『罠』って言うのは掛かるためにある!
コンクレント中層域、冒険者ギルド『イシュリカ』がある大通りで地面を揺るがし、大気を叩く大きな爆発が起こった。
しかし、現在緊急措置が取られているためにコンクレント湖上都市内に住民はいない故に、被害は建物だけですんだ。
『いやぁ~困りましたね......姐さん一ヶ月以内に2回目の召喚は体に悪いっすよ。』
『そんな場合じゃなかったのは分かるでしょう?』
爆発による衝撃で辺り一帯は半球状のクレーターになっていた。
そのクレーターの煙の先から話し声が聞こえていた。
一人は男の声、幼くないが、飄々とした態度を感じさせる声色だった。
もう一人は女性、綺麗な声だった......ただイライラしている雰囲気を纏わせていた。
『あの使用人達はホントに厄介すぎます。建物の天辺を投げてくるなんて......優雅さが足りません。』
『姐さんなら簡単に風魔法で押し返せたんじゃないんすか?』
『......』
沈黙する女性。
そこにすかさず男の声が響く、明らかに楽しそうな声だ。
『まさか、気づかなかったんすか?うはっ、姐さんがテンパる所600年振りに見た気がしますよ!』
『黙りなさい、使い魔の分際で主に意見するなど。』
『いや、使い魔じゃなくて召喚獣ですって!』
軽い雰囲気で訂正する男の声にため息を吐き、もういいです。と呟く女性。
『それにしても、あの想天花のビビり様は申し訳ありませんが笑ってしまいそうですね。あれが本人だとは......ふふふ。』
『あー、そーすね。それより姐さん、緊急召喚は膨大な魔力貯蔵量を持つハイエルフでも関係無く生命力から天引きされるっすよ?回復するまでは下位召喚か属性魔法しか使っちゃダメっす。』
クスクス笑っている女性の声に、適当に流し本題に入ろうとする男の声。
『面倒ね。どうにかごまかせないの?』
億劫そうに答える女性。
『いや、無理っすよ?大体、魔王の恩恵で『重ねた歳の数だけ魔法力を上げる』スキルなんてあるんだから問題ないはずだし、建物くらい初級の【エリアル・ライン】で壊せたんじゃないっすか?油断した自分がいけないっすね。』
そう冷たく突き放す男の声。
買い言葉に売り言葉。
女性は男に告げる。
『もう、うるさいです。【次元断層】での防御ご苦労様です。【送還】『次元魚レレザイル』。』
『ちょっまだっーーー。』
バシュッーーー
煙が一瞬、青色に発光して何かが飛ばされた音がした。
未だに煙は晴れなく、女性も目的の彼らの追跡を諦めその場を後にし、上に転移するようだった。
『観光気分で歩いてくるなんて何かしらの作戦だと思ったら、唯のバカだったようですね。』
転移石を取り出しているのかガサゴソという音が聞こえる。
しかし、動きが止まった。
『ん?そういえば、風の刃にあった手応えの正体でも見に行きますか......』
転移石を右手に持ちクレーターから歩き出した。
少しして、彼らが隠れていた裏路地を覗いた。
その女性の視線が向かった先にあったものはーーー。
『......羊皮紙?なにか書いてあります。』
真っ黒な焦げ目が不自然な裏路地の丁度真ん中に、綺麗に畳まれた羊皮紙があった。
中を見てフルフルと震え、女性は城に向かって歩き出したようだ。足取りはしっかりと、ただ真っ黒な気を纏わせて。
『私も仲間にはプライドが高いとか言われますが、これは別です。ハッキリ言ってここまで私を不愉快にしたのはあなた方が始めてですよ。』
そう言って綺麗に折り目が着いた羊皮紙を片手で握りつぶした。
その紙に書かれていたことはーーー。
『まだ、こんなところにいるんですぅ?バッカじゃねぇーすか?もう城でお茶してるんですけどぉ、たかが魔力が上がったからってイイ気になりすぎじゃねーですか、それで、みんなに逃げられて、ギルドに掛かってる防御術式もとけねーとか、ハイエルフ形無しプププw』
だった。
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コンクレント城下町の地下下水道を進むアンとオリジンは冒険者ギルドの隠し出入り口に向かっていった。
隠し出入り口はここ地下下水道の先の転移ポータルのようだ。
この世界に来てから転移をしたのは先程が始めてで、2回目でもワクワクが止まらなかった。
「一回目は魔神セーレさんに送って貰いましたけど、今度は陣が引いてあって自分で起動するんですよね!?やりたいです!!」
そういうアンにオリジンは苦笑しながら、それくらいならと了承する。
アンが魔皇城に来てからの20日間みっちり魔法の基礎とスキルの基礎は叩き込んだ筈だから大丈夫だろうという判断だった。
それに、設置陣に魔力を流すだけでいいから、失敗することはない。
例えるなら、電気を流すだけのお仕事......というわけだ。
オリジンはアンの手を引きつつ暗闇を明かり無しで歩いていく、時折止まり、アンの上空に浮かぶ光の玉に魔力を注ぎ込みながら。
「アン、魔核が減ったりしてませんか?」
「はい大丈夫ですよ、MP:34なのでまだ行けます。」
「全体の3分の1ですか......」
アンの上に浮かぶ淡い光の玉は植物であるアンのMPを枯渇させないための苦肉の策だった。
これによりMPの減少を押さえていた。
アンに聞いた所、現在の魔核とMPは極端に少なくなっているらしい。
詳しくは教えて貰えなかったが、これでも後悔はないと微笑んで言っていた。
オリジンにしてみれば、二桁なんてなったことなんてないし、強いて言えば1000年前のご主人様になる前の想天花のシュレイと戦闘した際始めて、4桁を割った記憶が新しかったりする。
今の私や他のメンバーとマジック・パスを繋げば、ある程度はマシになるはずだけど、それはシュレイ様が禁止令を引いてしまったため手出しが出来ない。
なぜシュレイ様は......
「オリジンさん見えてきましたよ!あの青い陣ですね。」
「そうです、待ってください、一回確認を......」
オリジンが思考に耽っている間に目的の場所に着いたようだ。
今までの下水道とは違い立方体に大きく開けた部屋のようになっていた。
その中央に設置陣が引いてありアンはその中で魔力を流そうとして手を着こうとしている。
それをみてオリジンは周りを確認しつつ説明する。
しかし......
「ここは何年も使われていませんでしたし、確認は大切ですよ?それに今は都市全体が緊急措置を取られているので、2重の罠が張ってあるかもしれませ......「え、罠?」ちょっ、アン!?」
オリジンが目を離した隙に、手を魔方陣につけ魔力を流していたアンに冷汗がでてきてわなわなと震えるオリジン。
「えっと......テヘペロ♪......ヒィィイッィィ!?」
オリジンが本気で怒っていたために怒られたときの恐怖を思いだし悲鳴をあげて後ずさるアン。
オリジンがアンに何かを言おうとした瞬間、青い光に包まれて音もなく目の前からアンが消えてしまっていた。
オリジンはがっくりとしてため息を吐く。
「私の【未来占い】スキルを持ってしてもアンは止められないということですか......」
ため息を吐き、この事を報告するべく、本来の目的地に転移する。
もしかしたら、アンもいるかもしれない、もしいたら......ふふふふふふっ
恐い笑みを浮かべオリジンは転移していった。
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ちなみにアンは、コンクレント湖上都市がよく見え、魔性の森の近くの集落の入り口に転送されていた。
どうやら、これは避難用の転送をそのまま使ってしまったようだ
アンは思った。
「ほとぼりが覚めるまで匿って貰おう。」
そうして歩き出した瞬間、真後ろから透き通るような綺麗な声が掛けられた。声だけでは女か男か分からない声だった。
「小さな精霊さん......ご案内しましょうか?」
「え?じゃあお願いし......」
アンは声をかけた人物を見て息を呑む。
綺麗な金色の髪に人とは違うオーラを纏い、そして背中には純白の翼。
「天使さんマジ天使。」
「?」
不思議そうな困ったような顔をした天使と遭遇した瞬間だった。
もう、オリジンさんなんか、何も怖くな......い。




