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6.ヴェルター家

 ――人生何があるか分からないとはよく言ったものだ。

 リオはそんな風に思いながら、目の前の光景を眺めている。

 リオが連れて来られたのは――大きな敷地内にある屋敷であった。

 まず、敷地外からだと屋敷が少し小さく見えるほどで――この帝都においても、相当な広さの土地を有しているのが分かる。


「ようこそ、ヴェルター家へ」


 そう言って、少女はリオを屋敷へと招き入れてくれた。

 ――ここに来るまで聞いたことはまず、助けた少女の名前はフィーナ・ヴェルター。

 ヴェルター家は帝国においては有数の大貴族として知られている――リオも、その名前くらいは聞いたことがあった。

 偶然とはいえ、助けた相手が大貴族の令嬢――お礼の一つや二つは期待できるとは誰もが思うだろう。

 ――まさかメイドに誘われるとは思いもしなかったが。

 リオが仕事を探していると聞いて、フィーナはその仕事を紹介しようと考えたようだ。

 ――一応、リオの持っていた地図には、仕事が得られそうな場所をマーキングしてあった。

 これからその辺りを巡って、自分に合いそう仕事を見つけるつもりだったので、こんな風に仕事の紹介を受けることになるとは予想もしないことであった。

 ――ただ、せっかく仕事の紹介をしてくれるというのなら、リオにとっては断るような話でもない。

 だって――まさにリオは仕事探しのためにここに帝都へやってきたのだから。


「――勝手に屋敷を抜け出すとはどういうつもりだ」

「……も、申し訳ありません」


 そして――フィーナの父が、彼女を叱責する場面に同席させられるとも思わなかった。

 男の名はアーノルド・ヴェルタ―――フィーナの父であり、ヴェルター家の現当主とのこと。

 フィーナと同じく金色の髪をしていて、顔立ちも整っている。

 年齢的には四十代前後といったところだろうか――彼もまた貴族であるが宝石などで着飾ってはいない。

 それでも――フィーナと同じく気品のある雰囲気を感じさせた。

 ここはどうやら彼の執務室のようで、アーノルドは椅子に腰かけたままに、フィーナを叱責する。


「外に出る時は必ず従者をつけるように、そう言っていたはずだ」

「で、でも、その……」


 フィーナは何やら言い訳をしようとして、言い淀む。

 先ほど――執務室に呼ばれる前に急いで部屋に戻り、手に持った荷物を片付けていた。

 聞いたところによると、フィーナは屋敷をお忍びで抜け出し、近々誕生日を迎えるアーノルドにプレゼントを買いに出たらしい。

 つまりはサプライズ――従者を連れなかった理由もそこにあるようで。

 だから、アーノルドに怒られていても、従者を連れなかった理由を言えなかったのだ。


「――まあ、いい。どうあれ言い訳など聞くつもりはないが。……ところで、その娘は何者だ?」


 当然というべきか――リオにも鋭い視線が向けられた。

 娘が勝手なことをした上に――素性の分からない人間を連れてきたとなれば、苛立ちを隠せないのだろう。

 だが、フィーナはリオの話になった途端――態度を一変させる。


「この子はリオ! 私を助けてくれたのよ」

「助けた? どういうことだ?」

「そ、それは、えっと……」


 また、フィーナは視線を泳がせた。

 リオが助けたのは事実であるが――おそらく、襲われたという事実をあまり言いたくないようで。

 ――たった今、怒られたばかりのことなのだから説明したくはないのだろう。

 ただ、どうあれリオがここにいる理由は話した方がいいだろう。


「この子が変な人に襲われそうなところを助けた」

「! なんだと……? フィーナ、襲われそうになったというのはどういうことだ!」

「え、えっと、変な二人組に絡まれて……」

「……! だから従者を――いや、護衛をつけるべきだった。私の判断が遅かっただけだ。何であれ、怪我はないのか?」

「それは大丈夫。リオが助けてくれたから」

「……君が助けたというのは、本当か?」


 アーノルドの問いかけに、リオは頷いた。

 ――とはいえ、言葉だけでは信じられないといった様子だが。


「それでね、リオのことを……私のメイド――じゃなくて、護衛にしたいの」


 先ほどはメイドと言っていたが、フィーナは護衛と言い直した。

 アーノルドはその言葉に対し、先ほどよりもさらに怪訝そうな表情を浮かべる。

 そうして、リオに対して向けられる視線もまた――先ほどよりも厳しいものになった。

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