31.避難
「なんだ、今の爆発音……?」
「誰かの魔術が暴発したんじゃないの?」
そんな声を耳にして、フィーナは少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。
魔術による暴発――それに関しては特に経験がある。
もしも、誰かの魔術が暴発したのであれば、あまり騒がない方がいい――そう思っていたが、教室の窓から外を見ると、あちこちで煙が上がっているのが見えた。
途端に、教室内の空気が変わる。
「ちょ、ちょっと……これって普通じゃないでしょ」
「に、逃げた方がいいんじゃないか……!?」
生徒達がざわつき始めた――魔術の暴発などという、単純な話ではないのは明らかだ。
だが、今は授業中――担当していた講師が、その場にいる全員に指示を出す。
「落ち着きなさい。何があったかすぐに確認をしてくるので」
講師は冷静だ――元々、帝国魔術師団でも活躍していたような実力者が、魔術学園では講師を務めている。
こういう状況にも慣れているのかもしれない――講師の言葉に、生徒達も幾分か冷静さを取り戻した。だが、
「大変ですっ! 学園内に爆発物が仕掛けられたようで……すぐに避難を!」
教室の扉が開かれると――若い男性講師が慌てた様子でそう叫んだ。
「ば、爆破物……!?」
「ここもやばいんじゃ……」
「やっぱり早く逃げないとっ!」
教室内の騒ぎが大きくなる――フィーナも、不安を感じる気持ちが大きくなっていた。
そんな時――ふと過ぎったのは、リオの顔だ。
(リオは……無事なのかな)
学園内での爆破――巻き込まれてなければいいが。
リオの安否をすぐに確認したくなる気持ちはある――だが、ここでフィーナが慌てても、状況が好転することはない。
「――静まれ」
言葉と同時に発生したのは、先ほどの爆発音よりも大きな『音』であった。
その場にいた生徒達全員の視線を集める――音を作り出したのは、講師が使った魔術によるものだ。
「落ち着けと言っているだろう。爆発はここからも遠いようだ――慌てずに避難をしよう」
この状況において、講師がどこまでも冷静で――生徒達も幾分か落ち着きを取り戻し始めた。
――とはいえ、動揺したままに生徒達は急ぎ足で教室から廊下へと出て行く。
フィーナもまた、それに続いて廊下に出ようとするが、
「っ!?」
何かに引っかかり――フィーナは転んでしまった。
足元を見ると、鎖のような物が床から生えて――足に巻き付いている。
(何、これ……!?)
フィーナは驚きの表情を隠せない。
足元に巻き付いている鎖――それが魔術的な何かであることは明白だった。
フィーナは避難で後ろの方に控えていたため、動揺している生徒達は気付いていない。
「何で、こんな――」
「どうかしたのか」
だが、講師はフィーナの異変に気付いだ。
生徒の避難指示を出しつつも、フィーナの様子を確認しようと近寄る。
「――彼女は私が。他の生徒のことを頼みます!」
そこに割って入ったのは、先ほど教室に駆けつけてきた若い講師だった。
生徒達の動揺が収まったわけではない――生徒達の誘導には、実力のある者がいた方がいいだろう。
「……分かった。君も落ち着いて行動するように」
講師は若い講師にそう助言をして――廊下へと出て行く。
フィーナも自分の一人のために、全体の避難が遅れてはならないと考えていた。
すぐに、フィーナの下へと若い講師が駆け寄ってくる。
「大丈夫かい?」
「そ、それが、足に鎖が……」
「鎖?」
フィーナの言葉を受けて、若い講師が足元を確認する。
そこには――確かに鎖が絡まっていた。
「これは……魔術の鎖か? 何でこんなものが……」
「わ、分かりません。気付いたら足に絡みついていて……」
「とにかく、落ち着いて。すぐに解除しよう」
若い講師の言葉に、フィーナは安堵する。
すでに他の生徒達は教室から避難し――残っているのはフィーナと若い講師だけだ。
若い講師がフィーナの足元に手を伸ばし、魔術で作られた鎖を破壊しようとする。
「――その子を離してくれる?」
だが、その言葉と同時に――若い講師は動きを止めた。




