忍び寄る悪意③
フレイアに名前を変えました。アディさんは別にいます。
大きな木の側に咲くこの世界にはなかった珍しい花。
その花の側には二人の人影。
『りっちゃん、ここだよ!ここにぼくの姉ちゃんがいるんだよ。』
『え?どこに.......』
花に向かい両手をイッパイに広げアピールする長い黒髪をもつ男の子と、一緒に連れてきた同年代の可愛い女の子が周りをキョロキョロと見渡して不審な顔をしていた。
『あれ?姉ちゃんいないし。ウンコ?』
『げ、下品だよ!そういうことは「れでぃ」の前で言っちゃダメなんだよ。』
『ん?じゃぁ何て言うの?』
『え?お花を摘むとかかな。』
『ダメだよ!これ摘んだら姉ちゃん死んじゃう!?』
『そ、そんなことしないかな、あとそういう意味じゃなくて隠語っていうかな。』
『インコ?』
『い・ん・ご!』
注意を受ける男の子と、お姉さんぽく振る舞う女の子はその場所から離れた。
周りにいるかもしれないと思ったのか、探しに行くようだ。
『......』
そんなやり取りを木の枝に寝転がり眺めている少女がいた。
『会わないのかい?』
少女は目だけを隣に立つ杖を持つ老人に向けた。
話しかけてきた老人は枝を足場に幹に寄りかかる少女にある方向を杖で指した。
『せっかくガールフレンドを連れてきたんだ会ってやればいいじゃないかね。』
『......ふんっ五月蝿いのよ物質精霊の分際で。』
そっぽを向く蛍光色の髪を持つ少女を見て老人は苦笑いをする。
『あっちでの我々の呼び名はどうでもいいが......少年が連れてきた初めての友達だろうに、会ってやらない非道な姉ときたもんだ。』
やれやれ、そういった言葉とジェスチャーをする老人に射殺さんばかりの視線を送るが、殴り掛かったりはしなかった。
ただ、その場でバンバン木を叩いていた。
まるで子供の癇癪のように。
『九十九神だかなんだか知んないけど、なんでここにいんのよ!どっか行って、ほらどっか行って、早く行って。』
『はっはっはっ、ジイサン腰の調子が悪いから振動で堪えちゃう。』
『くたばれ、くそジジイ!!』
バンバンと幹を叩き揺らすから、当然の事のように木が不自然に揺れ枝が音を鳴らし、葉が舞い散った。
遠くから再び少年と少女が近づいてくる気配を感じた。
ニヤリとしてやったりと笑う老人と、策にはまり悔しがる少女は暴れるのを辞めた。
『......』
『ふむ。』
老人は少女がチラッとこちらに向かってくる少年の頭に巻かれた包帯を痛ましそうに見ていたのに気がついた。
少女は老人に向けて言う。このときには表情は戻っていた。
『さすがは神の端くれってことかしらね、こうも私を手玉に取るとは。』
やるわね!そう指を突きつけてくる少女に困った表情をする老人。
『ジイサンそう言ってくる奴をはじめて見ちゃった驚愕。』
力なんか使ってないし、だいたい神域に迫った御主の方が強いじゃろうに。
とは言わないでおこう。
『でも、会わないわ......今日はね!あと、あの子はガールフレンドじゃなくて親戚の子供よ!』
『何故じゃ?』
女の子を見て不機嫌そうな表情をする少女。
老人は問う。
『少年の母親には魔三角陣に入って会ってやったのにのう。』
『あ、あれは、母親が私のことを信じてくれたからよ!陣を用意したのも母親だもの。』
少女は言い訳がましく捲し立てた。
老人は少女がそわそわしていることに気がついて、ため息をつく。
『おぬし、あの子の傷を魔法で治してなんになるんじゃ?』
『っ、いいでしょ!?関係ないじゃない。』
少女は指摘されどきりとする。何故ならこの世界には、少女が取り込める魔素すらないために、魔力や魔核の消費は寿命を縮めることに繋がるからだ。
老人はさらに大きなため息をつく。
『そこまでしなくても治るじゃろうて。』
『そうだけど、明日は何されるかわかんないじゃない!明日は石を投げられるかもしれないわ!どの世界も人間はちょっと違うだけでこれだから怖いわね。』
そういう少女は、想像しただけでハラハラしていた。
だんだんと近づいてくる二人の足音と話し声。
再度老人は問う。
『......会わんのか?』
『くどい。』
深くため息をつく老人。
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大通りを外れた裏路地を進んだ先ある、とある建物では朝の賑わいとは無縁なピリピリとした雰囲気を纏っていた。
大きな一室に招かれた二人の勇者は、周りにこちらを警戒するように武器を構えている4名の女性に対して冷汗を掻いた。
その部屋の奥のテーブルに座る金髪に碧眼ですらりとした美しい顔立ちの青年の声で沈黙が破られた。
「ああ、ようこそ!と言いたいんだけど、僕の天使達が君たちの背後にいる存在を警戒していてね。本当にフルエンクの総意ってことでいいんだよね?僕の暗殺って訳じゃないよね。」
「ああ、ちがう。」
「お、ちげーよ。」
最後の台詞を笑顔で言うエルフ族の青年から物凄い威圧感が放たれていた。
目の前の勇者二人は顔の前に手を上げ左右に振った。
放たれていた威圧感が消える。
「嘘はついていませんわ......ご主人様。」
「ありがとう、マイエンジェル、フレイア。」
青年エルフの座っている椅子とテーブルを挟んだ間から、青年と同じ金髪に碧眼で美人の女性が現れたことにビックリする二人の勇者。
そして勇者は気づかないが、周りを囲んでいた4人の女性からその女性に嫉妬と羨望の視線が向けられていた。
頬を優しく撫でられ、うっとりとするフレイアと呼ばれた女性は、他の仲間に見せ付けるようにエルフの青年の隣にたった。
「さて、嘘ではないようだから、自己紹介といこうか。僕は、美波 照也。やっていたゲームキャラのエルフで異世界から召喚された元人間だ。」
そう言って両手を広げた。
「召喚してくれたのは、ハイエルフのフレイアだ。」
ああ、僕の一番目の嫁......いや、天使だ。
エルフの青年は突然立ち上がり、隣に立っていたアディの手を取りひざまずいて手にキスをしていた。
あと、編な呟きも聞こえた。
そんな行動をイラッとした目を向ける眼鏡の勇者と「師匠......」そう呟き憧れの眼差しを向ける勇者がいた。
茶番が長々続いて、精神的に参ってきた眼鏡の勇者はぱっぱと本題に入り帰ろうと思った。
「これがフルエンクからの正式な書類に、フルエンクへの転移魔石と、あと、その......第三王女様の婚姻で、」
書類を読み上げるもの頭がいたくなってくると眼鏡の勇者は思った。
つまり、この書類には【魔王】に王女を生け贄に差し出す、そう書いてある他ならないが......実際は、
「レイナーレ様から伝言が......」
「来たコレ!」
(うん、異世界人感性か。)
眉目秀麗なエルフに夢を抱いていた眼鏡の勇者は俗物みたいなエルフに遠い目をする。
「『お待ちしております。いつ迎えに来てくれるんですか。』だそうです。」
「離せ、天使達!ハニーが待ってるんだ!!」
「照也落ち着け!罠だったらどうする気だ。」
「れーせいにれーせいに!!」
「私がいるのにまた増やす気なの!?」
「あ、えっと、ダメですよ。」
話し合いをすっ飛ばして行こうとする魔王とそれを抱きつき止める4人の種族が違う女性達。
そしてーーー。
「師匠感動っっす!」
魔王を師匠呼ばわりする勇者。
「......」
「......」
この場にいて、目線を合わす二人の男女はアイコンタクトだけで会話をしていた。
(あっちで本格的に話しましょう。)
(賛成です。)
(では、こちらに)
そうして、会話をしていたら、物凄い勘の良さを発揮する魔王。
「いま、天使が僕以外と心を通わせた気がする!貴様かあああああ!?」
「ちょ、」
「だめだって、あの子に任せようよ。」
「そーですーそーですー」
「はぁはぁ」
暴れだす魔王を取り押させる4人の嫁達。
今の殺気にヒヤリとする眼鏡の勇者だった。
場所が替わり、2階の客間。
ここも広かった。
三番目の嫁ことハーディアさん曰く、ここもただ借りてるだけらしい。
自分達には城はなく大陸を歩き回っているのだそうだ。
そんな中、今の魔王に出会った。と聞いた。
椅子に腰かけて対面に座る二人。
「では、確認させてもらいますが、こちらの目的は分かっているのですよね?」
「ああ...いえ、ええ、もちろんです。」
そういって内容を復唱する勇者。
魔王はコンクレントを攻めることに力を貸すかわりに、フルエンクはコンクレント真下にある魔皇城の攻略にも力を貸すこと。
また、魔皇レーゼンの確保。
それだけのシンプルさだ。
おおかた、魔皇も嫁にしたいのだろうと思う勇者だった。
「魔皇を捕まえるだけなら魔皇城に攻めなくてもいいのではないですか?」
「2面攻撃ですよ。あそこの守りを突破できるものはいないでしょうけど、『守るもの』が分散してしまえば対処は遅れるはずです。」
そこをつけば今までの照也さまに対する狼藉の数々!恨み辛みを......
なにかぶつぶつ言い始めた彼女にゾクリとしたものを感じたので、深く聞くのをやめた。
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「では、そういう手筈で行きましょう。」
「ええ、伝えておきます。が、気を付けてください。」
話が終わり退散するとき声を掛けられた。
真剣な声音で忌々しそうに言った。
「リストリアのメンバーとかち合ったら単独での戦闘は避けてください。」
「ああ、赤髪の精霊のことですか?わかってますよ。」
そういう眼鏡の勇者に首を横に振る女性。
「彼女の対応は魔皇共々こちらでやります。弱点をつけばいいとこまで今回は行けそうですので。」
「では?」
「メンバーにいる、猫又と雑草と兎には個でぶつからないようお願いします。もし何かあれば、こちらもできる限り援護しますので。」
名前は何かの愛称だろうと思うことにした勇者だった。だって、二つ名じゃ残念すぎる。
そういって勇者に馴染みある写真が渡される。そこに、リストリアのメンバー写真があった。
「......わかりました。」
眼鏡の勇者が受け取り、もう一人を引きずって建物から消えた。
話をしていた彼女は振り返り、作戦決行のための『引っ越し』に取り掛かる。
「ご主人様、手筈通りに。」
「わかった。では、行こうか天使達よ。」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
魔王テルヤに抱きつく5人の種族が異なる嫁達。
そういって、勇者から貰ったあるものを使う。
「転移、フルエンク王族特区。」
光に飲まれ消えていく魔王一団。
この日午後即座に、魔王が街を離れて遠くに行ったと言う情報が流れ始めた。




