42.残念ながら
――数日後、時計塔の爆破は大規模なテロ事件として報じられることとなった。
帝国の象徴である時計塔を爆破することは、再び戦乱の世の訪れを意味するのでは――そう危惧する声も少なくはない。
だが、アーノルドの指示により、テロによる被害は最小限に食い止められた――そう、世間では知られている。
リオは単独で時計塔に向かったが、戦っている間に――時計塔周辺での避難は進められていたのだ。
故に、時計塔の爆破による死傷者はおらず、死亡したのはテロ行為を実行した首謀者を含めた関係者のみとなった。
合わせて、アーノルドは娘のフィーナが狙われていた事実を公表すると共に、王国と和平交渉を進めていることを公とすることにした。
世論がアーノルドを支持しているこそのタイミング――この一件が決め手となり、アーノルドの国内での地盤をより確かなものとなった。
本人は娘の事件を利用することにあまり乗り気ではなかったようだが、周囲の説得や何よりフィーナからの後押しもあった。
そうして、彼が本当に平和を望む者として――和平交渉は進展を見せることになったのだ。
だが、そんな状況でもまだ諦めない者がいる。
リーゲル・クロウレス――今回の一件の黒幕だ。
「何が始末屋だ……。結局、メイドの一人も始末できないとは」
苛立ちを隠せない様子で言い放った。
大規模なテロ事件を起こした末に――フィーナとリオ、結局どちらも生き残ったという情報はすでに耳にしている。
結果だけ見れば、一人の令嬢とメイドを殺すどころか捕まえることさえできなかった――リーゲルの選んだ道は、帝国からの亡命であった。
彼には王国側に協力者がいる――すでに、リーゲルには捜査の手が伸びつつある。
フィーナの一件が全て、明るみになったからだ。
「まだだ……王国側にも私と考えを同じにする者はいる。その者達と合流して確実に――」
「やれやれ、救いようのないお方だ」
「! 誰だ、貴様」
リーゲルの前に姿を見せたのは、一人の女性だった。
ここは帝国と王国の国境の近く――落ち合う予定だった相手ではないことは、すぐに分かった。
「レイシア・シャウネル――そう言えばお分かりに?」
「レイシア……? 聞いたことがある――腕利きの傭兵、だったか。そんな奴が、どうしてここに?」
「説明しなくても分かると思うが」
手に持った剣は――鮮血に染まっていた。
先んじで様子を見に行ったはずの護衛が戻ってこない。
目立たないように少数で動いていたが、リーゲルの近くには常に誰か控えていたはずだ。
それなのに――レイシアが姿を見せても、誰もリーゲルを守るために出てこない。
――リーゲルは思わず息を呑み、動揺したままに言う。
「まさか……私を殺すのか!? 私を誰だと思っている!?」
「今回の時計塔爆破のテロ事件の首謀者――大罪人だろう? お前の死は――全ての過激派への警告にもなる」
「ま、待て……! 傭兵なら金で雇われたのだろう!? 金なら、そいつよりも多く払うか――」
全てを言い終える前に、レイシアはリーゲルの首を刎ねた。
地面を転がっていくその頭部に対して――レイシアは静かに言い放つ。
「残念ながら、今回は私の家族がお前のせいで怪我をしているのでね。どんな言い訳も聞くつもりはない」
レイシアは剣を振って血を掃うと――踵を返してその場を後にした。
森を出ようとしたところで、レイシアの前にリオが姿を見せた。




