一発は一発でしょ?
どれくらいこの幸せそうな過去を見ていたことだろう。
過去というには私自身に覚えは全く無いのに、ことあるごとにそういえばそうだね。
と思えてしまう。
不思議な感覚。
金眼の少年と蛍光色の髪に宝石のような綺麗な緑色の眼を持つ年上の少女。
彼らは楽しそうに時を生きている。
いや、もう、生きてはいないのか......
私の過去、私すら記憶にない真実の扉。
ここに導いてくれたセレナイトには感謝しきれない。
会いたいと思っていた母や家族に逢えたのだから。
でも、もうそれも別れの時が近づいている。
知らない筈の終わりの時を私は知っている。
その日が近づいてくる。
胸にくるモヤモヤとした気持ち、
「なぜ」「どうして」
これから起こることは変えられないだろう。
なぜか、彼らに向かって声をあげてしまう私はなんて愚かなのだろうか。
『もうすでに起きたことなのに』
少し成長した見た目の私の声が聞こえる。
それでもいい、私の魂が作り出した記憶でも見ているだけしか出来ない私はバカなことをしているだけだろうけど、けれど、
それくらいしないと見ている私自身が可笑しくなりそうだ。
だからこれは彼らのためってよりは自分のためだ。
そう言える。
『目を隠し、耳を塞げばすぐに過ぎていく記憶なのにね。』
金眼の少年の声が聞こえる。
でも、それでも、苦しくても向かい合うと決めた。
与えられたこと、貰ったことは手を絶対に離すもんか!
この機会に得られるすべてを手にいれてみせる。
取りこぼしはけしてしない。
だからーーー。
「遠回りは止めて。私は大丈夫だから、見るべき時を映して。」
私は言った。目の前で少年と雑談を楽しんでる彼女に向かって。
スキルを掛けたセレナイトが見ていたら驚愕すること間違いない。
なぜならーーー。
一瞬でセピア色に染まる景色。
目の前の少年すら色が染まり動きを止める。
その中で色が変わらない彼女が『こちら』に視線を向ける。
『......そう。』
記憶の再生の筈が彼女、私の前世と言われる魔皇シュレイが立ち上がり、私を見て真剣な眼差しから一変、楽しそうに笑っていた。
『見た目と欲深い所はそっくりね?私の「半身」。』
そう言って私の頭を撫でた。
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場所ーコンクレント冒険者ギルド『イシュリカ』ー
コンクレント城天辺が崩れるのをギルドにいた者達は唖然となり眺めていた。
数秒の沈黙の後、城下町全体が喧騒に包まれていた。
所々で鳴り響く剣撃の音。崩れる建物。
燃え上がる町並み。
その中をうごめく黒い影達。
「......なぁ、転送指示が来てんぞ。」
「え?敵襲なのに逃げちゃうの?暴れられないじゃない!」
「......大丈夫。わたしはいつでも帰れる。」
こんなときに他人事のようなことを呟くマンドラゴラのギルフォード・アークウェイ。
その対面に座り、コンクレント名物のブロック焼きを頬張る魔皇レーゼン。
そして、自ら運んできた氷で出来たデザートを勝手にパクパクと食べる受け付け兼ウエイトレスのリラ・ギュケル。
彼ら以外の大まかなギルド員は「戦争だ!ヒャッッホオォォォ!」とか「ボクが一番上手く立ち回れるんだ!」「やってやる、やってやるぞ!」「俺はやるぜ、ミハル。」「お前誰だよ!」とか、普通の街なら混乱するがここのギルド員はある意味逞しかった。
やる気十分で街に飛び出していく彼らの眼には好奇心と高揚感しかないように見える。
いっそ痛い目に合ってこい。
そう、ギルは思った。
ギルが言う転送指示とは、街中で非常事態が出たとき、非戦闘員や戦いで命を落としそうになったコンクレントの住民を安全な場所まで転送させる転移石の発動待機状態を示している。
転移石はコンレル・コンクレントにより直に渡されている。今回みたいに突発的な襲撃を察知しての配慮をしていたのだろう。
さすがは領主だ。
そう思いつつ、胸元にネックレスとして下げていた無色透明な水晶に銀色の五芒星と金色の六芒星が中央でクロスするように書かれている転移石を見る。
転移石は仄かな発光をしていた。
「転移指示が来るってことは上手く逃げたのかコンレルの奴。」
先程の城の崩壊からそう考えられる。
この街に住んでいるのに領主をアイツ呼ばわりするギル。
「あ、ずるい!それわたし貰えなかったんだからね!ちょっとかしなさいよ!?」
テーブルに片手を付き身を乗りだしこちらに手を伸ばす自然精霊。
「......全部で12,000個ある。手伝った。」
ボロ儲け。そう呟くのはコンクレントの真下の湖底魔皇城の主。
三人とも1000年は生きている元同僚だ。
そんな三人に新たな声が掛けられた。
「おや、ギルドに三人しか居ないとは......赤枝双子は杖を使う勇者と戦闘中で、ミャオさんは魔王に嫁いでいた義妹に激昂して襲いかかり行方不明。そして......」
そういって、三人に呆れた目を向けるのは天族......つまり天使で美人の青年だった。綺麗な羽を背中に畳んでいた。
「この街の最高戦力だろう二人がなにもしていないとは。」
頭に手を翳しため息をついた。
芝居懸かった仕草の天使にテーブルを立ち上がる自然精霊。
「聞き捨て鳴らないわ!この街の『最強』はワタシだけよ!あとは魑魅魍魎のザコザコザコ!」
ふふん!どう?そう言ってポーズをとるリラを無視して、天使の青年に話しかける魔皇レーゼン。
「......コーラルがここに居るってことは住民の転送は終わったの?」
「ギル!無視されたわ、どうしたらいいの!?」
「うっせぇ!てか余裕かお前!テンション高いんだよ。」
「だって、街が燃えてるのよ!燃やして良いんでしょ?盛大に!」
「いや、復興のこと考えて、敵だけをね?そのね。」
・
リラが外に飛び出そうとするが、ギルとリラの周りを飛ぶ火の玉に押さえられていた。
コーラルは二人から視線を外し、レーゼンの問いに答えた。
「ええ、住民は全員もれなく、コンクレント周辺集落に転送されました。」
「......そう、じゃあオプシディアにコンクレント城に向かうように言っておく。」
コーラルはすぐ外で黒服達を叩きのめしていた、輝かしいばかりの存在感を放っていた黒髪虹ラメのメイドさんが消えたことに気づいた。
もっとも、そのメイドさんとレーゼンのやり取りは念話のため聞こえていなかった。
『......一応、領主捜索と捕虜がいたら奪還して。』
『ん~あれに助けいるのかしらね、あの本から誰か呼べば鎮圧できそうなんだけどな~』
『......あの子あれで抜けてるから、見てきてほしい。』
『よっと、はいはい、OKですよ。レーちゃん無理しないように!』
そう言って通信が切れた。
そして、コーラルから魔王の嫁達と勇者率いるフルエンク精鋭部隊の混成軍が街を襲っていることを教えて貰っていた。
「そろそろ、動くな......」
「長かった!長かったわ」
「リラ......よく堪えた.....」
「......え?たえてた?」
ギルが真面目な顔をしていったのに、この二人と火の玉のせいで直ぐに脱線していた。
(ギルさん、1000年前もなんか僕は察してしまいました。)
そう思い、暖かい視線を「今真面目な話してっから!?」と怒鳴るギルに送っていたコーラルだった。
ギルやリラ、レーゼンがここイシュリカにいたのは偶然だった。
『リストリア』の調査から帰ってきたばかりの二人。
オリジンとの話し合い通りにリラを探していたレーゼン。
結果、冒険者ギルドで出会う三人だった。
ひざびさに揃った3人は昔の話に花を咲かせたりしていた。
リストリアのメンバーと護衛できていたオプシディアは席を外していた。
そんな夕刻に、広域探索魔法の発動を確認した。
周りでは、気づかない方が多い中、この膨大な走査領域から相手の場所を特定し突撃しようとしていた自然精霊を宥め、
魔皇レーゼンに走査対象は何か聞いたら自分達だと言う。つまり、狙いはリラとレーゼンであり、ならば下手に動くよりまとまっておいて、襲ってくるのを待っていたのだ。
コーラルはギルドの建物が囲まれていることに今気付いた。
「そういえば、銀の姿が見えませんでしたけど......ギルドにいたのでは?」
「あぁん?ああ、あいつはな。」
そういうコーラルの発言にやれやれといったポーズをして答えたのはギルだ。
「すぐ外の屋台で販売しているアイスクリームを食べようとした瞬間を襲われてな......」
ぷぷぷっと頬を膨らまし、笑いをこらえるリラ。
体が不自然に震える無表情のレーゼン。
そんな彼女達の姿から大体の事情は理解したコーラルだった。
結果、食べようとしたアイスを目の前でぶちまけられた上、それを頭から浴びてしまい悲惨な状態だったと言う。
ただ、襲ってきた黒服は地面に吸いつけられるようにめり込んでいたらしい。
そんな怒り心頭の彼女の行動はーーー。
「まさか、単騎で乗り込んでいったなんてことは......」
そう呟くコーラルの言葉に重なるように、爆音と大気を揺らす振動がギルド、いや、コンクレント全体を叩いた。
ギルは呆れた顔で言った。
「まぁ、今の音が答えだな。」
そうして、再び爆音と振動が断続的に振り撒かれた。
遥か上空で隠蔽魔法と多重防壁が解かれた巨大な建造物が月明かりに照らされていた。




