40.死ぬ意味
リオは短剣を振るう――今度は、確実に相手を殺すために。
始末屋は短刀で応戦する――両腕に持っているそれを、自在に振り回した。
まるで踊るように――それが剣術の類でないことは明らかだ。
その剣の動きを予測はできず――全てを捌ききることは難しい。
掠めながらもリオは反撃の機会を狙う。
今のリオはロットを圧倒するだけの実力がある――それでもなお、始末屋はその上をいく。
「殺しの技術というのは実のところ単純でね」
始末屋は短刀を振るいながら、不意にそんな風に切り出した。
それは――リオと戦いながらでも、話す余裕があるということだ。
始末屋はそのまま言葉を続ける。
「相手を殺せればなんだっていい。心臓か首か――剣でも斧でも棍棒でも何でもいい。命を奪うための一撃を与えるだけさ」
短刀を斬り上げ、リオの持つ短剣を弾いた――もう一本の短刀で、リオの胸の辺りを狙う。
――わずかに突き刺さるが、後方に下がってそれを避けた。
じわりと胸元の辺りから出血する――気付けば、あちこちから小さな出血があり、ロットから受けた傷の痛みも増していた。
いずれも直撃というわけではない――だが、追い詰められているのはリオの方だ。
加えて――激しく動いている以上、いつ傷が開くか分からない。
リオの呼吸は大きく乱れている――だが、今のリオには決め手がなかった。
そんなリオに対して、始末屋は休む暇を与えない。
距離を詰めて短刀を振るう。
リオはそれを防ごうとするが、刃と刃がぶつかった瞬間――突如として爆発が起きた。
「……っ!」
それは小規模であるが、爆発の反動によって大きくリオはのけぞってしまう。
当然、その隙を始末屋が見逃すはずはない――リオの胸元辺りに短刀を振り下ろす。
リオはあえてバランスを大きく崩して、その勢いに任せて避けた。
どうにか、始末屋との距離を取る。
「どうだい? 爆発する剣撃――面白いだろ?」
短刀に魔術を仕込んだようだ――爆破は火の魔術と風の魔術を組み合わせることで発動することができる。
分かっていたことではあるが――始末屋もまた魔術を会得している。
互いに暗殺術を駆使するだけではすぐに決着はつかないと判断したのだろう――ここからは、魔術も織り交ぜてくる。
武器術に魔術を加えるのは、近接戦闘においては一般的だ――だが、こうなると単純に刃を合わせるのも危険になる。
リオもまた魔術を行使する――魔力を刃のように変化させ、それを飛ばした。
リオの得意とする魔術、『風刃』――だが、始末屋はそれを軽々と短刀で防いでみせる。
「単純な魔術だね。もっとも、当たれば人を殺せる――シンプルで強力だ」
短刀で防がれるのは想定内――リオが確認したかったのは、始末屋が刃に付与した魔術の効果。
発動条件は――一定以上の衝撃が刃へと加わった時で間違いないようだ。
無論、当たればリオの放った魔術だって強力だ――リオが修得している魔術の種類はそれなりにある。
だが、リオは魔術に特化した魔術師ではない。
始末屋に対し有効打となり得る魔術は――おそらくリオが修得しているものにはないだろう。
(……関係ない)
それでもなお、持てる技術の全てで戦うだけだ。
リオは駆け出して、始末屋との距離を詰める――速さはほとんど互角。
下手に踏み込めば、カウンターをもらうことになる。
回避することまで含めたギリギリのラインを見極め、リオは仕掛ける。
ただ、リオも気付いていた――先ほどよりも自身の動きが遅くなっていることに。
当たり前のことだ――リオは元々、深手を負っている状態。
始末屋に至っては、未だに掠り傷すら負っていない。
万全な状態ですら勝てるか分からない相手――リオの呼吸はさらに荒くなり、動きは遅くなる一方だ。
「はっ、はっ――」
肩で息をするようにしながら、わずかに踏み込みが深くなった瞬間――始末屋の短刀が迫る。
リオは咄嗟に――右手に握っていた短刀を持ち替えてそれを防いだ。
瞬間、小規模な爆発が起こる――先ほどとは違い、爆発はリオに直撃してしまった。
服の一部が破れ、皮膚を裂いて焼く――痛みが激しく、左腕はもう満足に動かせそうになかった。
さらに、じわりと身体が熱くなる感覚があった。
――ロットから受けた傷口が開いたのだ。
「いよいよ限界みたいだね。君はよく頑張った――だから一つ、提案をしよう」
不意に、始末屋がそう切り出した。
「……提案?」
「そう、提案だ。僕と共に来ないか?」
始末屋の提案に、リオは目を丸くした。
すぐに、睨みつけるような視線を向ける。
「……本気で言ってるの?」
「別におかしなことを言っているとは思わないけどね? 今の状態で、この僕と互角に戦えている。さすがは可愛い妹だよ」
「わたしはあなたの妹じゃない」
妹――その言葉を否定した。
リオは始末屋のことなど知らない。
仮に知っていたとしても――仲間になる気などさらさらない。
「そう邪見にするなよ。こんなところで死ぬ意味なんてあるか?」
「死ぬ意味――そんなもの、ないよ」
――そうだ、死ぬ意味なんてない。
「そうだろ? だから――」
「だって、わたしは死なないから」
「……なに?」
「フィーナを守るために、こんなところで死ぬわけにはいかない」
「――なるほど、血を失いすぎたか。いまいち僕の話が理解できてないみたいだね」
呆れたような口調で言いながら、始末屋は短刀を構えた。
リオもまた、短剣を握る――だが、その手にもう力が残っていない。
ローブの一部を破って、短剣を握れるように無理やり巻き付けた。
もはや限界に近いことを理解して、それでもなおリオは戦いに挑む――決着の時はすぐそこまで迫っていた。




