運命の人が二人いる世界
私、伯爵令嬢ローザは10歳の時に、自分が前世でやっていた乙女ゲームに転生している事に気づく。
『運命の二人〜どっちを選ぶ〜』
攻略対象が2人で一組の乙女ゲームで、運命の人が2人いるけど、どっちを選ぶの? と言うちょっと変わった世界の話だった。
攻略対象みたいに2人一組でいつもいる訳じゃないけど、この世界の人には必ず運命の人が2人いる。
私はその世界に生まれたけど、ヒロインでもなんでもない、ただのモブな伯爵令嬢だった。
ただ、とっても可愛いくて美人!
前世とは違うモテモテっぷりに、モブでも何でもいいから、この世界で生きていこうと思った。
きっと私にもこの世界に運命の人が2人いる。
——でも、
たくさん、求婚者がいすぎて誰か分からない……。
多分一人は公爵子息のローレンスス・ウィンザーだと思った。
たくさんの男達に求婚されている私の所に、ローレンスが近付くだけで人垣が割れた。
私がローレンスの手を取ると「公爵子息なら、仕方ない」と言う声が聞こえてくる。
みんなに祝福されて、羨望の眼差しを向けられる。
もう一人の運命の人を見つけられないまま、私は18歳の時に、ローレンスと結婚する。
そして、5年後に離婚した。
そんな私に毎日、ダリウス・ブラックウッドが求婚にやってくる。
今日もきっと来るはずと、私は待ってしまっている。
愛されない私は、後で捨てられる。
だから、絶対に断るつもりなのに。
「……ローザ、ブラックウッド侯爵様の事はどう思っているんだ?」
お父様のアシュフォード伯爵が私に話しかける。
私と侯爵様の事はずっと見守っていてくれていたけど。
「そ、れは、お断りするつもりで、お断りもしてます」
ただ、ダリウスが諦めてくれなくて、会うたびに距離が縮まっているのは、私にとっても不本意な事で……。
「ローザ、我が伯爵家としては、取引のある侯爵様を無下には出来ないんだ。ブラックウッド侯爵様が自分で毎日来てくださって、喜んでおられるからいいが、今後も続くとは思えない」
ズキっと胸が痛む。
ダリウスの将来の心変わりを、お父様も予想されていると思うと、涙が出そう。
でも、前夫との離縁でウィンザー公爵家と少し気まずい我が家は、ブラックウッド侯爵家との繋がりが欲しいと思っているんだ……。
「ローザが気に入らないなら、無理に結婚する必要はないよ」
お父様は言う。
けど、それは、次に離縁になったら、伯爵家も後がないから。
離縁を、絶対にしてはいけないから。
私はお父様の元を立ち去った後、一人、静かに泣いた。
『今度、侯爵様と出掛けてみてはどうか?』
お父様がおっしゃった。
愛されなくなると分かっていて、離縁せずにいられる人なのか。
それを見極める為に週末にデートする事を提案された。
今、分かった——。
——私は、ダリウスが好きだ。
きっと、このまま一緒にいれば深く愛するようになる。
最高に幸せな時なのに、私がしなくちゃいけない事は、ダリウスに愛されなくなる日を考える事。
ただ、夢見ていられただけの18歳の私とは違ってしまったみたい。
23歳の私も、やっぱり、可哀想。
今日も来てくれたダリウスに泣いた後の顔を見せられなくて、侍女に伝言を頼んだ。
「ブラックウッド侯爵様、お嬢様は今日はお会いになれませんが、侯爵様と今度お暇な時にご一緒にお出掛けしたいと申しております」
私が直接伝えなくて、ニュアンスが伝わるのか分からないけど……。
侍女がダリウスからの返事を持ってすぐに私の所に来た。
「お嬢様、侯爵様が『明日! 明日一緒に行きましょう!』といって返事をお待ちです」
「あ、明日!?」
何だかそんな事になりそうな予感はあったけど……仕事は大丈夫なのかしら、急にダリウスが出かけるなんて言ったら秘書さんが大変にならない!?
色々と確認したい事はあったけど、伝言を頼んだ侍女が息を切らしている。
私は四階の自室にいて、ダリウスは一階の玄関ホールだから、何度も往復させられないわ。
私は、「明日、お待ちしています」とだけ伝言を頼んで、戻って来る侍女のためにお茶とお菓子を用意した。
しばらく、休憩してもらおう。
私が何気なく、ダリウスの姿を見たくて、窓の外に目をやると、ダリウスが私の部屋を見上げていた。
目が合ってしまう……。
にこっと笑うダリウスが大人の男性とは思えないくらい可愛くて、冷徹侯爵なんて異名はどこかに行ってしまう。
この瞬間に、自分がどれだけダリウスを好きで、取り返しのつかない事になっていることを思い知った。
全身が震えるように痺れて、甘さに満たされる。
今だけは、ただダリウスを想って幸せに浸っていたい。




