30.今のままだと
襲撃事件から数日――和平交渉については問題なく進行しているようだった。
ただし、交渉が進むということは、それだけ状況も変化しているということ。
リオは変わらず、フィーナの護衛として彼女の傍に付き従っている。
フィーナが授業を受けている間――リオはいつものように学園内で時間を潰していた。
ただ、リオは無駄に時を過ごしているわけではない。
校内にある森林園で、リオは一人――鍛錬を行っていた。
先日負った傷も癒えており、リオはすでに戦える準備は整っていた。
だが、先日の始末屋を名乗った人物との戦いで――リオは一つの確信を得ている。
(今のままだとたぶん――勝てない)
リオが鍛錬を怠っていたからではない――リオにそう思わせるほどに、始末屋の実力は想像を遥かに上回るからだ。
リオも手の内を全て明かしたわけではないが、それは相手も同じで――魔術戦に発展する可能性も高い。
(……魔術、か)
リオは自身の中にある魔力を練り上げると、それを刃のように変化させた。
『風刃』――魔力を刃のように変化させる、魔術としては中級程度の技能が求められるもの。
一振りすれば大木を簡単に切断するだけの威力は出せる――単純だが威力は十分だ。
――これらは殺しに特化した魔術であり、リオが会得している魔術の大半を占めている。
リオの持てる技術の全てを振るう時――それは、相手を殺す以外の選択はない。
(わたしは……)
この期に及んで――リオはまだ悩んでいた。
始末屋との戦いは確実に殺し合いになる――この戦いに、リオの命を懸けるべきかどうか、だ。
レイシアはリオが普通に生きることを望んでいた――そのための約束は、殺しをしないこと。
この仕事は確かにリオの実力を生かせるものであり、殺しをせずとも真っ当する自信はあった。
だが、相手が悪い――リオは魔力で作り出した刃を消すと、小さく溜め息を吐く。
死を恐れたことはない――レイシアに刃を向けられたあの時だって、抵抗しなければ死ぬ状況だったというのに、恐怖はなかった。
レイシアは確かにリオを育ててくれた――こうして、当たり前のように誰かと接して生きていくことができるくらいには。
けれど、リオは時折感じている――自分の本質は何も変わっていないのではないか、と。
フィーナと一緒にいて、確かに彼女に情は感じている。
けれど、そこに命を懸けるほどの価値があるのか――リオは純粋な疑問を感じていた。
命を懸ける価値、レイシアとの約束を破る価値――フィーナという少女と知り合った期間は、それほど長いものではない。
(……迷ってる場合でも、ないのに――)
心の中でそう呟いた瞬間――リオは異変に気付いた。
感じ取ったのは気配だ――学園内に、不穏な動きをする者の気配がある。
それはまるで誘っているかのように、明らかに気配を隠さずに動いている。
(……どういうつもり?)
リオのように腕の立つ者であれば、その気配にはすぐ気付くだろう。
学園内にまでわざわざ侵入して――気配を消さずに目立つ動きをすることに、何の意味があるのか。
――リオは即座に行動に出た。
どうあれ、まずは一番近くにいる怪しい気配の者を捕らえ、尋問する。
先日のように情報源を失うような真似はもうしない――だが、リオが動き出すと同時に、周囲で爆発音が響いた。
それは大地が少し揺れるほどに大きなもので、周囲の木々に翼を休めていた鳥達が一斉に飛び立っていくほど。
「なっ」
リオは思わず驚きの声を上げた。
爆発が起きたのは一か所だけではない――次口と学園の各地で煙が上がっており、ここからでも動揺する声が聞こえてくる。
「な、なんだこれは!」
「すぐに状況の確認を!」
学園関係者や学園に通う貴族の従者達――護衛を担う者達は、すでに動き出している。
おそらくは先ほどの怪しい気配をした人物が爆発物を仕掛けたのだろう――だが、いずれの爆発も学園の敷地としてはかなり外側寄りだ。
学園内部にまでとなると、仕掛けるのはそう簡単ではない。
だから、可能な場所での爆破――だが、何の意味があるのか。
リオは冷静に判断する。
(考えられるのは……)
これらの爆破は全て囮であり、目的は別にある――少なくとも、リオのすべきことは一つだ。
「フィーナ……」
リオは急ぎ――フィーナのいる教室へと駆けた。




