結婚して、離縁される
僕、ローレンス・ウィンザー公爵の妻、ローザが離縁したいと言って来た。
結婚したのは五年前、まだ僕が公爵を継ぐ前だった。
でも、初めて会ったのは七年前だ。
7年前に出会った時のローザは若く美しく、運命の人だと思ったが、結婚したら普通の女と変わらなかった。
全てを委ねるような瞳で、「ローレンス」と僕のことをとうっとり見つめるだけの女。
最初は新鮮だったが、結婚して二週間もしない間に飽きた。
三週間目には別の女の所にいて、四週間目にはローザにもバレていた。
ローザは怒ると思っていたが、何も言わなかった。
うっとりと僕を見つめるような目はしなかったが、戸惑ったように目が泳ぐだけだった。
ふとローザの様子に閃いた。
ローザは僕と出会う前から何処に行っても評判の美少女で、何よりも大切な存在として男たちから崇められて来た。
だから、自分が二番目になった事に気づいていない。
愛されて当然という意識が、夫が浮気した事実を理解さえさせない。
「ローザ、愛してるよ」
そう言ってキスしたら、いつもの笑顔に戻る。
「私も、愛してるわ、ローレンス」
結局、ローザが自分がもう僕に愛されていないと気づくには一年ほどかかったと思う。
夜会に行って、ローザを放ったらかしにして、別の女性と話す。
その間にローザは男達とダンスしたり談笑して楽しんでいるようだった。
僕は、この瞬間だけは嫌な気分になった。
昔、ローザが僕と結婚する前。
まだ、付き合ってさえいない時の事を思い出す——。
ローザ・アシュフォード伯爵令嬢は僕の通っていた学園にも評判が届く美少女だった。
好奇心から、別の学園に通っている二学年下のローザを見に同級生達と出かけた。
男達が群がっていると思ったら、中心にローザがいた。
本当にローザは美少女で僕も一目で好きになった。
だから、すぐに声を掛けようとしたが、他の大勢の男と同じにされて、少ししか話せなかった。
「ローザお嬢様」
よく通る声に振り向くと、大人の男が立っていた。
「トマス!」
ローザが輝く笑顔で男の名を呼ぶと、群がっていた男達が道を開ける。
「迎えが来たので帰ります。では、ごきげんよう」
そう言ってローザは男について行ってしまう。
彼は伯爵家の使用人らしかった。
僕はこの時の事を忘れない。
ローザに相手にされなかった屈辱と、どうすれば人に注目されるかを考えるキッカケになった出来事だった。
それまでも女性と遊ぶ事はあったが、この日から一層多くなった。
女性が僕だけを見ている。
その事が、僕の16歳のローザに傷つけられた自尊心を回復させた。
そして、たくさんの女を夢中にさせる僕を羨ましがる男たちが、優越感を刺激する。
二年後に18歳になったローザは学園を卒業して社交界にデビューする。
デビュー初日ですら、男たちを大量に引き連れて、相変わらずだった。
僕は胸の痛みを覚えた。
これは恋なのだろうか、ただ、二年前の屈辱を晴らしたいだけなのか。
「失礼」
公爵子息としての威厳と魅力を身に付けた僕が男たちの背中に向かって言うと、あっという間にローザまでの道が開く。
男たちからの視線がこれ以上ないくらい心地よく刺さる。
これが五年前、結婚する直前の事だ。
——僕は、夜会に一緒に来た、妻になったローザに声をかける。
僕に放置されて、男たちといるローザ。
「ローレンス」
ローザが僕に媚を売るように笑顔を向ける。
僕に、愛されていないと知ったローザは、再び愛されようと必死だ。
男たちは、その様子に僕への憧れや怒りを抱く。
僕は、満足する。
七年前にローザと男たちに感じた敗北感を一瞬、思い出して嫌な気分にはなったが、それが、かえって僕の満足感を高めてくれる。
そんな僕らを遠くから見つめる目があった。
ローザの信奉者かと思ったが、違うようだった。
毎週末に夜会で一夜限りの相手を探す冷徹侯爵。
彼は僕と同類のようだった。
ただ一つ違うのが、僕にはローザがいる事だ。
ローザ、僕は、君を愛せないけど、手放せない。
僕を満たしてくれる運命の人だから——。
数年後、ローザは、離縁したいと言って、出て行った。
「奥さんに捨てられるような人とは付き合えません」
は? 誰が捨てられたって!?




