邂逅、月の使徒
時間は少し遡る。
地下の結界を破り外に出る少し前のこと。
「......意見を受け付けます。私に言うことがあるのではないですか?」
「久しぶりね!あれ、髪切った?」
「......」
「ご、ごめん、ジョークよ!アイアンクローするのやめて、つぶれる、クシャって!!」
シュレイは【小さな庭園】の領域内の上空に浮かぶ自らの領域魔法【空飛ぶ島】と10年ぶりの再会を果たしていた。
再会した二人の空気は剣呑だったためにシュレイが和ませようと、異世界の電波情報局?で流れていた人物の会話法を実行したが、目の前の緑髪のロングヘアーの女性には通じなかった様だ。
緑髪の女性は頭を掴んでいた手をパッと離して無言で佇んでいた。
「イタタタ......」
「再度問いかけます。言うべきことがあるのではないですか?」
「うっ、」
シュレイは人格を持つ自らの魔法領域の威圧する態度に非があるのか畏縮する一方だった。
深呼吸を軽くして、エルシュに向かって頭を下げた。
「どうも、すいませんでした。もうしません。」
「謝罪の意、了承しました。では、次に10年前の件ですが......」
「え?私は10年前の封印消滅の件だと思ったのに......」
「いえ、今さっきおちょくった件での謝罪と認知しています。」
「細かいわ!水に流してよ!」
「私の庭園は循環システムを採用していますので、流れても戻ってきますが......」
【空飛ぶ島】......領域独自の独立空間を持ち、彼の映画の島をイメージさせる大きな木に巨大な城の見た目で下半分は球体になっている。下方部分には、外敵に対する様々な魔法武装が装填されている。その数は膨大に存在し、そのどれもが、主の魔法として引き出すことが可能であり、最下方には大きな主砲が備わっている。まさにラ○ュタである。主への魔力供給を行える巨大な魔力貯蔵石が中心部に存在し、現実世界への具現も可能。さらには、主との接続がなくても消滅せずに異空間に残り永遠に魔力を貯めて主の帰還を待ち続けることもできる。この貯蔵魔力を用いて1000年分貯めた魔力で界を渡った。
また、シュレイの魔法領域は主人格を持つ管理者が存在する。けしてシュレイがずぼらで、片付けないから生まれた人格ではないとシュレイは思っている。
そんなエルシュはシュレイが1000年前、いや、シュレイが魔法の才能を開花させた時から一緒にいるシュレイをよく知る領域人格である。
彼女が怒っているのは10年前の惨劇のことのようだ。。
シュレイがあの惨劇で自らの魂を使い少年の命を救ったことを責めているのだろうか?
それとも、相談もせずにそれを行い、10年間放置したことを怒っているのだろうか?
もし後者なら少しおかしい......
なぜならシュレイは1000年間と言う長い時間の後にあの世界に転生したのだ。今回はたかが10年じゃないか、そう思ったためにこれが理由ではなさそうだ。
「エルシュは......寂しかった?」
「疑問、10年なんて目を瞑ればすぐの時間をそのように思ったことはありません.......が、」
「う、うん。」
「後悔しているのだと思います。」
「後悔?エルシュ......」
「主にとっての10年は......いえ、世界転生は良かったのですか?こんな結果になるくらいなら私はもっとしっかりと忠告して止めるべきだったのではないか?と。」
エルシュの表情は相変わらずに読みづらいが言葉の節々に負の感情が見え隠れしていたように思われる。
シュレイはエルシュと長い付き合いだけど、こうも悩んだように見えるエルシュは初めてだ。
「私にとって界を渡ったことは、とても良かったことで幸せだったわよ?うーん、どちらかというと今の方が幸せ?」
目を見開くエルシュに苦笑いを返すシュレイ
「そんなに驚かれるとは、さすがに思わなかったわ。」
「いえ、ですが、いえ.....」
シュレイも、エルシュが言いたいことはわかっている。
1000年も前にシュレイは異世界に思いを馳せていて、きっとそこはここよりも平和で種族の差別もない良い場所なのだろうと.......そんな夢物語な世界があるのだとよくエルシュに熱烈に語っていた。
今思えば、そんな世界なんてなく、同じ種族なのに争いが絶えず、陰険で、多の存在に対しては過剰なまでに警戒をする種が世界にのさばり、自分達で環境を破壊しといて、環境を守るためには整備が必要とかワケわかんないことをやっていたり、結局はそれも何かの宣伝にしかなっていなかったり、そんな種が世界で支配者とか、笑い話にもならない。
やはり、良いことずくめの世界なんてありはしないのだ。
そしてその世界で起きた、いざこざに巻き込まれてしまったシュレイが幸せと言ったのがエルシュにとっては不思議だったのだろう。
でも、それでも、出会いはあったし、いい人達にも出会えた。確かに、最後は色々あったけど、後悔はしてないかな。
そう思うシュレイだった。
詳しくはエルシュに語らないけど、きっと本心で言っているとわかってくれるだろう。と思った。
「それにしても、私、最初に現実世界で魔法を引き出すとき拒絶されるかと思ったわ。」
「!警告します。それは私に対する侮辱ですのでやめていただきたいです。そんなことは絶対にありません。」
「......引き出した魔法の威力が高かったのは?」
「久々で嬉しかっただけです。」
「そ、そうなの......私もホッとしたわ。」
それからしばらくはアンのスキルになったこととか、アンがどのくらい危機管理力がないかとか、魔皇城がまだあったとか、
これまでも溝を埋めるように長々話をしていた。
そうして、4時間くらいたった時、【小さな庭園】の青い綺麗な空が、真っ赤に染まった。
異常を関知したのだ。
「アン!?」
椅子から立ち上がったシュレイは自らの意識を切り替えるようにして、領域内から離れていった。
その光景をキリッとした表情でエルシュは見送った。
(なにかあれば、頼ってください。主......)
ーーーーーーーーーーーーーーーーー。
シュレイが現実世界に戻ってきたとき、胸に物凄い痛みを感じ、強制的に魔力の放電をして痛みを和らげた。
どうやら、アンが意識を失っていることにより、身体の方に入ったようだ。
痛みの原因を探そうと身体のあちこちを触るが異常はないようだ、少し気になることと言えば、光力の名残を胸に感じるくらいだった。
視線を前に向けると、程々な強さの悪魔と天使が私を警戒していた。
そこで、シュレイは気づいた。
こちらに驚いた表情を向けつつ警戒を強める二人と地下の色々と抉れていてボコボコしている拡張空間.......導き出される結論は、
1.地下に封じ込められた中、強制的に戦わせた後に、意識を奪い捕虜にしようとしていた。
2.ここはフルエンク内だけど、悪魔が裏切ってぐさりとした。天使は私を助けるために回復の力を使っていた。
3.実は何かの試験でアンがヘマった。
うん、まず、3の可能性が大だけど、悪魔の尻尾にアンの血の匂いがついていることから2も否定できない。
どっちとも言えないけど、
大事なのは1つだけーーー。
アンに致命傷を負わせたんだから、1発くらいは殴ってもいいよね?
そう思ったシュレイは言った。
「お互い言いたいことはあるけど、一発殴らせて」
そうして始まった戦いで、悪魔と天使の二人がシュレイのことを魔精と勘違いしているらしいと戦いの途中で気づいたが、説得は倒してからしようとシュレイは開き直っていた。
初っぱな、高速で後ろを取られ、つい癖で【想天花(緑)】の花の盾を使ってしまった。
使用したとき視界のMPの下に変なアイコンが6つあることに気づく。
アイコンは6色の花にそれぞれの独特のマークが入っていた。
さらに、緑色の花に赤い×印がありその上に数字が書かれていた。
段々と減っていくようだ。
このとこから、どうやら使える【想天花】スキルが視界に表示されるようになったみたいだ。
これは正式にエルシュと接続したからかもしれない。
上から簡単に書くと
赤色の花ー1/1
青色の花ー1/1
緑色の花ー3/4(この上に×印と300という表示)一秒で1減っているから単位は秒だと思われる。
黄色の花ー2/2
白色の花ー0/1
黒色の花ー0/1
さて、では、エルシュから魔法を引き出した場合変わるのか?どうか、結果は変わらなかった。
悪魔の戦闘スタイルはシュレイの部下にいた悪魔公爵にそっくりだったため間違いなく、メイロードの血統能力の継承者だろうと踏んでいたが、どうやら出し惜しみをしていて使ってこなかった。
換わりに、天使が【カーラーン神書】を使ってヴァルキュリーを召喚してきたのでそれの相手もしていた。悪魔と天使の連携も中々だった。
後方にいる天使は時折、悪魔に回復魔法を掛けてることからしっかりと役割が決まっているようだ、手強いと感じたため、
【カオス・インフィニティ】を使った。
それにより、空間を揺るがす大振動が起きたが、彼らは防御結界を張り防いだみたいだけども、無傷とはいかず満身創痍だった。
彼らにシュレイは声をかけた。
「ねー、もう止めときましょう?実力差は理解したでしょう?」
「何をざれ言を!」
金色の甲冑姿天使が憤慨しているが、彼らの表情は遠くてよく見えない。
「まだです!『ローレンシア』『オクフェクト』。」
『『はっ』』
天使の持つ本が発光して、返事をしたヴァルキュリーの体を覆い満身創痍の身体を動きに支障がないくらい回復させていた。
ヴァルキュリーと再び激しい攻防が続く。
悪魔が向かってこないと思っていたら、膨大な魔力反応を感じ視線を移すと、黒い球体の中に悪魔が篭り、即座に開かれていく。
二人のヴァルキュリーの攻撃をいなしながら、様子を見ると、先程受けた傷も完全に完治した悪魔がそこにいた。さらに、悪魔は身体全体に真っ黒なオーラを纏い、赤黒い角も少しばかり延びていた。
シュレイは確信した。
(ついに来たか.....血統能力)
警戒を少しあげて、悪魔の角の間から撃たれる収束砲に合わせて、エルシュの宝物庫から【盾】を取り出した。
「ガァーーーーー。」
こちらに突き進む極太の禍々しい色のビームに取り出した盾を合わせた。
「この盾って本当はヒマリとルナリア対策なんだけど意外に優秀よね。」
直撃するビームは盾より先には進めず、上下左右に盾を境目にして広がっていく、しかし、その衝撃反動はシュレイには感じられなかった。それほどまでに盾の性能が高いことを現している。
ただ盾の向こう側では、上から隙を突こうとしていた闇色の甲冑のヴァルキュリーが盾に当たり上に広がるビームに呑まれ、地下固定空間の天井にぶつかり、そして空間が砕ける音がビームの終息ととも響いた。
悪魔は全力の攻撃を平然と受け止められたことに唇を噛んでいたが、とりあえずはこの崩壊する空間から脱出するべく上を目指す、その際、もう片割れのヴァルキュリーと一緒にシュレイに対する牽制も忘れていない。
もう一人の天使はどこに行ったのか探したが、もうすでにこの空間から脱出したようで見付からなかった。
シュレイは二人から来る攻撃をかわしつつ上を目指すが、出遅れたことから、先をいく二人と差が出来つつあった。
それに彼らは空を上昇していく、翼の無いこちらは不利だ。
下手をしたら閉じ込められるかもしれない、ならばーーー。
「上位の植物魔法、【覚醒】」
シュレイが発動した瞬間、シュレイの片眼に翠色の炎ようなオーラが灯された。
そしてその効果はーーー。
シュレイは、上から落下してる岩や、結界の欠片、果ては、牽制に放たれた光線系の魔法粒子の上を足場にして物凄い速度で上昇していく。
二人に次第に追い付き、結界を抜けるタイミングでほぼ同着になった。
外に出た3人は再び向かい合うが、ザワザワする周りに気づき、ここで戦えば巻き込んでしまうことになると理解していたため、お互いに手が出せないでいた。
しかし、その膠着時間で周りを埋められるのを嫌ってか、その場を即座に離れようとする。
そのとき、声高らかにこちらに向かってくる攻撃の対応のため、その場で盾を構えた。
「私......参戦!いくわよ魔精!!」
「い、いきなり誰よ!?空気読みなさい!」
盾にぶつかったのは黒髪ウサミミの少女の拳だった。




