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28.殺す気

「僕とやり合うかい?」

「情報源を奪われた以上、あなたから聞き出すしかないから」

「まあ、そうだろうね。いいよ――少しだけ相手をしてあげよう」


 始末屋はそう言うと、両手の力をだらりと抜いた。

 それが構えなのか――リオが距離を詰めようとすると、軽く始末屋が腕を振るった。

 飛んできたのはナイフだ――先ほど、男達を始末するために放った物と同じだ。

 袖の部分にいくつか仕込んであるのか、リオはそれを冷静に捌いて見せる。

 当然、ナイフを持ち歩くのにも限界はあるだろう――瞬間、眼前に迫ったのは靴底だった。


「!」


 ナイフの投擲は囮――リオとの距離を即座に詰めていたようで、すぐに防御の構えを取った。

 両腕を交差するようにして防ぐが、ミシリと骨が軋む音がする。


「くっ!」


 すぐにリオは後方に跳び、蹴りの威力を殺した。

 咄嗟に後ろへ下がっていなければ、腕をへし折られていた可能性も高い。

 体術に関しても相当なものだ――リオは着地と同時に地面を蹴る。

 今度はリオが仕掛ける番だ。

 先ほど拾ったナイフを振るう――始末屋が袖の中から取り出したのは短刀だった。

 ――金属のぶつかり合う音が響く。

 互いの持つ刃がぶつかり合い、均衡する形となった。


「それがあなたの得物?」

「気に入って使っているよ。君も自分の武器で戦ったらどうだい?」

「……余計なお世話」


 互いに刃を弾いて――斬り合いが始まった。

 刀身の長さは短刀の方がある――だが、リオの方がわずかに振りは速い。

 手首や肩に狙いを定め、リオは始末屋の無力化を狙う。

 あくまで殺しが目的ではない――動きを封じ、情報を引き出すことが狙いなのだ。だが、


「――それでは足りないな」


 始末屋はそう言うと、リオの持つナイフを弾いた後に――身体を大きく回転させるようにな動きを見せた。

 両手に短刀を握ると、そのまま遠心力に任せて短刀を振るう――リオは下がりながら防ぐが、


「ちっ!」


 思わず、リオは舌打ちをした。

 威力を殺しきれず、拾ったナイフでは攻撃には耐えきれない――ナイフの刀身が折られ、リオは肩の辺りに一撃を浴びてしまう。

 地面を蹴って、始末屋と大きく距離を取った。

 肩からの出血――傷は浅いが、じわりと出血が広がっていく。


「だから言っただろう? 君も自分の武器で戦え、と」

「……確かに、わたしが間違ってたみたいだ」


 始末屋の言葉を、リオは素直に肯定した。

 リオはその場でしゃがむと――太腿の辺りに隠してあった一本の短剣を取り出す。

 今度は拾い物のナイフなどではない――リオの得物だ。

 真っ黒な刀身をしており、先ほどまで握っていたナイフよりも刀身は長い。

 使い慣れた代物であるが――リオがこれを取り出すことは滅多にない。

 ――リオがそれを使わざるを得ないほどの相手なのだ。


「それが君の得物か。さて、やる気になってくれたところ申し訳ないが――」


 始末屋はそう言うと、短刀を袖の中にへと隠した。

 今度は何かを仕掛けてくるつもりなのか――リオは短剣を構えたままに警戒していると、


「今日はこれでやめておこうか」


 不意にそんな風に切り出した。

 その言葉に、リオは驚きを隠せない。

 だが、言葉の通り――先ほどまでは感じられていたはずの殺気はない。

 始末屋は、もうリオと戦うつもりがないのだ。


「……どういうつもり?」

「言葉のままの意味だよ。ここで決着をつけるには時間がかかりすぎる」


 その言葉の意味はすぐに理解できた。

 路地裏とはいえ、ここでやり合えばいずれは誰かに気付かれる――ここへ向かってくる複数の足音が、リオの耳にも届いていた。


「邪魔が入る前に消えるとするよ。さすがは――可愛い妹だ」

「……妹?」


 その言葉に、リオは怪訝そうな表情を浮かべた。

 だが、始末屋は答えない――袖の中から落としたのは球体型の魔道具。

 リオは咄嗟に目を庇った――瞬間、強烈な光を発生させる。

 使い捨ての魔道具であり、目くらましに使われる代物だ。

 それほど長い時間は持たないが、姿を消すには十分だろう――すでに、始末屋の姿はない。

 逃げられた――否、そう考えるにはあまりに楽観的か。

 あのまま戦いを続けていれば、どうなっていたか分からないのだから。


(妹とか言ってたけど……)


 どういう意味なのか――リオには分からない。

 リオに家族はいない――家族と呼べる存在がいるだけだ。

 尋問対象は殺され、始末屋にも逃げられてしまった。

 おそらく、他に気絶させておいた者もすでに始末されているだろう。

 情報を得られる機会は完全に失われてしまった。

 証拠になるような物は当然――この場には残されていない。

 ただ、同時に――リオは少し安堵していた。


「……あれと戦うなら――殺す気でやらないと無理だ」


 確信がある――今までの敵とは違う。

 リオにとって、それは覚悟が必要な相手だということ。

 リオもその場を足早に去り――屋敷へと戻った。

 すると、リオの帰りを待っていたようで、すぐにフィーナが駆けつけてくる。


「リオっ、一体どこに行って――!?」


 だが、途端にフィーナは血相を変えた。


「どうかし――」

「そ、その怪我……どうしたの!?」


 リオの言葉を遮るようにして、フィーナが問いかけてきた。

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