経験の差
「よろしくお願いします!」
そういう私は今ミストレ二ア様と南エリアの研究居住区で向かい合っています。建物なんて一個もないですけどね。
「まずは......手合わせしてみましょう。」
私から5mくらい離れた位置にいるミストレニア様は着物と同色の髪を後ろに払いました。
たぶんですけど、私なんて、こう、クイッて捻られるくらいの力の差があると思いますが......
しっかーし、さっき私宛の青い手紙を固有スキルで分散させた恨みをここで晴らすべきです!
いつ晴らすの?
今でしょ!?
「では......最後に確認なんですけど、全力でいいんですよね?」
念のために確認を取っておきますよ、ええ、後で折檻されたら堪りません。
ミストレニア様は、眼を見開き驚いた顔をして口許に手をかざしていましたが、眼を細め、クスリと笑った気がします。
「え、ええ!どうぞ、逆に聞きますけど、手を抜いて相手になると思っているのですか?」
クスクスと上品に笑うミストレニア様、挑発を含めた発破みたいな感じがします。
それではお言葉に甘えて、
「胸を借りる気持ちでいきますよ!」
気合い十分!さぁ、切り替えましょう、自ら戦闘に意識を切り替えるのは初めての経験ですが、案外すんなりいきました。
よし!これで一つ検証する手間が省けました。
【精神安定】は強制・任意どちらでも発動するようですね。
一瞬首筋にビリっときたので間違いないようです。
私の気配が切り替わったことに気づいたのか、ミストレニア様も雰囲気が変わったように感じます。ミストレニア様が纏っていた霧が量を増した気がします。
その真っ白い霧でミストレニア様も気配が薄れていきます。
このまま霧の中に逃げられると、不意打ちで
『後ろか!?』
『右です。』
グシャヤアア!!
ジ・エンド!
な初見殺しになりかねません。
すかさずに、私が持ちうるスキルを使って抵抗してみます。
ふっふっふ、実はミストレニア様が霧に籠っている間に、叫びまくって【絶叫】スキルの方向性を探っていたのです。
けして霧が抜けられなくて自棄になっていたのではないのです。
どうです?抜け目ないでしょう!
消え掛かるミストレニア様に向かって大声で叫びます。
言葉になんかならなくても思いを込めることが、このスキルのキーポイントみたいですね。
「WAーーー!(散って!)」
すると、
やはり、上手くいきました。
音波の防御壁にて微粒子を残さず押し流します。
しかし、まだ実力不足ですね、私を囲おうとしていた霧を半径10mまで押し返した程度でした。
「......驚きました。【狂乱叫壁】ですか......しかも、麻痺付きとは。」
声は霧が晴れた真正面ではなく、なんの因果か、さっきイメトレでグシャッた右側のすぐ側から聞こえた。こわ!
ぞっとして、その場から飛び退きました。
それと同時に、ドカッという音が聞こえます。
私が飛びのいて後ろを振り向くと、ミストレニア様が鞘に容れたままの日本刀を振り下ろした姿勢をしていました。
よし!初見殺し回避成功です!
それにしても、私の今の【絶叫】スキル名前があったんですね。
なんか防御向きっぽい気がします。
でも、全面に対する範囲同時音壁とか使えそうです!ワクテカ。
「ん?」
ミストレニア様はまた霧に隠れるんだと思ったのですが、どうも動きに切れがない気がします。
さらに、纏っている霧に電気のようなバリッとした閃光が見えました。
ああそうか!私のさっきの【絶叫】で麻痺ったんですね!?そう言ってましたし。
「ちゃ~んす!」
また霧に逃げられる前に先制攻撃です!
魔法!まだ覚えてない。
格闘技!カウンターしかない。
......どう攻めればいいんですか!?
とりあえず、右ストレート!!
いまだに痺れているのか動きが明らかに悪い、ミストレニア様に近づきます。
はっはっはっ!やります!ついに私無双!俺ツエエエです!
以外に走る速度も上がっていますし、これは【重ね掛け】『身体(器用)』×2の効果か!
初めて相手に攻撃しますが、素人パンチよりはマシくらいなレベルですが、どうでしょうか?
「判断は良いですね......でも、相手の特性も見ないといけませんよ。」
ミストレニア様は教師然とした口調で言いつつ、刀を抜刀する構えを取ります。
こちらに右半身を向けています。
どうやら刀と左半身を隠し、体を捻って振り抜くつもりのようです。
でも、左手で鞘を掴んでません。左手はダラリと肩から下がったままでした。
私のスキルで麻痺してるようです。
あれでは、抜刀できないでしょう。
ミストレニア様は話をすることで、時間稼ぎをしていると判断し、神様特性のポケ○ビで確認していたことを言いつつ右手を振りかぶります。
「特性は【霧化】。物理ダメージを無効にする効果ですよね。」
「っ!?」
ミストレニア様の焦る顔が見れました!
おお、すごい、合ってました。さすが世界のアーカイブ!神様には感謝です!!
そして、片手で振り抜かれる鞘付きの刀を潜り込んでかわし、右ストレートをボディに叩き込みます。
しかし、当然当たった感触はなく霧が霧散した風にしか見えません。
「わかっていながら何故?」
そういうミストレ二ア様は即座に実体化して右手で刀を振るおうとしますが、
「でも、【霧化】も折り込み積みです。」
私は、振るわれた刀を白羽取りします。だって、刃がないしね。
それに今の私にはこれくらい造作もなし。
「なっ!?」
またしても、ビックリした顔のミストレニア様......どうです?驚愕のオンパレードですよ!ふふん。
まぁ、そうやって調子に乗ったら痛い目に合うことは、このときの私は分かってなかったのです。
もう、勝った気でいましたしね。
そして、掴める距離つまり、私の【絶叫】の範囲内。殺れる!いや、殺りませんけど!?乗りです。
私が考えたのは
超接近してのカウンター狙いの【相掌】。これは【霧化】の前に潰えます。
てことで、最初に霧を押し返した【絶叫】スキルの面制圧攻撃ならダメージが入ると考えたのです。
「WAーーー!(吹っ飛べ)」
「っ!」
ミストレニア様は、今度は実体のまま5mは押し返され、真っ白い霧の中にボフンと飲み込まれました。
やはり、音波の壁は霧粒子でも通らないと見た!いや、私の壁が緻密で厚いだけかもしれないわ。うふふ。
達成感を胸にドヤ顔をしつつミストレニア様の押された方を見つめます。
『すごいですね!私の2割の力についてこれるなんて!生まれて2日とは思えないほどの戦闘センスです。ビックリしました。』
そして、霧の中から嬉しそうな声が聞こえました。
え、ノーダメージ?え、2割?うそ、せめて5割はいってると思ってたのに。
「やっぱり......想天花シュレイの生まれ変わりですね。ああ、あの人との戦いをーーー。」
嬉しそうに昔の話しつつ、こっちに殺気を振り撒き近づいて来るミストレニア様。
ちょっ、ストップ!おーけー?
ミストレニア様が居合いの構えをとっています。
麻痺は解けたようです。
距離はまだ4mはありますが、私の危機回避能力が警告していました。不味い!
「ミストレニア様、私はアンです!シュレイじゃありませんよ!」
「これなら......大丈夫です!生まれ変わりなら......死にはしませんよね。」
そういって振るわれる太刀筋。
飛んでくる光の残撃。
のけ反ってかわす私。おお、かわせた!!
距離があったはずなのに、切り裂かれ、霧散する私の真後ろの霧。
うっわぁぁ、いま、一瞬間違えれば首飛んでいたわ。バビュって。
「くっ......こうなれば!」
ミストレニア様はゆっくりした足取りでこちらに近づいている。
また、【絶叫】で押し返す!
「WAーーー!!(止まってぇー)」
麻痺が付いているらしい私の【狂乱叫壁】これならどう!?
「......」
バウンーーー。
ミストレニア様は、向かってくる音波の壁を右手で横殴りに弾きました。
一部が破壊され霧散する音壁。
はい?
じりじり後ろに下がる私に、追い詰めるように悠々と歩く姿に背中がびっしょりになります。
はははっ......霧の湿気ですよ、きっと。
「ダメですよ。一回通じたからって全く同じことをしては。」
い、いや、ふっつう生身で、音壁を横に殴り飛ばさないけど!?
「も、もう、実力わかって頂けたのではないですか?ミストレニア様。」
震え声になりつつ、この状況からなんとか逃げようとする。
だってこの雰囲気、殺されそうだもの!
少し考えるそぶりをしてから。
「......そうですね!では、」
「ほっ」
どうやら、納得してくれたっぽい。
ミストレニア様は3mの所で止まり、こっちに片手を向けていた。
その手に集まってくる霧粒子、それが光輝き始めた。
「ご褒美をあげましょう!」
「......なん、ですか?」
うふふーーー。
そんな笑い声が聞こえる。
笑顔のミストレニア様がなんか怖い。
「や、っぱり、えんりょ!?」
「ごほうびは.....私の3割の魔力分です【ミストレイ・ランサー】」
そう言って目の前に現れたのは光輝く槍、というよりも、突撃用の掴むところが小さく、三角垂になっている形をしていた槍でした。
それが、ミストレニア様の前にひとつあるだけだ。
まさか、投げないよね?こっちに向きが向いてるけど、投げないよね?
あれだよね?ご褒美でくれるってことでいいんだよね......
そんなことはつゆ知らずに、こちらに向いて浮いている槍の調整をしていた。
当然止めれるよね?そんな顔で無慈悲にも告げられる。
「では、放ちますけど、受け止めてくださいね。」
「うそでしょ?」
「いき、ました。」
ました!?
刺さる、いや、突き抜ける。
そんなイメージが湧き、槍を見つめていたら、
次第に時間が減速していくように感じられた。
そうか、これが走馬灯。
いや、まだぜんぜん生きてない!
ちょっと、なに殺そうとしてんの?
だいたい、私はシュレイじゃないっていってるのに!
あと実力考えなさいよ!
だんだん槍が光を振り撒き近づいてくる。
これが3割とか。
うそでしょ!?
プチっーーー。
「こんなのとめれるかぁぁ!バカぁーーー!」
【精神安定】スキルを振りきり、思いのまま絶叫をしてしまった。
フリードさん曰く、シャウト。
でも、この槍刺さるんでしょう?
痛いのやだなぁー
そう思い目を瞑る。
「あ、れ?」
槍の衝撃がいつまでたっても来ない。
不思議に思い恐る恐る、目を見開くとそこにはーーー。
魔素粒子に還元され、私に取り込まれていく槍の存在があった。
「はい、上手くいって良かったです。下手したら死んでましたよ?」
へ?
「どういうこと?」
胸の前で両手を合わし嬉しそうにするミストレニア様に詳しく教えて貰うために聞いた。
すると、
「戦いの途中で、アンの魔核が2割を切っていたのでどうしようか悩んでいたんです。」
「はぁ......?」
先程とは打ってかわり、真剣な表情で言った内容はこうだった。
どうやら、最初から魔核の残量には気づいてたらしく、どうやって回復させるか悩んでいたそうだ。
そして、マンドラゴラの【絶叫】スキル【嘆きの慟哭】に目をつけていたらしい。
つまり、模擬戦でチマチマとミストレニア様の高濃度の魔素を吸収して貰って回復して貰おうとしたけど、
私が戦闘センスがよく案外戦えるものだから、一気に回復させる賭けに出たのだとか......
うん、ホントに死んだらどうするの?
「そ、そういうのは教えてくれても良いじゃないかと思うんですけど?」
「え?最初はそう思いましたが、アン、あなた......私に恨みを晴らそうとか考えていませんでしたか?」
「うぇ?あう。」
「クスクス、わかりやすい子ですね。」
そういって、頭をワシワシと撫でられた。
どうやら私への仕返しみたいだ。
いや、わたしは、まだやっていないので仕返しにはならないと思うのです。
なに、つまり、殺られる前にやれ!を素でいったの?
これイジメじゃないの?
「アン分かりやすいですから。」
「ぐぬぬぬ。」
く、ぽーかーふぇいす。ぽーかーふぇいすを心がけるのです!
右手を胸の前で握り、悔しさを堪えれいました。
でも、なんでわかったんでしょうか?スキル?
「クスクス、生きていればわかるかもしれませんよ?」
そういうミストレニア様は私の手を引いて、大樹に向かって行った。
ここでの用はすんだみたいだ。
なんたって私を回復させることとは......
私のためにやってくれたことが嬉しくて、
顔が赤くなっているのを必死に隠そうと、ミストレニア様に見られないように真後ろにはりついて歩いていく。




