強襲⑦
フルエンク空中浮遊都市の総人口は約10万人である。
サーセルブ大陸で最大規模の都市だ。
順に、
衛星都市マニフェレン。
山岳都市リーヴァリア。
そして、湖上都市コンクレント。
となる。
コンクレントの都市内部の総人口は1万2千人で、湖畔にある12の種族集落と合わせるとギリ5万に届くか届かないかくらいある。
この世界ユーレリーゼにおいて、街の総人口が1万を越えれば大都市だ。
1番の理由は『魔獣』および『魔精』の存在が挙げられる。
『魔獣』と『魔精』は自分達の縄張りを持つモノと、気ままに動き回るモノの2つに分けられる。
また『魔精』は『魔獣』を率いて大きな街に襲撃にいくことがある。
襲われるかもしれないのに、大きく構える事が出来る都市が少ないため、1万を越えたら大都市扱いである。
そんな彼らの行動は1000年経っても誰も分からないままだ。
ただ、話が通じるように見える『魔精』の上位存在に至っては、一人で持ってして1万人規模の都市を簡単に落とす事が出来る程驚異的な存在だ。
遥か昔には、この世界にも30を超える純人族の国家が存在した。
彼らは世界で1番の人口を誇り、純人が支配していると言えるほど繁栄していた。
しかしそれもすべて『魔精』や『魔獣』の襲撃により消滅してしまっている。
国家を掲げ対抗したり、敵対していた隣国と協力して『魔獣』を退け、人々が住まう領地を広げもしていた、しかしそれでも、100年足らずで簡単に取り返された。
なぜなら、彼らは殺した数だけ生み出され、しかも、殺される直前の記憶を所持し、対抗スキルを手に入れていたり、身体的変異で強化されたりして同じ手が効きづらいのだ。
殺られては、やり返し......
その繰り返しが何百年か続いたとき、いつの間にか『国家』という形もとれなくなっていった。
当時、どの大陸でも、だんたんと減っていく純人族は、ついにユーレリーゼにおいて、魔獣と精霊種に抜かれ、そこそこの数になってしまった。
すると、どうだろうか、
今まで何年、何千年と襲撃を繰り返していた魔獣が次第に少なくなったのだ。
理由は分からないが、神が何かしら介入しているのだろうと憶測できる。
純人族が数を減らし、魔獣が大人しくなると今度は、『魔族』が世界にのさばり始めたのだ。
『魔族』は国家を作り、【魔王】という魔族の王様の元、世界を征服しようとしていた。
彼らは、『魔物』を手下にして、時に『魔獣』を利用したり、『魔精』を集団で倒し、強力な力を手に入れたりと着実に征服への道を進んでいった。
しかし、彼らに荷担する種族もいれば、敵対する種族もいる。
そして、世界の3割近くが『魔族』に奪われたとき、純人族は『とある術式』を産み出したのだ。
それが【勇者召喚】
世界の支配者を名乗る【魔王】を倒すため、呼び出された異界の勇者。
最古の勇者は7千年以上も前だ。
彼ら時代の勇者はきっちり【魔王】を倒してこの世界に様々な文化・文字・技術を持ち込み、世界の発展を促進させていった。
あるとき、召喚された者の中から【魔王】が生まれる珍事が発生し、召喚された者同士の戦いになった。
【魔王】になった者は、【魔導書作成】というチートスキルを用いて、ある召喚式を組み上げる功績を残した。
これが後に、【魔王召喚】の術として様々な思惑の元、世界中で使用されることとなった。
そして......事件が起こる。
『魔族』が呼び出した【魔王】が強すぎて倒せない。
その状態に陥ったある純人族の暴君(フルエンクの先祖)が、暴走してしまった。
【勇者召喚】の儀の際に生け贄として、召喚者の結び付きが強い大切な物を捧げなければならない、しかし、何を思ったか、彼は『同族1万人』を生け贄にしたのだった。
【勇者召喚】について演説をする。という形で1万人集め、予め敷いておいた召喚陣で【勇者】を召喚した。
召喚された【勇者】は数秒で【魔王】を殺した。
そこまでは良かった。
が、
あろうことか、そいつは街にいる生き物すべてを殺しに殺した。
そうして1年で10万人という同族の殺害を犯した【勇者】は、種の進化で【邪神】になり、この世界に複数いる神の仲間入りを果たしたが、実力を試したいが為に、今まで手出しをしてこなかった別の種族を殺そうとしていたようで、いい加減見かねた植物精霊達によって異空間に封印された。
神になりたての状態では、うまく力が使えなかったみたいだ。
して、その召喚者は命からがらに逃げ伸び姿を消してしまった。
というフルエンクの本の伝承聞きつつ、物陰から大通りを見回すシュレイは、それがどうした?
とばかりに言い募る。
「で?ナチュリオレ......いま何の関係があるのよ?それ......」
「えー、わかんないかなー。」
シュレイは顔を向けなくても、ナチュリオレと呼ばれた同族が、頬を掻いて苦笑いしているのだろうと予測する。
「だって、呼び出された奴って間違いなく【邪神】だよなーって思ってねー。」
「ん?そうなの?」
今度は振り向き、カラフルで派手な見た目のナチュリオレに視線を送る。
「ほら、言ったじゃん。10万の人口が、いきなり120人だー、て。」
指を立てるナチュリオレに、そういえばという顔をするシュレイ。
「ま、【邪神】はあっちで何とかするでしょ?いまは......」
再び、しっかりとした造りの建物のドアの隙間を覗き込む。
ナチュリオレは杖を振るい、外の景色を写す魔法を使っていた。
シュレイとナチュリオレがいる現在地は
フルエンクの中央エリアと、北端を結ぶ十字の付け根だった。
フルエンクの全体構造としては、十の文字+2重円◎(外側)+丸●(中央)
になっており、あと少しで中央の主街区に到達できる所で足止めを食らっていた。
2階建ての建物に隠れつつ、外を眺める。
「ナチュリオレが隠れるところを見つけなければ、『あれ』に飲み込まれるところだったわね。」
シュレイの見つめる先には、奇妙な声を発し、徘徊している純人族がいた。
彼らは目が虚ろで動きも遅く、戦闘力はないだろうが......
いかんせん、数が膨大だ。
一回、落雷槍【ライトニング・トライデント】で貫いてみたが、殺った数の倍以上が集まってきてしまい、効果が薄いため、仕方なく隠れているというわけだ。
「たぶんだけど、10万人は【亡者化】してると思うなー。」
「まさか、集まってるの私の所だけだったりして......」
はっはっはっは、と笑いつつ、静かなナチュリオレを見ると目線を逸らしていた。
「......」
「ちょ、私だけ.......まじです?」
二人の間に沈黙が流れてから、数秒後、脳内に念話が伝わる。
『どうやら、【亡者】を北エリアの入り口に8割がた集められたらので、砲撃しますけどいいですね?シュレイ。』
事務的な会話だが、彼女とシュレイは昔馴染みだ。
どう聞いても軽蔑の意しか感じられない。
『ルナ!違うの!ブランクが長かったから【亡者】について忘れていただけよ!!』
【亡者】の特性それは、魂の探求。なぜなら【亡者】は自らの魂だけが抜け落ちた肉体がなる魔物化現象。
そのため、魂の反応には敏感で、体に魂を取り入れようと永遠に追いかけ回してくるのだ。
速度は早くなく、のっしりのっしり進んでくる。また、肉体が動く限り永遠に復活する。
倒すには、心臓や頭を貫くことではなく、燃やすか、溶かすか、切り刻むの3通りだけである。
脳内ではルナのため息が聞こえた。
『久々に会えると思ったら、相変わらずの行動......見た目も縮んだら、中身も若返っちゃったのかしらね。』
『うるさいわよ!いいから、助けて、ほら、ぱっと!ね。』
「シュレイ、あの【亡者】に金塊渡したら、見逃してくれるかなー。」
脳内でルナリアと会話をしていると、懐から金塊取りだして窓の下に投げるナチュリオレを見て思った。
『いや、それ【金の亡者】だけだから!?』
『はい?』
あ、しまった、どうやら念話でルナリアに突っ込んでしまったようだ。
『かねの......まぁ、いいです。座標軸指定。照準完了。』
【亡者】を焼き払ってくれるらしいルナリアに感謝しつつ、気がついた。
『ルナ、その威力ってどのくらい?』
『あら?たぶんフルエンクを貫通して、地面に穴開けるくらいですよ?』
『な、んですって?』
驚愕のシュレイにさらに告げられる。
『なので、照準先はシュレイにしておいたから避けないで欲しいわぁ。』
どうやら、受け止めてコンクレント周辺に被害が出ないようにしろと言っているようだ。
しかし、シュレイも植精に名を連ねるもの、たかが、序列4位の月粒子集束砲なぞ受け止めるのも造作もない。
『......ふ、私に任せなさいルナ!どんとこい!』
『!!ほ、本当に行きますよ?今ならある程度は威力分散させられますけど......』
ビックリしているルナリアが妥協案を出してきた
ルナリアはシュレイが受け止められないと思っているのだろう。
『大丈夫です、全力全開で来ても受け止めて見せますよ。』
「お、おおぉー」
シュレイが言った自信満々の台詞に、金塊を投げていたナチュリオレが戻ってきて感嘆の声を出していた。
そしてーーー。
『では、ヒマリお願いします。』
『あいあいさー。【サンライト・ブラスター】セーフティ解除......』
ん?ヒマリ?序列3位の......なぜ、聞いていませんけど!?
不思議に思うシュレイ。
『集光率98%......照射!!』
『え?ちょっ』
『誤差コンマ3角度修正。【月面盤】配置完了......月粒子によるブースト率20%オーバー。シュレイ8秒後に着弾します。』
それしかないって!ああ、考える時間はどうやらなく、シュレイは大急ぎで入射角を導きだし、綺麗な装飾の大きい盾を構える。
シュレイの後ろにはナチュリオレが抱きつき、支えてくれるようだった。
「【森羅万象】」
ナチュリオレのその言葉が聞こえると同時に光に呑み込まれた。




