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43.何があっても

 リオは身体中に包帯を巻いて――杖をつかなければ満足に歩けない状態だった。

 それでも、リオはレイシアの前にやってきた。


「傷の具合はどうだ?」

「うん、大分よくなったよ。それと――レイシアのおかげで助かった」


 リオはその場で、レイシアに対して頭を下げた。


「なに、可愛い妹に助けを求められたなら動かないわけにもいかないだろう」


 ――リオはレイシアに手紙を送っていた。

 今回の顛末も全て説明をしてある――協力を願い出たところ、すんなり受け入れてもらえた。


「……妹って呼ばれるのは、ちょっと複雑」

「始末屋――だったか。随分と難儀な奴の相手をしたな」

「まあ、ね。でも、何とかなったよ」

「ロットも傭兵としての腕は、確かに悪くない奴だったんだがな」


 レイシアはやはりロットのことを知っていた。

 同じ傭兵同士――顔を合わせたことがあるらしい。


「だが、傭兵なんてのはまともな奴の方が珍しい。だから、お前には普通に生きろと教えたんだ」

「わたしが傭兵になるのは反対してたもんね」

「傭兵にするために育てたわけじゃないからな」

「傭兵といえば……アーノルド――旦那様とは知り合いだったんだね」

「彼から依頼を受けたことは何度かある。何せ、彼も狙われる身だからね。敵の排除には何度か協力している」


 アーノルドの身の安全にレイシアが関わっていたのだとしたら――納得だ。

 だが、フィーナに関しても、もう狙われることはないだろう。

 今回の一件の黒幕は、レイシアの手で葬り去られた。

 これで――思い残すことは何もない。


「わたし――レイシアとの約束を守れなかった」

「ああ、人を殺したな」


 これからは人を殺さない――そういう約束をしていた。

 けれど、リオはフィーナを守るためにその手を血で汚す選択をした。

 レイシアには全て話してある――だから、後は彼女に全てを委ねることにした。


「うん――だから、わたしを殺して」


 リオは自ら、レイシアに言い放った。

 そのまま、静かに言葉を続ける。


「……わたしはこの手を血で汚しても、何も感じなかったよ。罪悪感なんてこれっぽっちもない。だから――普通に生きるのはきっと、無理なんだと思う」

「そうか」

「でも、守るべき人は守れたから」


 何も後悔はしていない――むしろ、晴れやかな気分だった。

 レイシアはリオの言葉を受けて――剣を抜き放つ。

 そして、その剣先をリオへと向けた。

 彼女なら――痛みもなくリオを殺してくれるだろう。

 もしも、リオが人を殺してしまったのなら――その時はレイシアが後始末をつけるというのが、約束の意味だったからだ。

 初めて彼女と対峙した時のことを思い出す――今度こそ、レイシアはリオのことを殺すことになる。


「――どうした? 震えているぞ」

「!」


 レイシアに指摘されて、リオは素直に驚いた。

 死ぬことなど恐れていないはずなのに――確かに、身体は震えていた。


「あれ、おかしいな……怖くはないはずなのに」


 リオは拳を強く握る――けれど、震えが止まることはない。

 今になって、死ぬことが怖くなったというのか。


「……初めて剣を向けた時、そんな風には震えていなかったな」


 そんなリオの様子を見て、レイシアは言った。

 すぐに、リオは首を横に振るう。


「これは、その、違う――」


 言い訳だ――こんな状態で、恐怖で怯えているわけではないと言っても、笑われるだけだろう。

 実際――レイシアは小さく笑っていた。


「やれやれ、少しは人間らしくなったな」

「……え?」

「誰かのために力を振るうことは――悪いことじゃない」


 そうして、レイシアは剣を鞘へと納めた。

 踵を返して、その場から去っていく。

 呆気に取られていたリオは、すぐにレイシアに向かって声を掛ける。


「レイシア、わたしは――」

「お前が道を踏み外したら、その時は責任を取って殺してやる。それまでは生きてみろ。ただ、今度は新しい約束だ――私にお前を殺させるなよ?」


 レイシアはそう言い残すと、そのまま振り返ることなく――姿を消してしまった。

 リオはただ、静かにその場に佇むことしかできなかった。


   ***


 月日は流れ――フィーナは再び魔術学園に通うようになっていた。

 生徒達ともわだかまりはなく、以前のように明るく振る舞えるようになった。

 アーノルドの功績が広く知られたことも大きいだろう――王国との和平交渉を成功させ、ヴェルター家は真に帝国を支える貴族として認められたことが大きいだろう。

 あれからフィーナは一人で魔術の稽古を続けている――基本的な攻撃魔術については、暴発することはほとんどなくなり、随分と上手くできるようになっている。

 そんなフィーナの下に――今日から新しい護衛が就くことになった。


「また護衛が必要だなんて……何かあったのかな」


 フィーナはまた、不安そうな表情を浮かべた。

 もう護衛は必要がないと聞いていたのに――それに護衛というのであれば、フィーナにとってはたった一人の少女しかいない。

 いつものように魔術の稽古をしていたフィーナの下へ、姿を見せたのは一人の少女だった。


「魔術の稽古、サボらずに続けているようですね」

「――」


 フィーナはすぐに少女の下へと駆け寄った。


「リオ!」


 そして勢いのままに抱き着く――リオはしっかりとフィーナの身体を支えた。


「――もう、会えないかと思った」

「怪我の治療に専念するために、しばらく離れてました」


 フィーナはリオのことをずっと心配していた――戻ってくるとは言ってくれなかったから。

 けれど、リオのことを信じると決めていた。

 だから――一人になっても、魔術の稽古は続けることができた。

 リオはフィーナに向かって言う。


「これからはずっと一緒です」

「! 本当に?」

「わたしは嘘を言いません」

「……私、リオがいない間も魔術の稽古を続けていたよ。前よりもさらに上手く使えるようになったから」

「では、早速成果を見せてもらいましょうか」

「! うん、早速披露してあげるっ」


 リオの言葉に頷いて、フィーナはすぐに準備を始めた。

 そんなフィーナの姿を見て、リオは微笑みを浮かべて言う。


「何があっても――あなたのことは守るよ」


 そこには確かな絆が生まれ――令嬢と護衛のメイドは、これからも共に成長を続けるだろう。

こちらで一旦一区切りとなります。

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