合流③ー『激戦区』ー
コンクレント中層域にある冒険者ギルド『イシュリカ』
名の由来は、1000年前に魔皇シュレイを討伐した勇者パーティーの一人から因んだものだ。
当時のことを覚えているものは少なくはない。
それも長い時を生きる種族がいるからこそ、歪曲することなく真実を語り継がれているのだろう。
イシュリカは『結界の神子』と呼ばれていた。
二つ名の通り、【結界】系統のスペシャリストでもあり、魔皇討伐において魔皇と魔皇の魔法領域のパスを遮断してしまうほどの実力者だった。トドメは不意打ちと語り継がれているが、魔皇を追い込んだ要因の6割は間違いなく彼女だろう。
そんな彼女の名を関する冒険者ギルドは当然の事ながら強固な【結界】が張られている。
古龍の咆哮の一撃すら完全に無効にする彼女しか構築できないオリジナルの【結界魔法】。
それが1000年経っても衰えることなく存在しているらしい。
「そのイシュリカさんは異世界人だったのですか?」
冒険者ギルドに続く細い道を通りながら、ギルドの成り立ちを話してくれた当時を知る物質精霊のセラフィナイトに問いかけました。
セラフィはコンクレント城で暴れる大きなドラゴンとドラゴンに向かい合うラクダに乗った王冠を被る人ではない気配の存在を、時おり確認しつつ先に進んでいきました。
「イシュリカですか?彼女は純人族で北大陸生まれと同僚に聞きましたけど。」
「そうですか、チートぽかったから異世界人かと、そうですよね......この世界は普通にチート並みの方々が暮らしていますもんね。」
そう考えると召喚で呼ぶより、強い方々を勧誘した方が早いんじゃないのかな......
そんなことを思っていると、セラフィが、着きました。と言った。
「さて、正面入り口にいますが、【防衛結界】があることを考えると無理矢理とはいきませんね......」
セラフィの目の前には3階建てで2階部分に横向きのでかい看板がありました。
看板に書かれている文字はユーレリーゼの言葉で『イシュリカ』と書かれているようです。
私にも読むことが出来るのは、きっと魂の記憶に言語が残っているのかもしれません。
セラフィはショートヘアーの白髪を片手で掻きました。
「嫌な予感がしますね。これを開けたら後戻りが出来ないくらいの出来事に巻き込まれそうな予感バリバリですよ。」
デフォルメした3対6翼の天使の翼を解すように動かし、頭の上に浮かぶ光の天輪が段々とスピードをあげて回転していきました。
『う~ん。』と唸るセラフィを見て、正面に存在するドアを凝視してみますが、私には異常が分かりません。
確かに現在は人族の少年の体ですけど、元の姿でも気付いているかは怪しいところです。
「でも、セラフィ早くしないと、あっちも危ないと思うのですけど。」
私はセラフィに上層域にあるコンクレント城があるであろう方向を指しました。
指の先に示された城は最早天辺の原型がなく、氷で覆われた街の筈が、古龍の咆哮で所々水分が蒸発する煙を上げていました。大通りも覆っていた氷が溶かされ、地面が顔を出していました。
「しかし、この中は現在、異界になっているみたいなんですよ。」
「!?ちょっ。」
ギルドの入り口に触れるセラフィの手がズププっと空間にのまれていく光景を目にしてしまい、慌ててセラフィを引っ張り入り口から距離を取りました。
どうやら、空間の境目があるようで、話を聞くと、行きはすんなり行けるが帰り道はない。とのことで、この中に入るのを尻込みしてしまいます。
「帰ってこれないとか、嘘ですよね?だって街中ですよ?」
そうですよ、ここは街中です。そんな水性生物を捕まえるトラップみたいな構造は信じられません。
「そうなんですけど、今発動している【結界】が神族や巨龍種に対するものですから、これ滅多に発動しない筈なんですけど......」
困ったように腕を組み、空間を睨み付けるセラフィはハッと後ろを振り返った。
「ちょっと、本気ですか!?【光翼燐】。」
ぼさっとする私をいきなり掴み、元のサイズに戻したすべての翼から一時的に目映い光の羽根を撒き散らし、ギルドに向かって短距跳躍を決行していた。
私は何が起きたか分からず、担がれた方向に目を向けると遥か遠くからこちらに向かって放たれるであろう攻撃にゾクリとしました。
「え!いきなりなにを、なんで私!?」
すんでの所で、閃光を伴う龍の一撃【ドラゴン・ブレス】がばらまかれた光の羽根で2秒ほど減衰してくれた。
その貴重な時間に目の前に口を開けて待っている冒険者ギルドに飛び込んでいく。
丁度飛び込んだら僅差で、冒険者ギルドの防御結界を揺るがす巨大なドラゴンの咆哮に呑み込まれていった。
今の光景を外から見ると、白熱の光線が文字通り冒険者ギルドに直撃しているように見えただろう。
残るは威力を物語る大振動とそれでも壊れない強固な結界だけだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
目を焼くような鋭い痛みに悶えながらさっきの光景を思い出しました。
いったい何が起きたんでしょうか?
光線を撃ってきたのは紫色のドラゴンですけど街中を歩いているときは撃たれませんでしたよ!?
ん、その時はこっちに気づいていなかったのかもしれませんね。
「それにしても、あれが龍種......あんなの討伐依頼とか出てるゲームを思い出すとハンターって勇者じゃないですか?」
踏みつけや、熱線、噛みつきなどを食らっても行動に支障を来さないチートな彼らに思いを馳せつつ涙目を擦ります。
「【結界】内にはやはり簡単に入れましたが、これは......」
私の側で、そう言って息を呑むセラフィは何を見たのでしょうか?
くっそ、私の視界がボヤけてなにも見えませんよ!!
「何があったんですか?セラフィ。」
「しっ。多分誰かしら入ったことには気づかれていますが、隠れましょう。」
「へ?」
目を擦りながら視界を確保しようとしますが、ピントがずれた状態では、この空間の遥か遠くに無数の動く影と時折チカチカとする閃光、そして爆発音となにかがぶつかり合う音が絶え間なく響いてきました。
「こちらへ。」
「う、うん。」
セラフィに導かれ何かの残骸?の影に隠れて様子を伺います。
まぁ、伺っているのはセラフィなんですけどね、私?今目が見えないム○カ状態ですよ。
「伏せてください!」
「ふべしっ」
バカなことを考えていたら、セラフィが私を突然押し倒してきました。
頭を地面に向けて倒されることはこれで2回目ですね。はははっ。
「ああん!?あ、のやろう.......ぶっ殺す!!」
地面と2回目のキスを体験した私のすぐ側で大きな破砕音と恨みがましい声が聞こえました。
どうやら声は男性の声で......ん?聞いたことがあるような。
「ギル!ちょっと状況を説明してもらってもいいですか?」
「あぁん?あ?」
視線がセラフィに押し倒される私に向いた気がします。
ちょっと、なんですか!その何しての?みたいな目は!!
「ちっ、そういうのは家に帰ってからヤれよ。貴族のクソガキ。」
「違うんです!私は寧ろ地面とベーゼをを交わしていただけです!フリー.....ドさん?」
喋っていて気づきましたけど、この人フリードさん?
動きを止めた私に怖い顔で睨み付ける金髪のツンツンのイケメンの人。
2秒ほど止まったあとに驚いた顔をしたフリードさんらしき人物は私に指を刺し、押し倒しているセラフィに視線を送りっていました。
「おい!セラっこいつ!?」
「察しの通りですよギル。」
「男装してんのか!?」
「ちがいますー。男なんですー。目が悪いんですか?」
そして頭をむんずと掴まれ、口許をピクピクさせながら力を込めてきます。
ダメですよ!中身出ます!!出ちゃいます!!!
「おぉし、間違いねぇ、この人をバカにしている感じ、お前アンだろ?」
そうですけど、手を!はなして!!




