理不尽な力
私は目の前の少女から距離をとった。
目測30mくらいだけど、安心できないのはなぜだろう。
まさか、ここも射程圏とかいうのかもしれない。
一緒に距離を取った幼馴染みに指示を出した。
「コーラル援護して!!闇属性・付与【ダーク・リベリオン】」
瞳に6色の花弁を宿す少女を視界に捉えながら、自身の肉体に闇属性の力を付与する。
私の肌に浮かび上がる模様が緑色の蛍光色のように発光しだした。
【ダーク・リベリオン】......各属性に存在する付与魔法の一つ。
闇属性の特徴はSTR(力強さ)の上昇のみ。
というシンプルなものだ。
しかし、それ故に上昇値もけた違いだ。
地面を踏み抜き、身体を加速させた。
自慢じゃないけど、あの猫又の身体能力に迫る速度である私を捉えられるはずがない。
案の定易々と後ろを取ることが出来た。
魔精相手に慈悲など不要。
殺せるときに殺さないと殺られるのは私達だ。
ここまで潜り込んだことは大したものだけど、上位魔獣ではなく、その体に入り込んだのが運のつきね。
なぜなら、その体の魔力はゼロに近く、魔核も四桁しかないために、まだ町の外にいる低魔獣の方が強いほどだ。
私は手刀を水平に振るう。
ただし、その手刀は、指の先から更に1m近い刀身を模した魔力が形成されていた。
「とった!!」
振り抜かれた手刀、舞落ちる魔精の首......の筈が、
落ちたて来て、サクッと地面に刺さったのは私の魔力で出来た刀身の先端だった。
唖然とする私、見つめる先には、
「っ、あ。」
首だけをこちらに回し、ごみを見るような冷めた視線が私を竦み上がらせた。
声が情けなくもれてしまった。
私はもうだめだと感じる。
ここで終わるのだと。
いったい何に防がれたかもわからずに、終わるのだと。
せめて、血統能力を解放していれば.......
身体をこちらに向けてくる少女の姿がスローモーションに見える......これが灯馬走なのかもしれない。
唇を噛み締め、目だけは相手を睨み付ける。
「中々の攻撃だけど、それじゃ私の花は貫けないわね。残念無念まーーー。」
「天燐光独奏、第二節ー【避雷のパージュリオク】。」
魔精がこちらに向けた手から意趣返しのつもりなのか、剣を模した雷を投げつけようとしていた所へ。
雷の剣を上へと鋼色の直剣で弾き飛ばす、純白の鎧に身を包んだ天使の女性がいた。
「......」
甲冑姿の天使は魔精相手に攻め始める。
魔精も雷を武器に変えて相手取るが相性が悪いのか、天使が持つ盾に触れた瞬間、形を成していた雷の剣が放電現象を伴い四散しだしていた。
「助かったわ、コーラル。」
私はとっさにその場を退避した。
魔精は突然現れた天使の女性に驚きの表情を見せるが、それもすぐに消えていた。
天使に攻められていて、さらに自分の力も防がれているのに、余裕の表情だ。
「ふむ、ヴァルキュリーかしら?」
その言葉に隣に立ちゴテゴテした装飾で文字が発光している本を持つコーラルの指がピクリと動いた。
確かに、コーラルは秘術書の管理者で今現在使っている術式もそれに因んだものだが、意図も容易く見抜かれたとあっては内心荒れているのだろう。
「......」
「あまい、あまいわ!」
無言で剣を振るい相手の攻撃を盾で無効化してる天使の女性だが、段々と反撃を受けるようになってきた。
私も援護するべく再び駆け出そうとするが、コーラルが視線で待って欲しいと言ってきたために様子を見ることにした。
でも、隙ができたら関係なく殺る。
「お聞きしたいのですけど、貴女がいうヴァルキュリーとはなんのことですか?」
戦いの最中、コーラルは世間話をするように魔精に話しかけて、ってなにしてるのよ!
魔精は剣を振るう女性をあしらいつつ、笑っていた。
「へー、今じゃ主も戦線に出てくるものなのね。昔は天使達引きこもり予備軍だったし、変わるものね。」
「仰る意味がわかりませんが、私も一応はAランカーなので、たしなむ程度には......ね。」
足払いの後の時間差の斬撃。
ジャンプしてかわした瞬間を狙って放たれた攻撃に電撃が振り抜かれ、鋼色の剣に雷の剣を当てて、形を崩しながら軌道を変える。
「ヴァルキュリー......別名、エンジェリック・ドール。天力を用いて精製される魔法人形。神が地上を統制するときに使ってくる軍勢。強さは、その本の世界での各自の成長で上昇し、また、倒されても天力を与えれば復活可能な天界の術式ってところね。」
最初の打ち合いより、刀身が半分以下になった雷をポイッと捨てつつ自信ありげにしゃべる魔精。
やはり、知っているようだ、私は一層警戒を増す。
「ええ、その通りです、間違いありません。ただ......」
コーラルがニッコリと微笑む。
何かしらの手を打っているようだ。
魔精はヴァルキュリーから視線を切ってこちらを向いてきた、正確にはコーラルを見ている。
「ただ?すっごく気になる引きね。」
「......その子には人格がありますので貴女が知っている人形とは強さが違いますよ。」
そう言うが速いか、魔精に再接近した甲冑の天使が無言で剣を振るう。
その剣に光の魔力を乗せて。
明らかなる不意打ち、幼馴染みとして......いや、種族としてどうなの?それ。
しかし、魔精には通じなかった。
鬱陶しそうにヴァルキュリーに向かって手を振るった。
「いい加減にしなさい。実力差がわかったでしょう?エルシュ、撃ち抜いて。」
向かっていった天使の女性の右胸に直径10cmの閃光が突き刺さり貫通した。
発射地点は天使の女性の後方上空だった。
「は、なんなのいまの......」
「く、天燐光、二重奏、第8節ー『閃光のローレンシア』『影光のオクフェクト』。」
私が今の光撃に疑問を寄せていたとき、即座に行動を起こしたのはヴァルキュリーの主だった。
呼び出されたのは、2体の天使。
こちらも、甲冑姿だ。
金色と紺色の騎士。
美しい見た目に手にする盾と剣は聖騎士と暗黒騎士を彷彿させる。
彼女らはコーラルに視線を一度向ける。
『状況はパージュに聞きました。戦闘を開始します。』
「頼みますよ、二人とも、隙を見てこちらからも援護します。」
彼女らは魔精に視線を向け、綺麗な装飾の剣を抜き、かたや、禍々しい歪な剣を向けていた。
そんな光景を面白そうに見ているのは正面にいる魔精の少女だ。
「おおぅ、今度は倍のレベルかしら?倍々ゲームは感心しないわよ。」
呼び出された彼女達は先程の女性の2倍の実力をそれぞれが誇るが、それでも余裕そうな表情の魔精に違和感を覚える。
「ねぇ、元お嬢ちゃん。貴女魔力は無い筈じゃないの?」
良いところに気づきましたね、と表情で語った魔精は言う。
「そう、MP:3だったから供給させて貰いました。私の領域より。」
「なっ。」
驚くのは私だけじゃなく、コーラルも一緒だった。
構わずに話続けた。
「簡単に言っちゃうと、私の特性とそこの尻尾で穿ってきた悪魔の貴女の特性は同じ特性を持っていると言っても間違いない筈ね。魔素の綱引きも好きだけど、そんなことより領域から供給したのが早いのよ。私の領域は『上限がない魔力タンク』と思ってくれて良いわ。因みに自然回復付き!どう、すごいでしょう?」
放置してたから10年分は貯まってわ、そう遠い目を向けていた。
つまり、魔力は無尽蔵にあると思った方が良さそうだ。
『話は終わりです。行きます。』
そういって駆け出して行った金と紺の二人の天使。
私も、血統能力の解放に向けて封印を解いていく。
しかし、そんな暇はなかった。
「嫌よ、二人とかめんどくさい、纏めて殺ってあげるわ。」
そう言われた瞬間向かっていった天使も、隣のコーラルも私も動きを止めた。
いや、止めざる負えなかった。
「大気を震わせ、大地を裂け、聖光よ。【グランド・クロス】」
その場から、できるだけ距離を取ろうとするが魔精が紡ぐ魔法が異常なプレッシャーを感じさせる。
魔精は、右手で斜めに十字を切った。輝く光の十字だ。
「ココニ具現セシ闇ノ威光。【サタン・クロス】」
さらに左手でも同じく十字を切った。こちらはボヤける闇色の光だ。
二つの十字が重なりあう。
「父」という字が突き抜けて、沿っていないような形だった。
そこから放たれる魔力にゾッとする。
私は、障壁を出来るだけ張り、コーラルの側に寄った。
コーラルも冷汗がでている。
お互いに前に向けて相手より出来るだけ早く魔法を紡ぐ。
「コーラル!合わせて。」
「了解しました。貴女達もお願いします。」
そういって四人で行える結界を構築したのと同時に相手の魔法が完成し、こちらに飛んできた......いや、空間を埋め尽くした。
魔精の魔法の発動の言語だけは聞こえていた。
「聖と魔の二律背反。【カオス・インフィニティ】」




