忍び寄る悪意⑤
よろしくおねがいします。
遥か上空。
月に照らされる巨大な建造物。
遠く下方に見えるは大きな湖に浮かぶ城を中心とした城下町を有する島。
「まもなく、コンクレント湖上都市まで、距離5000m。」
「隠蔽魔法障壁最大展開。」
「フルエンク空中都市.......座標固定。」
「フルエンク都市部へのエネルギー供給をモードグリーンからレッドに変更致します。」
「周辺索敵部隊1~12番まで展開してください。」
「魔性の森より高濃度魔力震関知できず、レーダーにより範囲拡大。」
「魔力レーダーに複数反応有り......場所は、コンクレント湖上都市中域層......座標軸120,030。」
「該当、コンクレント冒険者ギルド『イシュリカ』。」
「魔力波長一致率60オーバー。」
「対象1、魔皇......確認。」
「対象2、自然精霊......確認。」
フルエンク空中都市。またの姿を移動魔導要塞。
大きさは、サーセルブ南大陸随一を誇り、総人口も戦力もコンクレントの10倍は所持している。
浮遊する大都市で尚且つ、魔法や科学、それらの複合の魔導科学で最先端を行っている先進都市だ。
国があった時代では首都を名乗っていた。
そんな大都市が気づかれずに、コンクレント湖上都市まで急接近してきた。
フルエンク空中都市、フルエンク軍管制室。
そこでは、20人を超える機械人のオペレーターが目の前の画面に向かい随時報告と指示を送っていた。
それを中央の一番高い椅子に座る人物はため息をつく。
「どうしてこうなったかねぇ......」
そう呟く40代くらいの男性は筋肉質な体をすくませていた。
「上層部の決定は絶対です。また、マキナの連中は大昔同様、種族三原則に従って貰ったまでです。」
男性は艦長服の帽子を深めに頭へおしつけた。「やんなるねぇ......」
呟きは隣に立つアンダーフレームの眼鏡の女性には聞こえていないようだ。
「対象を発見次第、後方で待機中の夜襲部隊へ連絡を取りなさい。」
スラッと立つ軍服に身を包んだ170近い長身の女性はやる気がなさそうな男性を一瞥し、機械人に指示を出していた。
指示が終えたのか女性はもう一度だらける男性をみやり、頭に手を当てて深いため息をこぼした。
「ワーズ艦長、いい加減にしてください。こんな姿も上層部には見られてるんですよ。」
ワーズは声を上げてきた20代後半の女性に目線を送る。
「あのなぁ、エレス......おまえ、これ、どう見ても俺らのこと切りたいだけじゃねーか。」
ワーズは周りを指で指し示した。
それにエレスは苦い顔をする。
ワーズは20年前からこの管制室に勤めている古株だった。
5年くらい前にフルエンクの領主(ここフルエンクでは昔にちなんで王という)が病没した後、即位した王の息子が、今までのやり方を徹底的に変更してきたのだ。どう見ても、新王は能力しか見ておらず、目に見えない経験は評価してくださらなかった。
それの、煽りを一番受けたのがここの管制室勤めの連中だった。
ここのやつらは、若くてもワーズくらいの年齢の高年齢層といってもいいほどだ。
しかし、ワーズは60越えても衰えない判断力や戦略指示、風の読み方など経験によって培われて血肉として使っている彼らのことを尊敬していた。
なのに、
60歳以上は先が短い、そもそも管制室は機械に任せればいい
と言う言いぐさだった。
これに怒ったのは都市に住まう全ての純人族だ。
俺らをなんだと思ってやがる!お前はなんもわかっていない!
そういう暴動も起こるのも当たり前だが、新王は揺るがず、さらに暴動を起こした全ての民を処刑したのだ。
女子供関係なく。
この出来事に恐怖した民たちは当然、フルエンクより出ていこうとするが空を飛ぶフルエンクからどうやって逃げると言うのだ。
乗り物を奪った奴は、対空システムで爆破され、飛び降りた奴は反転魔法障壁でミンチになった。
つまり、けして逃げられないのだ。
恐怖で動けなくなる人々の前に、悠々と新王が魔導リフト(浮遊円盤)に乗り現れた。
そして、始まる薄っぺらな演説。
説得する気があるのかないのか分からない。
熱意すら感じることが得られないのにーーー。
それを、すべて聞き逐えた彼らは何故か大熱狂。
連呼する賛同の意思。
大陸統一を掲げて進行する狂気。
ワーズはその光景を見てゾッとした。
あれは洗脳ではないのか?
いや、王がする筈が......
魔法の先進都市でバレずに、どうやって集団洗脳なんて行えるのか。
誰も気づかないのは何故だ。
気になることは多々あるがとりあえず自分は賛同した振りをし、様子を見ていたが、
こないだ、管制室メンバーが自分といつも一緒についてくるエレスだけ残り、全て自主退役してしまった。
唖然とするワーズとエレスの元に機械人の少女達が送り込まれてきた。彼らは、首にチョーカーをつけられており、みんな笑えば少女らしい可愛い外見の種族なのに、『それ』のせいで自意識が封じられていた。
少女達につけられたのは、明らかに差別の象徴ともいえる。
人で例えるなら奴隷だろう。
しかし、これは、酷い。
ワーズはそう思った。
こちらから話をしないと返せないし。
自由に行動もできない。
命令されたことに拒否権は無い。
まさに機械そのものとしての扱いを受けている。
彼女達も種族は違えど人と同じ肌の柔らかさを持っており、当然、あれ方面も機能としてついているが、種族として、対等として扱うべきなのに、ここでの扱いは地獄だったと見えるワーズだった。
夜になると引っ張られていく彼女達。
そういうことから何人か逃がそうとするエレス。
そして、エレスも連れていかれそうになり、泣き叫ぶエレスの声を聞き、現場を見つけ、乗り込みそこにいた貴族の坊主と軍の連中をタコ殴りにしたワーズ。
そして、ふたりして、立場が悪くなるばかりの職場。
まさに悪循環。
思い返すだけで腹が立つ。
そして、この夕食時から帰ってこない3人の彼女達。
やる気もなくなるってもんだろう。
「許せませんが、私たちがいなくなれば......いえ、そんな選択なんて出来るわけ有りません。」
そう言って唇を噛み締めるエレス。
「俺は独り身だからいいけどな、家族を取られると.....なぁ」
どうしようもないとは口にしなかった。
「新王に直談判しに勇者ルミナスが向かってくれました。彼女に期待するしか。」
そういって体を抱くエレス。
そうだな、そういったがワーズは思った。
(ルミナスは新王と関係者じゃないのか?足運びがそっくりだが。)
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フルエンク空中都市 王族特区。
その中で一番でかく豪勢な建物の前で、長い黒髪を揺らしズンズンとした足取りで進む少女がいた。
はじめは美しい姿に見とれていた門番が慌てて止めに入る。
「いけません!勇者でも直接王様に会おうなどと。」
「お引き取りください!今は魔王と会われた直後で休んでおられるのです。」
そういって目の前で通せんぼする、門番にキッとした目を向けた。
その視線にたじろぐが、自分の職務を全うしようとしたその時。
「私は、話し合いで友好条約を結ぶから、もしもの抑止力として協力してくれって言うのを信じたのに!!」
目に涙を溜めて叫ぶ姿を、門番達はどう見ても先ほど威圧感を放った勇者だとは思えなくなっていた。どちらかと言うと、年相応の16相当の少女にしか見えなかった。
「し、しかし、それなら、謁見の許可を司教様などに。ヒッ!」
「そ、そうです、あとは大公貴族の方など。ヒッ!」
しどろもどろに答える門番達は少女の目に宿る殺気を見て後ずさりをした
「そこら辺は催眠済みじゃないかな。私にはわかるんだよ浄化魔法を使えば即座にね。」
そう言って、目の前に淡い光の魔力玉が現れた。
「お止めなさい。勇者よ。」
少女が打ち出そうとしたとき、それを止める声が聞こえた。
少女は声が聞こえようと本来は浄化して上げようと思っていたが聞こえてきた声が聞き覚えのある音色だった。
「なん、で、ここにいるの......」
門の奥のドアが首にチョーカーを付けたメイドの少女達に開けられた。
その奥から、歩いてくる人物に動きを止めて視線を送る。
その人物は、金色の髪を優雅に右側に纏め、男とも女ともとれない美貌。
スラッとしている手足。来ている服はファンタジー世界ならではの織物衣装。
身長は180以上はあるだろう。まだ遠くにいて分からないが、表情は微笑んでいるように見える。
ただ、それを見た少女は体全体が乗っ取られたようにひとつの感情に支配されていた。
「あ、ああ、ゆ、許さない!」
純粋な殺意の刃のような洗礼さを感じさせる。
門番は悲鳴をあげてその場から逃げ出すが、チョーカーを付けたメイド達は震えるだけで、逃げ出さなかった。いや、体が動かないのだ。
そんな勇者を王は一瞥し、一言いう。
「六花何を怒ってるんだい?僕のことが分からないのかい?」
「アアアァァァ!」
手を広げる人物は間違いなく、六花と呼ばれた勇者が知っている人物だ。
忘れもしない。
あの出来事を。
走り出した六花はこのときのためとばかりの力を使う。
右手に浄化の魔力を回転させ渦を作り、左手には光の魔力で逆回転の渦を作り上げ、右手を打ち出す姿勢を取った。
しかし、王は動く気配すら見せない。
「ッ。」
その姿に苛立ちが募るが今は一発入れる!
そう考え打ち出した右手の掌底は相手の胴に綺麗に入った。
その勢いのまま左手ででも、打ち出した。
星光流気力応用術【双掌】本来は気だが魔力で応用した。これを受ければ、
体内でのダメージを膨大にし、下手をしたら中から吹き飛ばすことになるが関係なし、全力で放った。
しかし、
「六花......今の技はなんだい?僕は知らないんだけど。」
その場から動かずにダメージもなく飄々としていた。
「な、なんで、そんな?」
呆然とし、正気に戻った六花に王は諭すように言う。
「感情任せの一撃は読みやすい。っていうのは結果論かな、実は僕はこの世界で転生して30年経つんだ。」
言われた意味をだんだんと理解してくが今は動けない。
「さ、さんじゅうね.....」
正解!そう教師のように言う。
「つまり、遊んでいたわけではなくて、記憶も持ち込めたし、鍛練に励んだのさ。すごいだろう。」
そう、自慢してくるが、六花には考えられない。
さきほどの一撃は必殺を秘めた禁術だ。
これは五代目当主だった母が最後に教えてくれた技だ。
避けもしないのに無事なわけがない。
そう思っていた。
唇を噛み、意識を切り替え構え直した。
まだ通じていないわけじゃないはずだ。
気力を振り絞った。
しかし、目の前の王の行動でなにも考えられなくなった。
あるものに目が釘付けになり、それを見るだけで込み上げてくるものがあった。
「でも、ここの世界で体術するのも面倒じゃない?僕強いし。それにーーー。」
そういって、懐から筒状のカプセルを取り出した中には玉が2つ入っていた。
「これがあるしね。これスゴいんだよ。魔法の威力は倍以上だし、集団催眠だってお手の物。持ってるだけで受け流しのタイミングから、未来予測までまさにチートいや、元の持ち主は『化け物』って言われてたっけ。」
そのカプセルを両手でジャグリングしていた。
「あ、あぁぁ、、あ。」
六花の両手はダラッと下がり、ふらふらと虚ろな足取りで王に近づく。
いや、王が持っているものに
「ねぇ?そうだろう六花。」
そう言って近づいてきた六花の頭を撫でる。
六花は払い除けることもせずに手を伸ばす。
「あれ?六花縮んだ?若返った?」
そう、六花の目はカプセルに向けられていた。
六花が手を伸ばすが届かないように逆に高くカプセルを上げる。
「だーめ。」
「ひぁ、あぁ、兄さん返して、あの人の......目を返して。」
そう言って涙を流し立場を捨て懇願してくる六花の姿に征服感が満たされてくることを感じる六花の元兄でフルエンクの王。
そうして、六花ににやにやした笑みを向けた。
「僕はもうこんな気味悪いの入らないんだけど......」
息を呑む六花。
それをみてさらにゾクゾクした感覚に襲われるフルエンク王。
「六花がちゃんと言うこと聞いて、作戦通りに動いてくれたらぷれぜんとするよ。」
そういって再び六花の前にカプセルを差し出し、六花がつかもとした瞬間にアイテムボックスに転送した。
「あッ、く、分かった。絶対だからね。」
もう、回りが見えなく当初の目的を忘れた六花と
その、一途な姿を見て、さらに絶望に落としてやりたいと思うフルエンク王の元兄だった。
「さぁ、行きなよ僕のお人形さん。」




