開戦の狼煙
フレイアに名前を変えました。アディさんはまだ出ません。
フルエンク王族特区の豪勢な建物の中で、勇者ルミナスとフルエンク王が向かい合っていた同時刻。
コンクレント湖上都市に闇に紛れて動き出したモノ達がいた。
場所:ーコンクレント城執務室隣接テラスー
「こ、これは......」
コンクレント湖上都市の領主、コンレル・コンクレントはコンクレント城のテラスから遥か上空を見上げた。
そこには金色に発光しているように見える月があるだけだが......
「まさかここまで大胆に来るとは、開いた口も塞がらないな。」
そういうコンレルはやはり視線を一定の場所に向けていた。
見つめられた先にはフルエンク空中都市が隠蔽魔法で隠れている場所だった。
コンレルはフルエンク側のバカさ加減にため息をついた。
「こんだけ接近しておいて隠蔽魔法で完全に隠せているとでも思っているのか......」
「いや、さすがにあるまい。」
頭をふり、考える。
確かに高度は10000mを超えているだろうが、このコンクレント湖上都市の真上に付けた意味はなんだ?
高度を下げてきて押し潰す気か?いやそれをしたってお互いに被害が出るだけだ。
この夜の時間に動くのは闇に紛れるために間違えないが、都市が隠蔽魔法を使い接近する意味は無いはず。
そもそも、隠蔽魔法の発動余剰魔力で気づいたくらいだ。そんなことなら最初から掛けてこい。
そうひとりごちる。
「む?」
コンレルはこちらを伺っているよな嫌な雰囲気を感じた。
もしかしたら、先日行われた宣戦布告により本当に攻めてくる気なのか......いや、もうその段階は過ぎていたな。
そう思いため息をついた。
その時、一瞬月明かりにに照らされた金属片がこちらに飛来してきた。
「誰だ!」
金属片は銀のナイフだった。
それを体を反らし避けて風景に溶け込むモノに声をかけた。
しばらくして、ナイフが飛んできた方とは反対側にテラスの地面を踏む音が聞こえ振り向いた。
「ふむ、出てきたのは一人だけか、まぁいい。」
コンレルはこちらに歩いてくる人物と辺りに潜む、複数の気配に警戒しつつ顔が見えるところまで来た人物を凝視し、唖然となる。
「始めまして私は魔王テルヤ様の一番の付き人......フロウ・レヴァン・イレイズ・アルマークです。テルヤ様からはフレイアと呼ばれて下ります。以後お見知りおきを。」
そう、名乗ったのは容姿端麗なエルフ族の中でも、長い寿命と膨大な魔力、さらにはエルフ独自の術式知識の持ち主。
また、エルフ族の中で唯一、魔のモノを呼んだとして嫌われている第二王女だった。
しかし、今はそんな事情よりもここに、魔王の手の者がフルエンクのモノ達と一緒にいることの方が重要だ。
コンレルは息を呑む。
(く、こんなときに何故『あれ』を手元においておかなかった!くそ、)
コンレルの視線は右側の執務室の入り口に向いていた。
エルフの王女はゆっくりと分かりやすく相手に語りかける。
「領主様投降してください。そうすれば、ここの城の中にいる者共の安全を保証しましょう。折角あなたを慕っているのです、失われてしまうのはかわいそうでしょう?」
コンレルはそういう彼女の甘い言葉に是とは答えられるわけがない。
「城の中にいる彼らだけ保証されてもね......僕はこれでも領主でね。」
フレイアは侮蔑の眼差しをコンレルに向ける。
「救える命を見捨てて、無駄に足掻くとは領主、いえ王としてどうなのですか?」
囲まれている一領主でしかないコンレルと、囲んでいる姿を見せないフルエンク兵+魔王の第一嫁で、魔王の恩恵を受けるフレイアとでは戦力差は誰が見ても分かる筈だ。
「ふ、身ごもらせた女性を端から捨ててく、どこぞの甲斐性無しとは違って僕はこの都市の住民全員が幸せになる方法を得るために足掻くさ。」
嫌みには嫌みを返す、コンレル。
その言葉で、周りの空気が3℃は下がったように感じる。
朗らかに微笑んでいたフレイアは無表情になり、手をコンレルに向ける。
コンレルは向けられると同時に右側の室内に飛び込んだ。
「吹き抜ける風、集束される道筋、障害を両断せよ。【テンペスト・ライン】」
「ぐぁぁっ。」
フレイヤの手を翳した先に集束される風の一撃が城の壁すら易々と両断され、窓ガラスが飛び散っていた。
さらに、ここテラスは城の上層階にあったが最上階ではなかった。しかし、今は最上階に早変わりした。
何故なら、フレイアの魔法により城の尖った塔の部分が下に崩れ落ちていったからだ。
破壊により、前が見えなくなるほど煙が立ち上った。
フレイアは執務室だった場所に無表情で入っていく。
周りに潜んでいたフルエンクの精鋭達もこの惨状に息を呑んだ。
数分後、煙が晴れた執務室の本棚が倒れたところに、血溜まりを作る右手が落ちていた。
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場所:ーコンクレント城より西3kmの裏路地ー
フレイアが風の上級魔法のひとつの【テンペスト・ライン】を放った時、コンクレント城下町の冒険者ギルドから、少し離れた薄暗い裏路地では、甲高い金属同士のぶつかる音が絶え間なく響き渡っていた。
「なんですか?黒尽しさん、闇討ちにしてはずさんな結果ですよ。」
「杜撰、雑魚、ミジンコー」
もはや、血に濡れて元の色も分からなくなりそうな裏路地のタイル。寝転がる黒い服の数は10をゆうにこしていた。
その場を壁と壁を使い三角跳びを繰り返し、黒い服装の純人族に刺突を繰り返す褐色の肌に赤黒い髪の少年少女。
そして、負けじと応戦する純人族の中に紛れる強者が数名。
1mくらいで少年の身長の7割以上はある真っ赤な短槍2本を操る少年と、身長の2倍はある真っ赤な長槍を振り回し、特異な動きを見せる少女に翻弄され、数を減らしていく黒服の純人達は目の前の子供にしか見えない魔物に分類される異族に恐怖し錯乱状態になり始めたとき、新たな人影がこの血溜まりの空間に踏み込んできた。
少年は空中で少女が力任せに壁に刺した長槍の上に乗って様子を見る。
槍にぶら下がる少女も視線だけを送った。
ただ、槍に貫かれた黒服は動く気配はない。
だんだんと近づきその人物が確認できた。
「ふん、僕だって闇討ちはしたくてしてる分けじゃないんだけどね。でも、こちらにも引けない事情がある。」
現れたのは、フルエンクで召喚された勇者の一人、前髪の一部だけが青く、眼鏡をかけ小柄な全身を隠すように紺のローブを装備していた。
「ああ、あのときの」
「ああ、あのとき......え?どのとき。」
少年少女は勇者に向かって指をさした。
少年は少女のことは置いといて話しかける。
その様子を見ていた黒服達はその路地から怪我人たちを運び出していた。
「リラに聞いた魔法使いの勇者で森荒し!」
「リラリラより森荒らしたって言ってた、あれか!」
少年はこんな血溜まりで殺伐とした中でも、ずるっとしてしまった。
「いや、それはおかしい!あの森での破壊活動はぼくはしてないはずだけど......」
顎に手をあて考える勇者。
真実は至って簡単。
リラが森の惨状を見ていなかったメンバーに嘘をついただけである。
さすがに不味いと思い『燃える』という現象を抜いていたと言えど、誰がやったのかは気づくやつは気づく。
ただ、この二人は気づかない。
「ああ、いや、今はその用じゃないな。」
こんなところで弁解しても意味がないことを悟った勇者はアイテムボックスから身長程の長さの樹で出来た杖をだした。
雰囲気の変化を感じとり身構える少年少女。
二人とも地面に降り立った。
そのさい槍にくっついていた黒いモノを弾き飛ばした。
沈黙が場を支配する。
「勇者と名乗るのもどうかと思うけど、便宜上は、勇者ハルジ......いざ。」
そう皮肉を言って杖を構える勇者ハルジ。
その名乗りに乗って答える少年少女。
「血染めの大樹の魔法植物!」
「両者一対の赤い枝!」
二人して槍を振り回し決めポーズを取っていた。
「アール・レッドブランチ」
「エル・レッドブランチ」
「「さぁ、君の鮮血を散らせてほしい。」」
「......くっこんな子供が痛いことしても痛く見えない不思議だ。」
そうして、ふざけた言葉を飛ばしながら先程より、動きがいい二人の槍に、4重障壁で阻み、杖により、樹の魔法で根を尖らせた槍を沢山発生させ反撃していた。
そんな光景を黒服達はどうしようもなくその場で被害に会わないように隠れるしかなかった。




