彼女の本音を知った日
俺はそれでも毎日ローザに会いに行く。
ローザは俺と結婚しないと決めてしまって、父親のアシュフォード伯爵に『私を最初から愛さない人』という条件で新しい結婚相手を探してくれと頼んだらしい。
そんな相手がいるわけない。
バカバカしいけど、ローザのローレンスに刻まれた傷の深さが伝わってくる。
どうして俺じゃダメなんだ——。
伯爵も娘の気持ちに心を痛めていて、俺にローザを任せると言ってくれた。
肝心のローザだけが、自分で自分を不幸にしている。
でも、ある日、ローザが俺の侯爵邸に来た。
「ローザ!」
俺はすぐ横の部屋にローザを連れていくと抱きしめた。
俺の事を信じないローザなら、壊してもいいと思った。
ローザが俺の下で苦しそうにしていても、ローザの気持ちなんて、もうどうでもよかった。
俺の好きなようにして、ローザは勝手に幸せにする!
そんな勝手な気持ちをぶつけたのに……。
ギュ……
ローザが俺の背中に手を回す。
ビクッと俺の身体が跳ねて、身体がローザから離れた。
「……勝手に幸せにするって言ったのに、ダリウスが私を潰すのやめた……!」
ローザが目に涙を溜めて俺に抗議する。
俺がギュウゥゥッと潰すように抱きしめると、ローザの手が俺の背中でギュッと俺を潰すように握られる。
まったく弱い力だけど、ローザにも俺への不満があった事がわかった。
引かれることなんて気にしなくて良かったんだ、五年前からずっと君を想い続けて、おかしくなった俺を、ローザはただ受け入れてくれる。
ローザは、重い男が好きなんだな——。
俺の寝室で夜を過ごして、朝になった——。
ローザの父の伯爵には、ローザが自分の意思で俺に会いに来たなら、好きにして良いと許可は取ってある。
だから、もうローザを帰す気はなかった。
プレゼントを選ぶついでに、ローザの服も日用品も全部屋敷に用意してある。
だから、着替えの心配もない。
ただ……一つだけ、問題があったらしい——。
「なんで……? なんでこんなものが、寝室にあるの……!?」
さっきまで、あれだけ俺の重い愛を受け入れて、俺に甘えていたローザの表情が変わっている。
絶望して、泣き出しそうだ……
「こんな物を寝室に置いているくらい、ダリウスは、この人の事が好きなんでしょう!? 私より、ずっと!?」
ローザは俺が用意していたドレスに着替えていて、そのまま寝室を駆け抜けて行った。
「違っ!? それは!?」
知らずに見たら、異常な物に見えるだろうけど……いや、知ってっても異常かもしれないが。
ローザの誤解するようなものじゃないんだ!
俺が寝室を出て向かうと、玄関に走って行くローザが見えた。
その前に元秘書のエレンと新しい秘書のギルがいた。
「エレン! ローザを止めてくれ! 寝室のあれは誤解だと説明してくれ!」
俺は思いっきり叫んだ。
エレンはきょとんとしている。
「あれって、ローザ様のハンカチ?」
ローザの動きがピッタッと止まる。
「……なんで、ダリウスが私のハンカチを持ってるの……? 会ったこともないのに」
「それは、私がローザ様に頂いた物で……覚えていませんか? 二年前に目にゴミが入って泣いている子にローザ様がハンカチを渡してくれたんです」
ローザは、「あ、あなただったの!?」という顔をする。
「……でも、なんでそのハンカチが、ダリウスの寝室に、聖遺物みたいに大事に祀られているの……?」
……。
「それは、ダリウス様だからです」
エレンが簡潔に言うけど、俺だって、いくらローザのものだからって、ただの白いハンカチを飾ってるなんておかしい事は分かってたんだ。
だから、ローザが来る前には外しておくつもりだったんだ!
勝手に離縁したり、ローザの行動が予想外すぎて間に合わないだけで!
——俺とローザは、結婚式に向けての買い物に街の中心まで来た。
秘書のギルとエレンも一緒だ。
ローザとエレンは何故かとても仲良くなっていて、エレンは俺の秘書に復帰して、ローザの用事も任せるようになっていた。
「ギルに出会った最初の日に、ダリウス様が私に秘書の仕事の引き継ぎをするように言って部屋を出て行かれたんです。そしたら、すぐにギルに押し倒されて『ずっと好きだった』って言われたんです」
ローザとエレンがお互い婚約者に話をしている。
俺はメガネで真面目そうに表情を変えないギルを思わず見る。
な、なんてことをしてるんだ!?
これがエレンじゃなきゃ大問題になっているところだ!
「いいなぁ。エレン、私もそんな出会いをしてみたかった!」
ロ、ローザ!?
え!? 出会った時に押し倒して良かったのか!?
流石に五年前の夜会はダメでも、離縁した翌日は良かったのか!?
俺は唖然とする。
あの求婚に通った日々……毎日、新しいローザに出会えて楽しかったけど……。
初日に、押し倒しても良かったのか!?
◆◇◆
この世界は乙女ゲームが元になった世界で誰にでも運命の人が二人いる。
この運命の人には共通点があって……。
ダリウスの運命の二人は、常軌を逸した重い男が大好き。
ローザの運命の二人は、大勢の女性と関係を持てるが、彼女だけは特別に思っている。
じゃあ、ローザの元夫のローレンスは、どんな運命の二人なのか——?
◆◇◆
馬車を降りて街中を歩くと、ローレンスがいた。
女性と歩いていたが、いつもの貴族令嬢達とは毛色が違うようだ。
どこかで見たこともある気がするが……。
ローレンスは、俺の腕を取ってじっと俺を見つめるローザに複雑な表情を見せる。
『僕のお下がりの妻』
『僕にはもう関係ない女だから、好きにすればいい』
そう言っていたが、ローザに未練があるのはローレンス、お前だったんだ。
ずっとローザが自分のものだと思っていたんだろう。
彼女は俺と結婚する。
ローザがふと、横を見てローレンスに気づく。
けれど、すぐに俺を見た。
「誰? あの人」
俺は、微笑んでローザを連れて店に入った。
ローザは元夫には1ミリも興味がないらしい。
この店で買った結婚指輪をして、ローザは俺と再婚した。
再婚した日に、俺の仕掛けで公爵家が破産し、王太子によって俺に公爵の座が転がり込んできた。
ローザはまた公爵夫人に戻っていた。




