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妻をやめたら、冷徹侯爵が毎日求婚してきます  作者: 唯崎りいち
冷徹侯爵の章

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10/15

壊してでも愛すると決めた日

 俺、ダリウス・ブラックウッド侯爵の執務室に、秘書のエレンが飛び込んできた。


「た、大変です! ローザ様がローレンス・ウィンザー公爵と離縁されて、ご実家のアシュフォード伯爵家にお戻りになられました!」


「なんだって!?」


 ローザが、離縁した……!


「ロ、ローザが自分から、離縁したなら……いいが……」


 なんであれローザがローレンスと離縁したのなら、これ以上に嬉しい事はない……のに、俺が救うつもりだったから動揺していた。


 二年前から、公爵の領地の経営状態を調べ、より儲かるように取引を持ちかけて、十分に儲けさせた後で手を引く。

 俺の力無しでは領地運営が出来なくなった頃に手を引いて、泣きついて来たところを乗っ取る計画だった。


 そのための仕掛けは十分に施して、そろそろ手を引こうという時だったので驚いた。


 秘書のエレンが優秀なおかげで、面白いくらいに計画が上手く進んで、三年より前に破滅させられそうだと思っていたのに……。


「ど、どこへ行くんですか? ダリウス様!?」


 エレンが俺が焦って出て行く様子に驚く。


「ローザのところだ! グズグズしていると、他の男に先を越される!」


「待って下さい! 離縁した翌日ですよ! 会いに行く男なんていませんよ!」


「いないなら俺が一番最初になるだけだ!」


 エレンが呆れている。


「分かりました。でも、ちゃんと着替えて下さい。ダリウス様が五年間も片想いしてたからといって、初めてローザ様にお会いするんですから、第一印象が肝心ですよ。他の準備は私がしますから」


 初めて会う。


 そうだ、ローザにとっては俺は、見知らぬ男なんだ。


 そう思うと緊張した。


 ちゃんと計画通りに進んでいれば、ローザに会うための服も仕立てたのに、今は、服がない。


 しかし、一家総出で最高の服を選んで、俺を最高の状態にして、エレンや使用人たちが俺をローザの元に送り出した。




「誰?」


 ローザの第一声はそれだった。


 本当に俺を覚えていなかった。


 「ダリウス・ブラックウッド!? あの冷徹侯爵の!?」


 そう言ってから、しまったという顔をするローザ……可愛い……。


 冷徹侯爵の噂だけはローザにも届いているようだった。


「ローザ・アシュフォード、俺と今すぐ結婚してくれ」


 俺は言いたい事だけ言って、「明日も来ます」と馬車まで戻る。


 ローザが俺の行動に戸惑っているのは分かったが、一生懸命に答えようとする姿が可愛すぎて、限界だった。


 ずっと俺は理想化されたローザに片想いしていたんだ。

 限界まで理想化したローザだったのに、まさか本人がそれを超えてくるとは。


 やはり、何人の女性と過ごそうと、本当のローザを超える女性を思い浮かべることすら俺にはできなかった。


 思わず抱きしめてしまいそうになるのを抑える為に、これ以上はローザのそばにいられなかった。



 次の日はちゃんとプレゼントを持って行った。


「俺と結婚してくれる気にはなりましたか?」

「……いえ」

「明日、また来ます」


 言いながらプレゼントを渡す。


 ローザの手が俺に触れてどれだけ悶え苦しむ事になったか、彼女は知らない。


 次の日には、昨日のプレゼントを返されるが、また手が触れて悶えた。


 平静を装って、求婚だけはして、新しいプレゼントを置いて来たが、また手が触れた。


 馬車の中で二度も手が触れてしまった事を反芻する。


 五年間の一方的な片思いで、どれだけ拗らせていたのか、自分で思い知る。


 ローザが結婚すると言ってくれるまで、俺から触れるのは控えよう。


 毎日求婚しに来るだけで異常行動なんだから。


 ただ、会ってローザが俺を見て話してくれるだけで幸せすぎた。


 プレゼントを受け取ってくれて、俺が選んだドレスを着てくれた。


 一緒に出掛けたいと言ってくれて、窓から俺を見ていて、カフェに行って、俺の腕に手を置いて、俺の言い訳を聞いてくれて、俺の育った農村の祭り楽しんでくれて、俺の生い立ちを知ってくれた。


 ローザの瞳が俺を好きだと言っていた。



 ——でも、ローザの傷が深い事も分かった。


 特に気になったのは、農村で、秘書のエレンを見て顔色が変わった事だ。


 カフェで俺と昔、関係のあった女性と鉢合わせした時もローザは落ち込んでいたけど、エレンと会った後は落ち込むのとも違う。


 エレンの事は、まるで俺が彼女と付き合う事が当然の様な反応をする。


 エレンの事はなんとも思っていないのに……俺に、やましい事は何一つないのに……。


 エレンを雇った最初の頃に、一度だけ、エレンに惹かれそうになってゾッとした事を思い出す。


 だから、ローザが『必要ない』と言うのにエレンを秘書から外した。


「私はダリウス様にしたがうだけですけど、ローザ様はおかしいです。私なんて、ローザ様の半分も魅力がないのに……」


「俺にとってはそうだが、エレンの方が好きだという男だってたくさんいるさ。容姿が美しいからといって、必ず美しい方が愛されるわけじゃ……ない……」


 言いながら気付く、でも、ローザにとっては容姿の美しさで愛されるのは当然のことだったんだ。


 小さな頃から、男どもにモテて来たのは知ってる。

 勘違いするのも分かるし、勘違いではなく、大半の男には一生手の届かない存在として崇められているだろう。


 それを、ローレンスが打ち砕いた。


 必ず愛されると思ったのに、必ず愛してくれるはずの夫に裏切られたんだ。

 ローザの絶望は深いのだろう。


 でも、ここまで俺の気持ちが通じないのか——。


 どれだけローザを傷つけないように見守っても、ローザはずっとローレンスにつけられた傷を持ち続けている。


 ローザは俺の事を好きなはずなのに、まだローレンスの方を見ている。


 ——五年前の、


 ローレンスにキスされて赤くなっているローザ。


 五年間、繰り返し繰り返し、見続けた光景。


  今も、ずっとローザはあのまま、ローレンスの言った事が全てのままだ……!


 でも、俺がここで嫉妬に狂えば、ローレンスが優越感に笑うだけだ。


 俺はまた、ローザを見守って待つだけだった。



 夜会で、ローレンスに会ってしまう。


 ローレンスを破滅させる計画が裏で作動中の俺は、ローレンスの暴言をただ聞いているのみだった。


 その俺の態度で、ローザは怒って、知り合いの馬車に乗って俺とは別に帰ってしまう。


「ローザ……」


 君が帰って、俺の胸は痛んだ。


 君が未だにローレンスの言葉に傷ついてしまう事が、俺には辛かった。


 ローレンスの言った事は、君を見下してる様でいて、実態は君に甘えてるだけだ。


『僕のお下がりの妻を君(男)が欲しがるのも分かるさ。僕にはもう関係ない女だから、好きにすればいい』


 離縁した後まで、君をもの扱いで、他の男から優越感を得ようとしてるだけの、虚しい男だ。


 君の為に、そう反論しなかった俺も悪いけど、ローレンスの事なんて気にせずに、俺だけを見つめてくれていてもいいんだ。


 それだけの時間をローザと俺は過ごしたのに、ずっと君はローレンスにつけられた傷ばかり見ている。


 今も君の心はローレンスの妻をやめられていない——。


 だから、俺は君に怒りが湧いた。


 もう君の気持ちなんて知らない、君が壊れてもいいから俺の気持ちを刻みつけたい。


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