさんの右手にはあの時にもあった六枚花弁の花の意匠を持つ綺麗な盾を持っていました。
ー世界との契りを超え星を焼くー
その声と共にフッと集束していたエネルギーが見えなくなった。
まるで前触れのように......
リラさんが声高らかに告げる。
「【ゼロ・フレア】!!」
しかし、目の前の空間には何も変化なんてない。
一体何が......
私が唖然としていると近くからピシピシという音が聞こえていた。
「この距離でも、やはり耐えられませんか......」
音の源は透明な盾、巨大な爆発にすら耐えた盾の表面にヒビが入っていました。
苦々しげに呟くオリジンさん。
私の目には何も起こっていなかったようなのに、実際何が起こっているのか不思議で堪らなく、理解できない現象に恐怖心を抱く。
「ごめん!やり過ぎたけど、修理はできないわ!専門外だもの!!」
今だに【邪神】と呼ばれる存在がいるのにこちらに向かって無防備に飛翔してきたリラさんの言ったことが理解できなかった。
「え、まだあそこに!?」
「『少し』にしたのよ?一応ね」
「......制御が甘い、未熟。」
「うっさいわよ!あんたの氷棺なんて私が放つ1秒前に解除されてたわよ。」
「......あなたのだだ漏れがいけない。」
「この!」
「......」
そういう疑問を私が持つのは当然だと思うが、今は私よりも壊したことの方が大事みたいでスルーされました。泣いて良いですか?
して、もう一度視線を『あの人』に向けると彼はその場で硬直して動いていなかった。
ゆっくりとだが薄れていく体。
じっとこの現象を見つめていると抱えているオリジンが言った。
「あそこにいるのはこの空間に焼き付いた影みたいなものです。実際にはそこには何もいませんよ。あの魔法は発言呪文と同時に発火し、燃やし尽くすものですが、恐るべきはその燃焼速度とその温度の急上昇から発生する衝撃にあります。まぁ、その衝撃だけで私の【シールド・クォーツ】にヒビを入れますからね。恐ろしい限りです。」
なんと、いうチート......
もうしゃべる元気もない私に最後に驚くような現象が訪れる。
「て、いうかよぉ......お前壊したのこの空間じゃね?」
「まさか......」
「......うそ」
近づいてきたギルの発言に視線をリラさんに向けるレーゼンさんとセラフィ。
あ、オリジンさんは気づいていたみたいなのか済まし顔でしたけど。
してリラさんはーーー。
「......ふっ弁解しないわ。」
その言葉を引き金にしたのか、どうなのか、
空間に亀裂が走る。
1000年間誰も壊せなかった『イシュリカ』の結界が崩壊していくようだ。
「てめえは、威力を考えろよ!」
「私的にはあんた達も燃やさなかったんだから良いでしょ?」
「リラこっちはガードしてたんですぅー」
「......いい、もうバカは直らない。」
「なんですって!無表情!!」
「いいですから、空間の裂け目に走ってください。」
結界の残骸をよけつつ、言い合いをする彼女達が恐ろしくも感じ、頼もしくも感じました。




