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妻をやめたら、冷徹侯爵が毎日求婚してきます  作者: 唯崎りいち
元夫の章

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14/15

手を差し伸べて、踏みにじられる

 私、ミリアは貴族の男性が通う会員制の社交クラブで働いている。


 最初は貴族の方々は紳士的な人しかいないと思っていたから緊張したけど、聞こえてくる話を聞いているとゲスな話しかしてない。


 たまに物静かな人がいると思ったら、冷徹侯爵と呼ばれる人で、女遊びが激しい事からついたあだ名だと聞いて、幻滅した。


 そして、特にローレンス・ウィンザー公爵!


 この店に来る客で一二を争うほど高貴な方だと聞くのに、一番、話す内容がゲスだ。


 奥様がいるのに別の女性の話ばかりで「ローザは僕にベタ惚れだから」が口癖だ。


 取り巻きたちが「そうですね」と調子がいい事を言っているが、ローレンス様がいない時には、ローザ様が可哀想だと言って、怒りを露わにしている。

 ただ、ローレンス様がいれば尻尾を振るだけの情けない人たちだ。


 貴族の男なんてくだらない奴らばかりで、身分だけはあるつまらない男と結婚して、頼りにならない口だけの男たちに崇拝されているローザ様が可哀想になってくる。


 王太子も会員にいると聞いているがそれらしき人はみないし、流石に王太子はまともだから呆れて近づかないんだと思う。


 けど、ある日、あのローレンス様がローザ様に離縁されたと聞いて、思わず吹き出した。


「あんな女、結婚して二週間で飽きたし」


 顔面蒼白で言っても説得力がない。


 取り巻きたちもなんと言ったらいいのかと迷ってるらしく、合いの手に勢いがない。


 ニヤニヤ笑いをこらえながら酒を作っていたら、あろう事かローレンス様が私を誘いにくる。


「奥さんに捨てられるような人とは付き合えません」


 と言って断ると、ローレンス様は絶句した。


 これに懲りたら、次の相手には浮気なんてしないことね。




 ——一度、断って、もう誘って来ないと思ったローレンス様が、私にプレゼントを持って来て、夜の誘いをしてくるようになった。


 私の好みじゃないプレゼントは、他の女性へのプレゼントのついでに買われたもののような気がする。


 私には、平民の彼氏がいるから、誘いに乗るはずないでしょう。


 でも、来るたびに憔悴していくローレンス様を見ると、辛くなる。



 ローザ様の再婚が決まったと聞いて驚いたけど、相手はあの冷徹侯爵様だと言うから、もっと驚いた。


 実は冷徹侯爵様はローザ様に五年間も片思いをしていて、女遊びもローザ様を忘れるためだったと聞いた。

 いつかローレンス様がローザ様に愛想尽かされた時のための、二年前に心を入れ替えて女性関係を綺麗に清算して、待っていたとか。


 それで離縁された翌日からローザ様の元に通い続けて、ローレンス様に深く傷つけられていたローザ様も心を癒して、再婚に漕ぎ着けた。


 冷徹侯爵様と取り引のある彼氏が言ってた。 


 ローザ様と冷徹侯爵様に感化されたらしい彼氏に、私までプロポーズされて……。


 確かに、二人の事をいいなと思ったけど……断ってしまう。


 だって、その二人の陰で、こんなに傷ついている人がいるんだもの……ほっとけない——。



 酔い潰れたローレンス様を介抱する。


 目を覚ましたローレンス様が、私の顔を見て言う。


「君はローザとは別の僕の運命の人だ。二度と過ちは犯さない! 僕を信じてくれ」


 私はうなづいた。


 事業に失敗して死のうとしていた一人暮らしの部屋が隣だった人が、事業が成功して彼氏になってプロポーズまでしてくれたのに……振ってきた。


 ローレンス様が心配で、見ていられなくて——。


 本当にバカなのは私だけど、これから立ち直ろうとしている人を見捨てられない——。


 私は、ローレンス様について行って、貴族の屋敷に初めて足を踏み入れた——。




 ——翌朝、私が目を覚ますと、ローレンス様は既に目を覚ましていた。


「勝手に使っていいと言ったけど、平民の女まで連れてきていいなんて言って無いわよ」


 凛と鋭い女性の声が響く。


「今回だけだよ、僕が愛しているのは君だけだ」


 ローレンス様の声だ。


 凛とした声の美しい女性は侯爵令嬢で、ローレンス様の浮気相手……離縁された後だから、ただの恋人か。


 ここはローレンス様の恋人の屋敷だった——。


「僕が平民の女なんて本気で相手に出来るわけないだろう。僕は公爵なんだ。愛人にだってできない」


 私の身体がカッとなる。


 身分違いは分かっていたけど……愛人にすら出来ないと言われるほど、見下されていたなんて……。


 私は、服を着て、すぐに飛び出した。


「あなたみたいなクズ聞いたこともないわ。ローザはよく我慢したわ。あ、待って、平民のあなたになら、こんなのでももったいないくらいの人よ、持って帰って!」


 侯爵令嬢の声は聞こえなかった——。



 私は泣きながら逃げるように自宅に帰っていた。


「何処に行ってたんだ!?」


 隣に住んでいる元彼が、怒って聞いてくる。

 事業が成功したから、今日、大きな家に引っ越すって言ってたけど。


「夜に帰って来ないなんて心配しただろう。社交クラブに行ったら、公爵様と一緒だったって聞いたけど……」


「……! 探してくれてたの……!」


 一方的に私が振ったのに……。


 私はずっと泣いていたけど、もっと涙が溢れてきた。


「俺がダメだった時に支えてくれたのはミリアだからって、ミリアが落ち込んでる人をほっとけない性格なのは知ってるから。また俺が落ち込むこともあるだろうから、ミリアにはこれからも俺のそばにいて欲しいんだ」


「……でも、」


 私は、ローレンス様と昨夜あった出来事を全部話した。


「なんて奴だ!」


 元彼が激怒してる。

 私の事は怒ってない。

 「俺が好きなミリアならそうする」と悲しそうに笑う。


「私のこと、許してくれてありがとう……。もう絶対に、ローレンス様の事は思い出さないわ」


 私は彼氏と結婚した。

 新しい大きな家の手入れや事業の手伝いがあるから、社交クラブは辞めた——。



 夫の事業を手伝っていると、ローザ様と冷徹侯爵のダリウス様の結婚式に呼ばれた。


 夫は思った以上にダリウス様の事業に深く関わっていたらしい。


 結婚式がつつがなく行われる中にニュースが飛び込んでくる。


 そのニュースは、社交クラブのお客だった不自然な黒髪の貴族の男性が運んで来た。


「ローザ様の前夫のローレンス様が破産しました! 王は今までの不正のこともあり、ローレンス・ウィンザー公爵から公爵の爵位を剥奪し、このダリウス・ブラックウッド侯爵を新しい公爵に指名しました!」


 わーっと歓声が上がった。


 結婚式は最高に盛り上がった。


 しかし、私は思う。


(ローレンス様って、誰!?)


◆◇◆


 この世界の人には必ず運命の相手が2人いる。

 そして、この二人には共通点がある。


 ローレンスの運命の相手の共通点は、献身的で一途な代わりに、別れたら1ミリも興味が無くなること。


 誠実だったら、どちらかとうまくいって幸せになれたのに。


 公爵はずっと一人きり。


 公爵と結ばれずにすんだ、運命の相手の二人は、もう一人の運命の相手と結ばれて、最高に幸せになりました。


◆◇◆


 私、ミリアは結婚して新しい家に住んでいたけど、色々あって、前の家も引き払っていなかった。


 夫と最後の荷物を取りに戻った時に、私の前の部屋の前に男がいた。


 身なりはいいのに何日も着替えても風呂にも入っていないようで薄汚れている。


「ミリア、僕は平民になったんだ! 君の為に!」


 私は怖くなって、夫の後ろに隠れた。


「あなたが、ローレンス様……いや、公爵の爵位を剥奪されて、平民になったのか」


「誰だ君は!? 僕のミリアと何してる!? 浮気か!? そういう最低の女だったのか!?」


 は!?


 なんだ!? この男は!? 1ミリも興味が持てないクズ男だけど、見てると言葉が溢れてくる。


「自分のことを棚に上げてよく言うわ。浮気ばっかりの最低のクズ男はあんたでしょう。公爵って事しか価値のない男が、肩書があれば許されるだろうって勝手なことばかりして、肩書きの強さを確かめて安心してただけなのよ。そんな奴に付き合いきれなかったからって責められるいわれはないわよ。逆によく付き合ってやったわよ。最大限にあったチャンスを無駄にしたのはあんたなんだから自業自得よ。あんたさえまともだったら、平民になったって、私とローザ様があなたを取り合う事があったかもね」


 いや、私がローレンス様に惹かれたのはローザ様に捨てられて絶望してたからで、ローザ様が見捨てて無かったら、私とローレンス様は関わらなかったわね。

 気分としては、どっちも見捨てるような性格じゃなかったってことで。


 でも、こんなのに付き合ってしまう性格なのは嫌になるわ。


 ただ、こいつがそんな私達でさえ見捨てるくらいクズすぎたおかげで、私もローザ様も幸せになれたのね。


 ローレンス様——じゃなくて、興味も持てないクズ男が、呆然としている。


「目障りだから、消えてくれないか。平民の不審者なら自警団に突き出すだけだ」


 夫がクズ男に言う。


「ロ、ローザなら……!」


 小さな呟きが聞こえたと思ったら、クズ男は消えていた。


「……大丈夫かなぁ。ローザ様の所に行ったら、ダリウス様がいるが……」


 夫がクズ男の方を心配するくらい、ダリウス様はローザ様を溺愛していた。


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