そのとき、彼らは①
「あら、よく防いだわね......」
「くっ、A級クラス以上......じゃないの」
そして、再び、ぶつかり合い、地下空洞を振動させていた。
小人族の町、冒険者ギルドの地下で空間固定結界を破壊しかねない攻防が繰り広げられる中、
別の場所では......
ー町外れ『クレーフの宿屋』にてー
小人族の町の外れにある『クレーフの宿屋』は2階が宿屋、下が酒場である。その酒場では120cmくらいの小柄な人物が、バーカウンターの向かいに座って美味しそうに生クリームをこれでもかと使った特大パフェを食べている15歳くらいの少女と話をしながらのんびりしていた。
「それにしても、ここ最近女神さまを見かけていないッす......やる気起きないッす、銀ねえさん。」
「おお、イチゴの下にバニラアイス、その下にイチゴ......だと、激うまし!!」
「聞いてない?ひどいっす。」
「ああもう、うっさいわね!辛気くさいし、そういうの今要らないから!この強敵に挑んでるんだから邪魔しないでほしいんだけど。」
パフェをパクパクと食べ続ける少女は、店主を睨み付けながらそう言った。
店主はため息を吐きながら愚痴をこぼす。
「はぁ、もう5つ目っすよ。飽きずによく食べますね。まぁ作ってるこっちとしては美味しそうに食べて貰えるならいいんすけど......太りますよ?」
小柄な店主の視線の先には積み重なったパフェの容器がタワーのようになっていて壮観だ。傾き具合もなかなかだと店主は思っている。
口に運ぼうとしたスプーンを止めて、固まる黒髪に赤い目をした少女は「5つ目.....」と呟いて、頭の上にあるウサミミをへなへなとさせていた。
「そう、今日も5つ、昨日は6つ、一昨日は5つ.......体重も......じわりじわりと。」
少女はワナワナと震え、呪文のように呟いていた。
店主は、なぜか落ち込んでいる少女に話題を変えようと、別の話を降る。
「あ、あぁ!そうですよ、コーラル女史が連れてきたロリコンと機械ロリっ子はどこにいったんすか?」
店主の言葉にピクリと反応してカウンターに突っ伏していた少女が虚ろな目線で答える。
「コーラルは.......知んない、巡回警備でもしてんじゃないの?あと、フルエンクのおっさんと機械人は魔性の森で特訓してると思う、ついでに、アレを壊せる人を探してるみたいよ。」
少女は店主がコーラルのことを女史と言ったことを訂正せずに言う。
昔初めて自己紹介をしたとき店主はコーラルを見て『男とかあり得ねーす!世界が認めてもおれは認めねーす!』と言って以降、コーラルのことを女史といい続けている。コーラルも慣れたのかあまり気にしていないらしい。
しかし、店主......ロリコンとか、多種族にとっては健全ロリの見た目の小人族に言われたらショックでかいな、と思ったが少女は口にしなかった。
「そうなんすか?じゃあ、魔性の森の樹海迷宮まで行ったんすかね?」
首をかしげる店主。ウサミミ少女は耳をピコピコ動かしつつ、気だるそうに答える。
もう、パフェには手を付けないようだ。さっきの台詞が聞いたらしい。
「いや、実力的に無理でしょあのおっさんはさ。」
含みがある言い方に疑問に思い店主は訪ねようとしたらーーー。
少女は突然、耳をピンとはり立ち上がった。
呆気にとられる店主は声をかけようとしたが、少女の雰囲気が変わっていた。
これは鋭い威圧感を発している少女がある方向を向いた。
「......来る!」
「へ?」
少女の言葉と同時に地面が揺れ始めた。次第に大きくなり10秒くらいで収まったが、地面が爆撃とか魔法攻撃とか関係なく揺れるなんて初めてのことだ。戸棚にあるものや家具は、魔法によって常に振動軽減が掛かっている特注品であるから問題はなかったが、初めてな揺れでパニックになっていても可笑しくはなかった。しかし、ウサミミの少女が、予め何かが来ること教えてくれたのでそんなに取り乱すことはなくてほっとしていた。
地震を事前に関知したウサミミの少女は震源地を特定しようと、耳を忙しなく動かしていた。
「ちがう、ここじゃない、ここ?でもない。」
「......」
店主はとりあえず、地震も収まったし、店の異常を確認することにした。
しばらくたって、少女は赤い目をぱっちり開いた。
「見つけた!冒険者ギルドの地下固定空間!」
そう言われた店主は手に持っていた皿を落としそうになったが、なんとか持ち直すことができた。
なぜ、そんなところでになにが?いや、まさか空間を揺るがす攻撃魔法でも......いやあり得ない。
そう店主は決めつけ一息つく。
少女は、安堵のため息を付いている店主を無視して宿屋の2階に声をかけながら、外へと走り出していた。
「エルアール!!なんか面白いこと起きてそうよ!先に行くわ!」
「今の揺れの震源地にいくの?」
「グラグラ......ドッカン!!」
「ドッカンはしてないかな!」
「ないかな!ないかな!!」
駆け出して行った少女を、2階の階段から赤黒い影が2つ猛烈な速度でウサミミの少女を追いかけていく光景を固まって見ていた店主は、まぁいつものことか......と思うことにして、パフェの容器を洗いに掛かっていた。
「気を付けてイッテラッシャイ。」
相手も誰もいない空間に感情のこもっていない棒読みの声が流れる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー。
ー冒険者ギルド一階受け付けにてー
フルエンク空中移動都市で管制室の艦長をしていたワーズは現在、無職だ。
いや、一応新米冒険者ということになってはいるが、40過ぎのおっさんが今さら冒険者なんて笑っちまうよな。
でも......
ワーズは両手に繋がれた少女達の手を握り、改めて思う。
全部とはいかないが、せめて両手に抱えられるだけは助けないとな......
ワーズの視線の先には綺麗な顔立ちの無表情で一言もしゃべらない少女達の首に向けられていた。
そこにあるのは黒いチョーカー......奴隷の証。
これを外すことが出来るのは正式には主に設定されたものだけだ。
フルエンクの王は自身を主に、そして命令で、フルエンクの住民には絶対に従うこと。という命令が下されている。
つまり、ワーズが幾ら喋るのを強要しても、フルエンクを飛び出し、国外追放で指名手配までされたワーズの要望を彼女達が答えることはできない。
それに、再び命令されれば、自分の意思に関係なく動いてしまうため常に耳に嵌めるタイプの通信遮断機をつけておくしかない。
現在、彼女達に課せられた命令は、
反抗的な意思表示の禁止。
命令には絶対服従。
相手に話しかけられない限り、話すことも禁止。
ここに、最後の命令で王に嘘の証言を言うように言われたこと。(これはもう関係ない)
そして、都市を飛び出すときにワーズが通信遮断機をつけろと言ったこと。
これで、命令は出来なくなったが、変わりにワーズも彼女達と話が出来なくなった。
だけど、手を握り返してくれる彼女達の目は感情が渦巻いている様に感じる。
どんな感情化はワーズはわからないが......
それに、この町の異種族達は、フルエンクが行う洗脳教育がどれ程間違った内容なのかを思い知らされた。
町で多種族の子供達が入り乱れ、わいわいと遊んでいたり。
小人族とドワーフとエルフとハーピーの異種族冒険者パーティーがあったり、そのリーダーが純人族だったり。
驚きの連続だった。
だからこそ、フルエンクの凝り固まった考えで作られた、このチョーカーも壊せる方法があるんじゃないかとワーズは思っている。
冒険者ギルドに加入してから、もう、一ヶ月くらいがたつが、未だにこれを壊せる人物には巡り会うことができないでいる。
話を聞く限りじゃ、迷宮区のほうがランクが高く強い冒険者が多いから、彼らなら知っているのではないかと考え、自分のランクをあげつつ行動範囲を広げ、さらには日々の生活の資金を稼ごうという魂胆だ。
「それに、コーラルにおんぶにダッコじゃかっこ付かねーしよ。」
つい声にだしてしまったワーズに、こちらを見上げる4つの目があった。
ワーズはなんでもない、といい受け付け嬢に依頼達成の報告と報酬をもらいに行った。
「わぁ、ろりこ......んん!ワーズさん!依頼はどうでしたか?」
「いや、もう色々と今ので台無しだよ?おっさんこの町で今ワースト級の称号手にいれてないかな?」
「......まっさかぁー」
「おい、嬢ちゃんなんで目をそらす。」
そんないつも通りのやり取りの中、
突然、地面が揺れ、揺さぶりは大きくなり、立っていられなくなるほどの揺れを体験した。
二人の少女を抱え床に覆い被さったワーズは揺れが収まると同時に、不吉な音を聞いた。
地面の奥から、ガラスに段々とヒビが入っていく音が聞こえてきた。
ワーズは汗が流れるのが留まらない。
体を動かそうとするがなにが起こるか分からない恐怖でろくに動けないでいる。
歯を食い縛り、なんとか動こうとするが、体を締め付けるような威圧感を地面の奥から感じてしまうのだ。
「ああああ。」
「なんなのなんなの!!」
「うごけ!うごけよ」
周りでも同じ状況のようだった。
視線をぐるり廻すと、動けないものと動けるものの二通りいることがわかった。
動ける彼らは主に、天使・悪魔系のものだけで、獣人は気を失っているものがほとんどだった。
なんだ?この差は......
唖然としていたら、からだが冒険者ギルドから引っ張られていく。
誰が助けてくれたのか振り替えると、自分が抱えていた二人の機械人が自分の両手を引っ張り合っていた。
それを見たときものすごくやるせない気持ちになった。
声には出さず、唇を噛み締める
(助けるって誓ってこのざまか!くそっ。)
ギルド内からほぼ全員が運び出された丁度その時、ガラスの甲高い破砕音と空間を叩く衝撃波。
そして、上空に打ち上げられたひとつの影。
影が粉塵の中に落下してバキバキという音が聞こえた。
さらにそのすぐ後に3つ光が粉塵から排出された。
一つは赤黒い炎を纏った角のある悪魔。
一つは金色の騎士甲冑で金色のオーラを纏った美麗な天使。
一つは黄色髪に片眼に翠の炎を灯す小柄な人物。
ただ、その三人の中、敵対するように立つ小柄な人物が一番の威圧感を放っていたのは間違いがなかった。




