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7.正義の味方

(……なんで、わたしまで怒られる感じに?)


 もはや事故に巻き込まれたような感覚だ――さすがに不満を持ちつつも、声には出さない。

 リオは表情を変えずに、アーノルドと視線を交えた。


「――お前とほとんど歳が違わないだろうに見えるが」


 やがて、アーノルドは小さく溜め息を吐きながら言った。

 当然の反応とでも言うべきか――メイドとしてならともかく、護衛というには、リオは幼く見えるだろう。

 それにどこの馬の骨とも知らない相手を護衛に選ぶなど――たとえ弱小貴族であったとしてもしない。

 護衛というのは、対象を守る仕事なのだ――ある程度の実績や経歴が求められるのは当然のことで、その辺りはリオも同じ考え方を持っている。


「でも、リオは私を助けてくれたんだよ?」

「それとこれとは話が別だ。護衛というのは遊びで決めているわけではない」


 アーノルドは苦言を呈するように言った。

 フィーナが気まぐれで連れてきた少女に護衛など毛頭任せるつもりはない、といった態度を見せる。


「私も遊びで選んでないからっ!」


 だが、フィーナは食い下がった。

 むしろ、遊びという言葉を聞いて――少しだけ怒ったような様子だ。


「勝手に屋敷を抜け出して、その上連れてきた子を護衛にするなど、遊びという以外になんだ」

「リオは強いんだよ!? それにかっこいい……! 正義の味方だから!」

(正義の味方って……)


 リオは思わず、心の中で突っ込みを入れてしまった。

 ――あの場で何となく言った言葉が、まさかこんなところでも使われるとは思いもしなかった。

 果たして、そんな言葉が通じるとも思えないが、フィーナは何故か自信に満ちた表情を浮かべている。

 アーノルドは、さらに大きな溜め息を吐く。


「――正義の味方など、くだらないことを口にするな」

「っ、正義の味方の何が悪いの!?」


 先ほどまでの申し訳なさそうだったフィーナはどこへやら――一層、意固地な様子を見せた。

 正義の味方――どうやらこの言葉に随分と執着しているようだ。

 思えば、リオが口にした時も、随分とその言葉に強く反応していたようにも思う。


「護衛に正義だのなんだの、そういうことは求めていない」

「わ、私はリオに護衛になってほしいから連れてきたの。信頼してるから」

「出会ったばかりの子を信頼している? おかしなことを言うな」

「お父様にリオの何が分かるの!?」

「それはお前も同じだろう」


 ――親子喧嘩に巻き込まれたリオは、ただ気まずい状況に置かれたままだ。

 そんな言い合いをしばらく続けるが、やがてアーノルドが言う。


「……そもそも護衛なら、私の方ですでに選定してある――入ってくれ」


 アーノルドがそう言うと、執務室に入ってきたのは黒髪をオールバックにした男だった。

 身体は鍛えているのだろう――派手めな服装の上からでも、筋肉質なのはよく分かる。

 腰に下げているのは一本の剣――どうやら剣術の心得があるようだ。


「彼はロット・アルダン。何度か、私の護衛を受け持ってもらったことがある。元は傭兵だが、実力は本物だ」

「初めまして、お嬢様。以後――お見知りおきを」


 ロットはそう言って、礼儀正しく頭を下げた。

 だが、フィーナは納得のいかない表情を浮かべている。


「お父様が勝手に私の護衛を決めないでよ」

「勝手ではない。仕事ぶりを判断し、実力のある者を置く――当たり前のことだ」

「私は……その、ロットさんのことは知らないから」


 おそらくはロットのことを否定しようとして――けれど、フィーナは言い淀んだ。

 本人を目の前にしていることもあるが、おそらく悪口などが苦手なのだろう。

 すでに護衛は決まってしまっている――そうなると、リオがこのまま言い争いに巻き込まれているのは、ただ損なだけだ。


「……わたしも護衛を引き受けるつもりで、ここに来たわけじゃなくて」

「ええ……!?」


 リオの言葉に、明らかに動揺とショックを隠せない様子のフィーナ。

 だが、リオとしては仕事を探しに来ただけであり――親子喧嘩に巻き込まれてまで、メイドや護衛の仕事がやりたいわけではないのだ。

 ロットが護衛として決まっている以上、ここで何かを言ったところでフィーナが雇ってもらえる可能性は低いだろう。


「護衛の仕事はそれだけ高い報酬をもらってやるもの――お前のような小娘には務まらないだろうさ」


 ロットは鼻で笑うような態度で、明らかにリオを小馬鹿にしていた。

 挑発とも取れる言動だが――リオは気にしない。

 ただ、フィーナの方が少し怒ったような表情を見せていた。

 ――ロットからすれば、フィーナが連れてきたのは言葉の通り小娘。

 大貴族の令嬢の護衛など、当然務まるはずもない――その認識は正しいので、リオはわざわざ否定などしない。


「リオだって、本当に強いんだから。正義の味方だし……」

「それをあんまり強調しない方がいいと思うけど……」

「ははっ、正義の味方ときましたか。それでしたら、俺が見事にその役目――果たしてみせますよ」


 ロットはそう言いつつも、正義の味方という言葉を聞いた時――明らかに嘲笑していた。

 実際、この場において正義の味方などという言葉は意味をなさない。

 だが、フィーナはロットを睨みつける――彼が彼女の護衛になるには、あまり相性はよくないようには思える。

 ――とはいえ、相性が悪いからと止めるような立場にもなく。

 リオとしては特段、ロットに対して思うところはない――彼からわざわざ、その立場を奪う必要こともないのだから。

 だから、このまま引き下がってもいいのだが――フィーナはリオの服の袖の辺りを掴んだまま、俯き加減に悔しそうな表情を見せていた。

 ちらりと、フィーナがリオのことを見る。


(……いや、そんな顔されても)


 もはやリオにできることは、何もない。

 何もないのだが――ただ、一つだけ。

 リオには引っかかっている言葉があった。

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