説得は脅迫で。
シュレイは目の前でこちらを指差すウサミミの人物を見つめた。
丁度その時、自分に掛けていた魔法の効果が切れたのか、片目の翠色に灯っていた火があっさりと消えた。
ウサミミ少女から感じる魔力量は今まで見た獣人の中でもトップクラスだったが、獣人の魔力総量がこんなに高いところは見たことがなかった。故に慎重に行動する。
周りを警戒しながら、もしもの抜け道、伏兵を確認しつつ気負わずに質問した。
「獣人の兎型よね?アルビノ種?」
「.......は?」
シュレイの問いかけにウサミミの少女は目尻をピクピクさせていた。
一発目からこれは地雷を踏んだかしら?
とシュレイは思いつつ、盾を構え直した。
なぜなら、今にも後ろで血統能力を使用している悪魔が角の間で魔力玉を形成していたからだ。
ただ、地下で射ったときと違い身体の周りを覆っているオーラが真っ黒から赤黒くなっているようだ。
制限時間でもあるのかもしれない。
こんなことなら、昔自慢げに話す悪魔公爵の話をちゃんと聞いておくんだったと、心の中でため息を漏らす。
「アルビノ?そう、そういうのよね!私が変わってるからって、なんでもかんでも!!決めつけてッ」
身体をワナワナとさせ、仕舞いには地団駄を踏み、足場の地面を砕いていた。
恐ろしい威力だ。
「だいたい、仲間内でも『なぁ、知ってたか?お前の種族って白髪赤眼のおしとやかな種族なんだぜ、それに比べてお前は.......』なんてことを平気で言うのよ!?そりゃぁね?私もちょっとみんなと違うかな?とか考えたりするわけ!それでーーー。」
うん、こっちそっちのけで熱く語ってるけど......どうしようかしら、後ろの悪魔呆れるし、ヴァルキュリーも哀れみの視線をウサミミに送ってる気がする。それに私には関係ないし。
「ごめんなさい、それは、まぁ自分で何とかして、それより貴女は何者なの?って話よ。」
近距離で熱く語っていた少女の話をどうでも良さそうにぶったぎり、この緊張感の中、新たに質問するシュレイの姿に周りはポカンとしていた。
そして、言われた当人は固まったまま動かなくなっていた。
周りから見れば、
この魔精は相手をおちょくっているのか?どう見ても煽っているようにしか見えなかった。
ウサミミ少女の悪名や素行をしる住人達は即座に彼女達から20mは距離を離れだした。
彼らは口々に叫んでいた。
「やめろ、ばか、ここで戦闘すんじゃねぇ!!」
「おい、魔精のかわい子ちゃん!そいつを刺激すんなデリケートなんだ!!」
「あれだよ?そいつ例え対象が拳サイズでも町一つ押し潰したやつだよ!」
「おい、おまえら、頼む!ギルドはいいけどそれ以外は(壊すの)やめてくれよ。」
「ギルドもよくねーけどなーはっはっはっは。」
最後の叫びはギルド職員かな?それにしても、結構言いたい放題な住人ね。
目の前で動きを止めていたウサミミの少女が錆び付いたブリキの人形のように、ギギギッという音が聞こえそうな感じでこちらに向き直った。俯いた顔のまま段々と、右手を振りかぶりーーー。
「あ、あ、あんたが聞いたくせに!バカにしてんか!オラアアアア!!」
「......おお。」
突き出された右拳に、再び盾を合わせたが今度はぶつかったときに今までに感じたことが無い感覚が両手を襲った。
それはぶつかったところを中心にして、盾が思いっきり後ろに引っ張られていく感覚だった。
まっすぐ後ろに落ちる重力のようなもんだ。
驚きつつこのまま、2撃目をもらったら、間違いなく盾もない無防備な身体に一発がはいるだろう。
そしてそれを実行せんが為に、もうすでに振りかぶっている姿が見える。
後ろに引力でも働いている盾を捨てて、こちらも応戦せねばならない。
ならば、引っ張られる盾を手放し、今度は【想天花(緑)】のスキルによる盾を召喚する。
離した盾はシュレイのすぐ後ろで空間に溶けるように消えていった。
ゲートを通し、エルシュの宝物庫に再び格納したのだ。
その際に、ゲートの向こう側がガッシャンッという大音量を出していたが気にしないことにした。
そして、展開される花の盾にウサミミ少女の拳がぶつかった。
「ん、なっ!」
「......はっ。」
再び攻撃を防がれたウサミミ少女は目を見開き、拳を振り抜いた姿勢で動きが止まっていた。
さすがにその隙を逃すほどシュレイは甘くなく、間に展開した盾を潜り、止まったいた少女の鳩尾に手を触れる。
「し、まっ。」
「【スタン・ボルト】」
【セント・エルシュ】の武装の中でも相手の動きを麻痺させるための電撃術式。
触れた所が心臓に近かったことから、上手くすれば意識を奪えたかもしれない。
しかし、さすがはこの戦いに乱入してくるだけはある少女。
明らかに動きが鈍くなっているが、しっかりとした意識でこちらを掴もうと手を伸ばしてきた。
シュレイはその手を避け、今度こそ意識を奪うつもりでもう一度同じ場所を狙う。
そして、この攻防の最中に悪魔とヴァルキュリーから放たれる光線と剣撃を出現させておいた【想天花(緑)】の花の盾で食い止めていた。花弁が2枚弾け飛ぶ所を視界に入れつつ、もう一度手を伸ばす。
ウサミミ少女ももう一度食らえばどうなるのか理化してるのか、顔を青ざめて悔しそうにこちらを睨んでいた。
つまり、避ける手段が無いのだと思い、一人倒したとシュレイは確信した。
手が少女の鳩尾に触れようとした刹那、ウサミミ少女の表情が急変した。
「っ!」
シュレイはゾッとしたが、ここで止めると相手の思う壺な気がして、ならばとさらに速くとどけと、速度をあげようとする。
その少女は罠に掛かった獲物を嘲笑うような表情をしていた。
そして、勢いよく打ち出された右手と胸元に伸びてくる赤黒い槍が迫ってきていた。
右手に刺さることは諦め、とっさに身体を捻り胸元の槍だけはかわした。
かわすと同時に右手に異物がねじ込まれる嫌な感覚が襲い、そして、焼けるような痛みが伴った。
歯を食い縛り、右手の平を貫いた槍をそのままつかみ、【スタン・ボルト】を流し込んだ。
「いいっ」という声と同時に槍が引き抜かれ、シュレイも距離をとった。
「......はぁはぁ。」
視線の先には、最初からいる悪魔と金色甲冑のヴァルキュリーに加えて黒髪のウサミミ少女に、そしてーーー。
「ビリビリっときたなぁ、もー。」
「もーもー。」
地面に2本の赤黒い短槍を刺して手をさする幼い少年と身長の倍以上はある同色の槍をブンブン振り回して楽しそうにしている少年とそっくりの少女が現れていた。
シュレイは穴が開いた手を一瞥しつつ、こちらを警戒するメンバーの実力の高さに舌を巻いた。
「まったく、これ程の実力者揃いとは.......それに、たいした連携ね。」
「いえ、こちらも貴女にやっと手傷を負わせたというのにそれが、5人がかりになろうとは思っていませんでしたよ。」
そう言ったのはシュレイの後ろに回り込んで今まで姿を見せなかった天使の青年だった。
「後ろから強襲を仕掛けようとしましたが、パージュリオクに止められてしまいましてね。それで、隙を伺っていたのですが、見付からなかった次第でして、丁度こちらに向かってきていたあの双子に協力を頼んだわけです。」
種空かしして見せる天使の青年の表情は優れない。
「ふーん、それで......もう攻めてこないところを見ると話し合いが望みかしら?」
そう言ったシュレイに周りを囲んでいた双子を除いた全員の表情が驚きに包まれる。
「なっ、魔精とやりあったことあるけどあんな知的なヤツ見たこと無いわよ!」
「はっ誰でもいいわよ!とりあえず、1対1で戦いなさい私と!!」
「でも、銀さぁ、ぼくの助けがなければ一発貰ってたんだよ?」
「直撃!ドッカーン。」
「......主、彼女はいったい。」
こそこそと一ヶ所に集まり話し出す彼ら。
シュレイはため息を吐きつつ、そろそろ言おうかしらね。
と思った。
シュレイの目の前いる天使の青年に声をかけた。
天使の青年はみんなでこそこそしているところを羨ましそうに見ていたが、話しかけられてにこやかに振り向く。
「ねー、コーラル?だっけ、正直に言うと私は魔精じゃ無いわよ?信じられないかもしれないけど。」
「あ......はい、え?魔精じゃない?あんなに殺気を振り撒いて、それほどの強さで?まさか!?」
難しい顔をしたり、驚いた顔をしたりしていたコーラルは一つの確認としてアンのことに訪ねてきた。
「では、身体を乗っ取ったのではなく、公認の関係だと........それが新種ゆえなのか理解できませんが。」
「まあ、公認ていうか、私はサポートスキルで、本来はあの子が主人格よ。どっかの悪魔が致命傷を負わしたから懲らしめてやろうと出てきたわけ。」
遠くで、赤い髪の悪魔がビクッとしていた。
しかし、信じられない様子の天使や悪魔に、どっちでもよさそうで、すぐにでも戦おうとするバトルジャンキーのウサミミ少女。
一人での説得は難しそうだった。
因みにヴァルキュリーはシュレイが危害を加えないと分かったのか送還されていった。ただ、シュレイ以外に分からない意味深な台詞を残して。
『では、いずれまた、『3度目』は一太刀でも浴びせてみましょう。この剣に誓います。』
本の所持者である天使の青年に頭を下げるが言葉はどう見てもシュレイに言った言葉だった。
(3度目......か、というか覚えてたんなら、あんたが説得しなさいよ。)
という心の声は送還された彼女には届かなかった。
一人での説得はどう見ても無理そうだった。
なぜなら、先程までにお互いが殺しあっていたのにいきなり、人違いです。
とか言われても誰が信じるのか?
ということだ。
はじめの内に弁解をすればいいというが、そもそも、魔精と勘違いしていたのはあっちであって、
私に非があるようには思えないんだけど。
困ったわね。悪魔公爵の子孫のあの子も私の事を知らなそうだし、
ってことで、行き着く先は同族よね。
という考えに行きついたシュレイは遠くでこちらに近づかずに見守る彼らに声をかけた。
「さっきの槍の傷がとても痛いのだけど、『アカギ』は私に対して宣戦布告したと取って良いのよね?」
ちょっと脅すように言ったのは、手が痛かったから困らせてやろうと思っただけで、深い意味はない。
手の治療は当然自分でした。アンの身体に先程のように光素が入っているとシュレイである私は気持ち悪く感じたからだ。
視線の先では、槍を地面に落としあたふたとする双子がいた。
「わ、わわわ、やばい、想天花さんだって知らなかったし、じいちゃんに怒られる。」
「黙ってればばれないと思ったのにバレたぁーこれ、じいちゃんドカーン!あははは。」
「わかった、言わないわ、水に流すから。」
「ホントですか!!」
「ホント?チビの癖にホント!?」
「っ、この!......ま、まぁ、そういうことよ。どうしんじたかしら?」
そうして、あわてふためく彼らの姿を見た、天使と悪魔は納得した様子だった。
双子は悪魔と天使に拳骨と説教を貰っているようだ。
しかし、ウサミミ少女はーーー。
「は、なに......宴は?終わり!?」
「はいはい、少し黙っていてくださいね銀。」
コーラルにつれて行かれるが、理解していない様子だった。
大丈夫なのか......あの子。
少し心配なシュレイだった。
天使の代わりにこちらに来た悪魔が頭を下げてきた。
「ごめんなさい。私がちゃんと手加減できていれば.......」
「ああ、いいのいいの、やるときはバンバンやっていいからね。油断していたこの子が悪いんだから。」
そう言われて、ホッとする一方、疑問も浮上する。
「えっとでは、その子が油断して致命傷を追ってしまったら、相手を恨んだり、怒ったりしないのかしら。」
当然の質問だろうが、シュレイはニッコリとして答えた。
「は?当然そんなやつ八つ裂きにするか、一発はぶん殴るわね。今回はある意味満足。」
「言ってること違うわ。」
そう聞こえないようにボソッと呟いた。
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