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妻をやめたら、冷徹侯爵が毎日求婚してきます  作者: 唯崎りいち
元妻の章

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1/15

妻をやめた翌日から求婚される

 この世界の人は、運命の人が必ず2人いる。

 転生者の私はこのルールを知っていた。


 平凡な女でモテた事なんてなかった前世だったけど、今世は伯爵令嬢に生まれて、その美しさに子供の頃からモテモテでした。


 年頃になると、もっと多くの男たちに求婚されて、公爵子息にも熱烈に求婚された。


 美しい伯爵令嬢の私は、当然に愛されるものと思って、運命の人の1人の公爵子息を選んで結婚した。


 ただ、その結婚生活で私は愛も運命も信じなくなった。


 姿が美しくても必ず愛されるわけじゃない。


 五年後、私は公爵を継いで公爵になった夫と離縁して、実家の伯爵家に帰っていた。


 もう二度と結婚なんてしない、だって私は愛されない——。


 そう思っていたのに、毎日来るこの人は何?


 冷徹侯爵が、どんどん外堀を埋めてくる……。


◆◇◆


 18歳で結婚した私、ローザは23歳になっていた。


 公爵の元夫ローレンス・ウィンザーと離縁して、実家のアシュフォード伯爵家に戻って来た。


 5年前と変わっていない自室に戻ると、ローレンスとの結婚を楽しみにしていた、18歳の時の気持ちが蘇ってくる。


『愛してるよ、ローザ。僕の妻になったら、ずっと大事に、幸せにするよ』


 18歳の私は、ローレンスの言葉は必ず実行されるものと思っていた——。


 23歳の私は、5年間泣き続けてやっと離婚できて、涙なんて枯れて、清々しい気分で実家に戻って来たけど……やっぱり、泣いた。


 5年前の純粋だったローザが可哀想。


 これから、何が起こるのか知らないローザ。

 もう一人の運命の相手と結婚していたなら、幸せになれたかもしれないのに。


 もう一人の運命の人は、きっと大勢の求婚者達に紛れていて、一緒に振ってしまったのね。



 ——そう思っていたのに。


 何故かそこに、冷徹侯爵と噂されるダリウス・ブラックウッドが求婚にやってくる。




「ローザ・アシュフォード、俺と今すぐ結婚してくれ」


 朝から訪ねて来て私に会わせて欲しいと言った侯爵が、私に会って開口一番にそう言った。


 横にいた父のエドワード伯爵も、母のシャーロット伯爵夫人も驚いていた。


 離縁して帰って来た娘を翌日訪ねる者がいて、求婚してくるなど……聞いた事がない。


 しかし、彼ら以上に私の方が驚いている。


 ダリウス・ブラックウッド侯爵とは全く面識がない。


 夜会で一緒になったことぐらいあるのかもしれないけど、紹介されたり声をかけられたりした事はないし、姿を見たことがない。


 背が高く、黒髪に碧眼の端正な顔立ち。


 目を引く容姿の方だから、すれ違っただけでも、覚えていると思う。


 もっとも元夫も目を引く美青年で、ローレンスに夢中だった時期なら、すれ違ったくらいじゃ侯爵の事など目に入っていなかっただろう。

 そんなのは、結婚当初の僅かな期間だけだったけど。


 ただ、噂だけは聞いた事のある人だ。


 結婚して、仲の良い夫人や令嬢とお茶会をしていると、必ず噂に上るのがダリウス・ブラックウッド侯爵のことだった。


 私が結婚した頃に侯爵家を継いだダリウスは、その手腕で破産寸前だった侯爵家をあっという間に立て直し、今では国で一二を争う大金持ちになっている。


 それだけに、使えないものを切る冷徹な様子が噂になって、ダリウスは冷徹侯爵と呼ばれるようになっていた。


 一方で、その整った顔立ちから、彼に憧れる女性は多かった。


 そして、ダリウスの方も女性に大変興味があるようで、数多くの女性と関係を持ち、その殆どが一夜だけのものだった。


 その数は常軌を逸していて、お茶会で会う女性の中にも一度だけの関係で捨てられたと言う人がたくさんいた。


 ただ、どの女性も彼を悪く言う事はなく未練を口にする。


 そんな女性達を冷徹に通りすぎて顧みない様子も冷徹侯爵と呼ばれる所以だった。



 ——そのダリウス侯爵が何故、私に?


「離縁したばかりですから、しばらくは一人でいたいので、お断りいたします」


 ともかく、よく知らない人だし、お断りする。


「一人がいいなら俺の屋敷で気の済むまで一人でいればいい、君の気の済むまで俺は近づかない」


 侯爵の屋敷って……もう結婚前提だ。


 そんなことを言われても、あなたの事をよく知らないし……結婚しちゃったら、後から嫌だなんて言えないんだから、今結婚するなんて無理だし。


「家族と過ごしたいので、伯爵家を離れるつもりはありません」


「では、家族と離れてもいいと言う日まで毎日会いに来る」


 え?


「あなたと結婚するつもりは……」


 私の言葉を聞かずにダリウスは帰っていく。


 それから、有言実行の侯爵様に悩まされる事に——。




 毎日、プレゼントを持って現れるダリウス。


「俺と結婚してくれる気にはなりましたか?」


「……いえ」


「明日、また来ます」


 そう言って毎日プレゼントを渡される。


 置いて行ってしまうけど、結婚なんてするつもりがないから、もらえない。


 いつも、翌日にお返ししている。


 でも、新しいプレゼントを渡される。


 これも、翌日、返そうと思ったけど……、


 王都で話題になっていたお菓子で、離婚のゴタゴタで食べに行けなかったモノ……。


「明日、お返ししても、もう食べられないわね……」


 お母様がおっしゃるから……。


 誘惑に負けて、お母様と一緒に美味しくいただいてしまった!



「本当にごめんなさい! ダリウス様とは結婚できないのに! もう、来ないでください」


「美味しかったですか?」


「……はい」


「なら、俺は嬉しいです。俺が、好きで贈っているものですから気にせず受け取ってください。俺は、何があってもあなたと結婚しますから」


「……いえ、だから、お断りを……」


 それから、なし崩しでプレゼントを受け取るようになった。



「まあ、素敵なドレス! 明日はこれを着て、侯爵様をお待ちしましょう」


 侍女に言われるままに、ダリウスに贈られたドレスを着て彼を待つ。


「……!」


 私の姿を見て、ダリウスが言葉を失った。


「……俺が、贈ったドレスを着てくれたんですか……!」


「着たけど、あなたと、結婚は出来ません!」


「あなたに俺の贈ったモノを着ていただけただけで、満足です。俺を受け入れてくれてありがとう」


 受け入れたって……そういうことになってしまうの?


 昔、たくさんの男性に求婚されていた時は、一人一人断るなんて出来なくて、貰ったプレゼントは全部受け取っていたと思う。


 だから、返さなきゃいけないって意識があんまりなかったわ。


 みんな、ローレンスと結婚が決まったら、求婚者は去ってしまったし。


 私は、一対一で男性と向かい合ってお断りするなんてした事がないのよ。


 でも、もう絶対にダリウスからのプレゼントは受け取ってはいけないわ。



「それは、あなたのサイズに合わせて作らせたので、返されても捨てるだけなんです。作った靴職人ががっかりします」


 すごい豪華なビーズの刺繍がされた靴だった。

 作るのに何日かかったのか……仕方なく私が履く事にする。


「ど、どうして、私の足のサイズを知ってるんですか!?」


「優秀な秘書が調べてくれるんです」


 私が買い物した店に記録が残ってたり、公爵家の使用人が覚えていて聞き出したり、我が家の使用人や両親も教えていそうだけど……。


 ドレスや靴に指輪……全部調べるのは大変そうだわ。


「ダリウス様、秘書さんにお仕事させてあげて下さい」


「あなたと俺を結婚させる事が、侯爵家では最重要の仕事なんですよ。秘書の仕事内容は俺とあなたが結婚すれば変わりますよ。すべてあなた次第です」


 靴職人の為に靴を受け取ったから、秘書の為に結婚してと言うニュアンスがある。


 話せば話すほど、ダリウスとの結婚に向かっている気がする。


「もう、来ないで下さい!」


 ダリウスが私の顔を見て笑う。


「また、明日も来ます」




 ダリウスから贈られた寝巻きでベッドに寝ている。


 こんなものまで贈られて、ベッドの上で着ているなんて……。


 断るつもりなのに、全然断れない……。


 『また、明日も来ます』って言ったダリウスの笑顔が素敵で、今すぐにでももう一度見たくなっているわ。


 こんな風に思ったのは18歳の時以来で——。


 ローレンスの事を思って眠れなかった夜を思い出す。


 結婚するまで、毎晩、ローレンスを想って窓の外の星を眺めていた。


 今日も窓の外には、あの頃と同じく星が瞬いていて、あの頃と同じ運命を辿る事を示唆しているようだった。


 結婚するまではずっと優しかったローレンス。

 幸せの絶頂で結婚して、すぐにローレンスが私に飽きてしまった。


 運命の人の2人のうちの一人だったのに。


 だから、きっと、ダリウスも私に飽きるわ。


 私は誰からも、愛されない——。


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