8.決闘
「一つだけ質問があるんだけど」
「ん、俺にか?」
「十分な報酬って、どれくらいもらう予定なの?」
「……おいおい、契約の話だ。簡単に話すとでも――って、おい!」
ちょうど、ロットが手に持っていたのが契約書だったようで、リオはそれを盗み見た。
並んでいる数字は、以前に聞いた帝都の仕事のどれよりも高い――金額。
リオにとっては、かなり魅力的なものであった。
(……なるべく稼げる仕事についた方がいいって言われたんだよね)
「――ったく、金額など、お前には関係のないことだろうが」
「ううん、気が変わった」
「……なに?」
ロットは怪訝そうな表情を浮かべた。
この金額なら――フィーナの誘いに乗ってもいいと思えたからだ。
「ねえ、わたしがこの人に勝ったら――わたしを雇ってくれる?」
リオはアーノルドに対してそう言い放った。
「はははっ、まさか、俺に勝つって言ったのか?」
ロットはまた鼻で笑い、アーノルドは呆れた様子を見せる。
「……はあ。子供が何を言って――」
「私の護衛になってくれるってこと!?」
だが、二人とは異なり――フィーナだけは途端に嬉しそうな様子を見せた。
元々――フィーナが連れてきたのだから、当たり前といえば当たり前のことだろう。
ただ、リオが乗り気になったことが、彼女にとっても嬉しいのかもしれない。
リオは特に戦闘面に関しては自信を持っている――仕事を探しに来たというのも本当のことであり、こうして連れて来られたのも、仕事を紹介してもらうためではある。
おそらく――帝都で仕事を探しても、ここまで高い金額で雇ってもらえる仕事は早々見つからないだろう。
(まあ、金額の問題ではないんだけど……)
それでも――多いことに越したことはない。
その辺りは、リオも教わって育てられてきたことだ。
生きていく上では金がいる――帝都にやってきたのは、働いて稼ぐためだ。
これから、一人で生きていくことができると証明するために。
早い話――護衛という名目はあるが、報酬的には旨みが十分にある仕事なので、リオは受ける気になったというわけだ。
「勝手に話を進めるな。彼とはすでに契約を済ませてある」
「そ、それはお父様が決めただけで……」
「ヴェルター家の当主は私だ。決定権は私にあるに決まっている」
「っ……!」
アーノルドの言葉に、フィーナは押し黙った。
――当主の命令は絶対、ということだろうか。
リオがやる気を出したところで、アーノルドの決定は覆らない。
提案はしてみたものの、通らなければ何も意味はないのだ。だが、
「――いいじゃないですか」
そんな風に切り出したのは、ロット本人であった。
「……何がいいと?」
「つまり、お嬢様の護衛の座を賭けての決闘――そういうわけでしょう? お嬢様に俺の実力を見せるいい機会でもありますよ」
ロットは澄まし顔で言い放った。
フィーナに向けてのアピールでもあるのだろう――護衛としての実力を見せつけ、認めさせる。
決闘という場は、彼にとってもメリットがあるというわけだ。
――当のフィーナは嫌そうな表情を浮かべており、やはり二人は出会い頭から相性が悪いように見えるが。
「……無駄なことをするな。ロット、君の実力は私もよく知っている。――子供に怪我をさせることになる」
アーノルドはどうやら、リオの身を案じているようだ。
確かに、リオはロットの実力を知らない――だが、アーノルドやロットも、リオの実力を知らないわけで。
だからこそ、決闘で決めるという方向になったのだ。
「怪我はさせませんよ、お嬢様のご友人ですからね」
ロットはなお、余裕といった態度を見せた。
実際――それだけの実力はあるのかもしれない。
アーノルドにそれを認められており、フィーナの護衛という立場を任されるのだから。
この場においては、むしろリオの方が邪魔な存在のはず。
だが、仮にロットが乗り気であったとしても――アーノルドが頷かなければ護衛の座を賭けた決闘は行われることはない。
「……もし、リオが負けたら――護衛についてはもう、我儘を言わないから」
そう切り出したのはフィーナだった。
この場でアーノルドを説得できるのは、フィーナだけだ。
「私の護衛を決めるっていうなら、私にだって選ぶ権利はあるはずだもの。だから、チャンスをくださいっ」
フィーナはアーノルドに頭を下げた。
言い合うばかりではない――フィーナの言う通り、あくまで彼女の護衛を決める話だ。
そこに一切、フィーナの意思が介入しないというものどうか、ということ。
もちろん、最終的な判断はアーノルドに委ねられる。
ここで突っぱねられたら――どうあれお終いだ。
アーノルドは考え込むような仕草を見せた後、
「……それでフィーナが納得するというのなら、認めよう」
妥協――とでもいうべきか。
フィーナが護衛について我儘を言わない、そう宣言したことが大きいのかもしれない。
「あ、ありがとうございます! お父様っ」
厳格な父かと思えば――フィーナには少し甘い部分もあるようだ。
あるいは万一つ、ロットがリオに負けることはないと思っているのかもしれない。
ロットもまた――リオのことを舐めているのは態度を見れば分かる。
成り行きではあるが、リオはロットとフィーナの護衛の座を賭けて決闘することになった。




