32.その通り
「リオ……!?」
フィーナは驚きの声を上げた。
若い講師のすぐ背後に――気付けばリオの姿があった。
彼女が無事であったことに安堵すると共に、駆けつけた彼女の異様な雰囲気に――フィーナは息を呑む。
フィーナが今まで見たことがない――底冷えするような視線を、リオは若い講師に向けていた。
「ま、待って、リオ! この人は――」
助けようとしてくれている――そう伝えようとしたが、リオの視線は一瞬、フィーナに向けられた。
その視線は若い講師に向けられたものとは違う。
――何も心配しなくていいと、目線で伝えられた。
だから、フィーナはそのまま押し黙ってしまう。
「な、何のつもりだい? 君は……この子の護衛か?」
「そうだよ。すぐにフィーナ――お嬢様から離れて」
「ご、誤解だよ。私は彼女の足に絡んだこの魔術を解除しようとしただけで――」
「惚けても無駄。その魔術――あなたが仕掛けたものだよね」
「えっ……!?」
リオの言葉に、フィーナは驚きの声を上げた。
若い講師が仕掛けた魔術――すぐに、フィーナは若い講師の方を見る
その指摘を受けても――彼は顔色一つ変えることはない。
彼が否定の言葉を口にする前に、それが事実だと証明してしまっているようなものだ。
若い講師もまた、フィーナに気付かれたと察したようで。
「……やれやれ、陽動の意味がない――な!」
男は振り返りざまに魔術を行使した――手から放たれたのは火の魔術であり、リオに向かって燃え盛る業火を放つ。
リオは低い姿勢で屈むように避けると、再び若い講師の背後へと回り込み――そのまま首元に一撃を加えた。
「がっ……!」
単純な打撃――だが、白目を剥いて、若い講師はその場に倒れ伏した。
同時に、フィーナを捕えていた鎖も、音を立てて消滅していく。
「――ふぅ」
リオは小さく溜め息を吐くと、フィーナの傍に来て――手を差し伸べた。
「お怪我はありませんか、お嬢様」
「だ、大丈夫――だけど」
フィーナはリオの手を取ろうとした。
だが、この状況を見れば――自ずと、フィーナを理解してしまう。
どうしてフィーナだけが、魔術の鎖で捕まえることになったのか。
先ほど、若い講師は陽動と言っていた――つまり、狙いがある。
その狙いは何なのか――フィーナは、悟ってしまったのだ。
「――もしかして、これって、私のせい?」
「――」
フィーナの言葉に、リオは表情を変えた。
それは本当にわずかなものであったが――フィーナには伝わってしまう。
今のフィーナの疑問が、事実であるということに。
学園内でのこの騒ぎは、フィーナが原因だ――狙われているのは、自分なのだと。
「やっぱり、そう、なんだ。私が、狙われているんだよね? この爆発も、わたしのせいで――この間の、リオの怪我も?」
そうして、考えはそこに行きついてしまう。
フィーナの周囲で何かが起きている――どうして、そんなことに気付けなかったのか。
自分がどこまでも愚か者であるということを自覚させられてしまう。
「――今は安全なところに」
リオは否定をせず、肯定もしなかった。
ただ、フィーナに手を差し伸べている。
彼女の言う通りだ――今は、誰が狙われているかなど気にしている場合ではないのかもしれない。
だが、フィーナはその手を、すぐに取ることができなかった。
「わ、私が行くと、みんなに迷惑が……」
これからどこへ避難すればいいのか――フィーナが狙われているのなら、他の生徒達と同じ場所に逃げれば、その人達にまで被害が及ぶのではないか。
考えれば考えるほど――フィーナの中の不安は増すばかりだ。
「そんなことは――」
「その通りさ」
リオの否定の言葉を遮ったのは――教室に踏み込んできた一人の男だった。




