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妻をやめたら、冷徹侯爵が毎日求婚してきます  作者: 唯崎りいち
冷徹侯爵の章

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7/15

始めて恋した日

 この世界は『運命の二人〜どっちを選ぶ〜』と言う乙女ゲームの世界。


 攻略対象が2人で一組の乙女ゲームで、運命の人が2人いるけど、どっちを選ぶの? と言うちょっと変わった世界の話だった。

 攻略対象みたいに2人一組でいつもいる訳じゃないけど、この世界の人には必ず運命の人が2人いる。


◆◇◆



 5年前の夜会で美しい女性に会った。


 女性に惹かれた事のない俺が初めて出会った運命の人。


 それなのに、彼女はすでに人妻だった。


 俺は、ただ遠くから彼女を眺めるしかなかった。


◆◇◆


 俺、ダリウス・ブラックウッド侯爵は、久しぶりに夜会に来ていた。


 学園に通っている頃には夜会に顔を出すこともあったが、卒業してからの二年間は侯爵家のゴタゴタで、夜会に出席する事がなかった。

 特にこの一年は王都に来ても、侯爵家の用事や仕事の事ばかりで、元々興味の薄かった社交界の話題には一切触れることがなかった。


 やっと家が落ち着いて、侯爵家に巣食っていた後妻兄弟を追い出して、破産寸前だった経営も立て直せる見通しが出来た。


 だから、久しぶりに夜会に行く事にしたのだった。


 夜会は以前に来た時と変わらず、華やかだった。


 農村で育った俺は、いつも場違いな気がするが、侯爵を継いだからには夜会への出席は義務だと、昔からの侯爵家の使用人達に言われている。

 もちろん、そのつもりで侯爵家を継いだのだが……やはり、慣れない。


 ふと、俺を見て笑う女性がいた。


 ピンクを帯びた金髪に、青い瞳で、白い肌が上気して頬がピンクに染まっている。

 白を基調としたドレスには金の糸で刺繍がされて、上品さの中に淡いピンクのリボンの装飾がアクセントになっている。


 天使か妖精か……恋そのものが具現化したような、美しく愛らしい女性——。


 そんな女性が、なぜ、俺に微笑んで——。


「ローザ」


 スッと俺の横を通り抜けた男がいた。


「ローレンス!」


 彼女が男の腕に自分の腕を絡めて楽しげに笑う。


 俺の後ろにいた男に笑いかけていたらしい。

 恋人なのか。


 俺の心臓が握りつぶされたように痛んだ。


 彼女が笑いかけるのは俺に向かってだ。


 ——恋人なら、あの男から奪えばいい。


「ローザ・アシュフォード……いえ、ローレンス・ウィンザー公爵子息とご結婚されたから、ローザ・ウィンザー公爵子息夫人ね。前よりもっとお綺麗になられたわね」

「そうね。でも、ご結婚されてまだ一週間経ってないわよ」

「まあ、昔から噂になるくらい美いし方だものね。でも、好きな方とご結婚された後は、表情がうっとりと幸せそうで、よりお綺麗に見えるわ」


 結婚……彼女は、あの男の妻なのか……。


 たった一週間。


 一週間早く夜会に来ていれば、まだ彼女を奪えたかもしれないのに……。


 ローザ・アシュフォード伯爵令嬢、確か、そんな名前のとても可愛い子が別の学園にいると話題になっていた。

 見に行った同級生が全員、噂の彼女に夢中になっていた。

 俺は興味がなかったから見に行かなかったが……もし、あの頃に出会えていたら。


 公爵家のゴタゴタがなく、この二年間も夜会に来れていたら……。


 あの男、ローレンス・ウィンザー公爵子息より先に彼女に会っていたら……絶対に、彼女を俺のものにしたのに——!



 夜会の間中、俺は彼女を目で追った。


 彼女は、夫のローレンスの事しか見えていない。


 夫に腰を抱かれて、歩く時も、踊る時も、全てを委ねるように、ローレンスを見つめて微笑んでいた。


 ローザのその表情に、俺の心は張り裂けるような痛みを感じた。


 辛すぎて目を逸らしても、また目で追っている。



 けれど、そんな嬉しくも苦痛な時間は長くは続かなかった。


 ローレンスとローザが、これから夜会が盛り上がっていく時間だというのに、もう帰ると言う。


 ローザを目で追い続けて傷ついた俺は、離れ難いがホッとする。


「早く二人っきりになりたいのね。新婚だもの、ふふ」


 そんな、揶揄うような言葉にまたビクッと身体が跳ねる。


 反射的にローレンスを睨みつけていた。


 ローレンスは俺に気づいたようで、一瞬だけ目を向けると、勝ち誇ったように笑った。


 その様子を不思議そうに見つめていたローザが——、


 ——ローザが、俺を見た。


 ほんの一瞬だけ、俺とローザの瞳が交差する。


 すぐに彼女はなんの事か分からなかったように、ローレンスに向き直った。


 彼女が忘れても、この一瞬が、俺にとっての宝物になった。


 その後の五年間で、何度も、この時の彼女を思い出す。


 ただ、ローレンスが彼女に不意にキスをした。


 彼女が真っ赤になって何か言っている。

 ローレンスが微笑んで彼女を見つめて、彼女も赤くなりながらも幸せそうに笑った。


 この、幸せそうな二人の様子も、一緒に思い出して苦しむ事になる。



 ローレンスは、俺の事を知っていて、こんな事をしたわけではない。

 後に会っても、俺の事など覚えていなかった。


 誰にでも同じ事をする。


 ローザを使って、優越感を得て自己顕示欲を満たしたいだけの男だ。


 後のローザの扱いからもわかる事だ。


 ただ、この時の俺には、幸せな夫婦にしかみえていなかった。


 これから二人きりになって何が行われるのか。

 想像するだけで、目の前が真っ暗になった。


 そばで見せつけられるより、見えない時の方が一層辛い。



「ねえ、あなた、一人なの?」


 呆然と二人の去って行った方を見つめていると、女性から声をかけられた。


 ローザとは比べ物にならないほど、魅力を感じない女性だった。


 それでも、これ以上ここで二人の事を考えているよりはマシだと思った。


 誘われるままについて行く。


 ただ、翌朝にはとてつもない虚しさに襲われて、幸せな朝を迎えているローザとローレンスを想像して、より惨めになった。


 ちゃんと、ローザの代わりになる、愛せる女性を探そう——。


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