27.始末屋
いずれも懐に隠しておけるナイフを得物としている。
一般人の中に紛れ込むのに、使える得物としては最適だろう――それを構えて、リオに真っすぐ向かってくる。
その動きは当然、素人ではない――訓練された者であり、二人は確実にリオを仕留めようとしている。
だが、そんな二人の攻撃を軽々とかわして――リオは反撃に出る。
身を屈め、両手を地面につくとそのまま一人目は顎の辺りを蹴り上げた。
「ちっ……!」
もう一人の男はリオに対して追撃を加える――だが、リオは腕を掴むようにすると、そのままナイフを持った腕の関節へ逆方向へ力を加える。
「ぐあっ……!」
呻き声を上げながら、男はナイフを思わず手放してしまう。
蹴り上げられた男は一撃で昏倒し、勢いよく壁に叩きつけられた後――そのまま項垂れた。
残った男は、その場に膝を突くが――リオが一度離れた瞬間に、地面に落ちたナイフを拾い上げようとする。
だが、ナイフを拾った手は――リオが強く踏みつける。
「がっ、ぐ、あ……!?」
「ただ守るだけだと後手に回るから、こっちもやれる時にやった方が色々――手っ取り早いからね」
「く、そ……!」
「誰がフィーナのことを狙っているの?」
リオがあえて目の前の男を気絶させなかったのはこのためだ。
目的は尋問――刺客から情報を得られれば、対処はずっと楽になる。
ただ、素直に吐いてくれるとは思っていない。
「……言うと思って――うぐ……!?」
ミシミシと――骨が軋むような音がした。
リオは踏みつける力を徐々に強めていく。
その痛みは相当なもので――男の額には脂汗が浮かんでいた。
「このまま――骨を砕くこともできる」
リオは淡々とした口調で告げた。
今はまだ尋問の範疇――だが、このまま続ければそれは拷問となる。
そして、リオはそういうことができる人間であると――男に明確に伝えたのだ。
「……っ」
男はまだ口を割ろうとしないが、その表情が揺らいでいるのは分かる。
おそらくは時間の問題だろう――金で雇われた者達であれば忠誠心はなく、自身の命を懸けてまで雇い主のことを守る必要はないからだ。
そして、雇い主さえ分かれば――直接、叩くこともできる。
フィーナを守るために、リオから仕掛けることも可能になるのだ。
「さあ、早く吐いた方が――!」
男の尋問中――リオが感じ取ったのは強い殺気だった。
咄嗟に後ろへと下がる――こちらに向かって飛んできたのは複数本のナイフだ。
だが、それはリオだけを狙った物ではない――尋問していた男にも、ナイフがいくつも突き刺さる。
「かっ、は――」
男は目を見開いて――やがて、その瞳から生気が失われていく。
地面が血に染まり、リオの足元まで血液が広まった。
「……ちっ、そういうこと」
リオは思わず、舌打ちをした。
今の攻撃は――リオを狙ったものでも、男を助けるためのものではない――男を始末するためのものだったのだ。
リオには当たらないことを前提に仕掛けたのだろう。
「――情報を簡単に明け渡すわけにはいかないからね」
言葉と同時に姿を見せたのは――ローブに身を包んだ人物だった。
中性的な声で――男性のようにも、女性のようにも感じさせる。
ローブであるが故に、体型までは確認できないが、身長はそれほど高くはないようだ。
ただ、仮面で素顔を隠しているため、どのみち性別までは分からない。
だが、リオはすぐにその異様な雰囲気を即座に感じ取った。
(――こいつ、強い)
相対しただけでも分かる――今までの奴らとは格が違う。
リオが咄嗟に身構えてしまうほどだ。
「……あなた、誰?」
「僕は『始末屋』」
「始末屋……?」
「本名を名乗るわけないだろう? もっとも、僕は自分の名前に価値はないと思っているから、便宜上そういう名乗り方をしているだけさ。たとえば――こういう仕事をしてるからね」
「――」
始末屋は軽く腕を振るう――ゆったりとしたローブは袖の先まで隠しており、そこから飛んだナイフが、気絶していたもう一人男の胸の辺りに突き刺さる。
びくんっ、とわずかに身体を震わせて――男は絶命した。
情報を聞き出せる可能性のある人間を、また失った。
「……名前の通りってわけ。でも、仲間を殺すなんて」
「仲間?」
リオの言葉に、始末屋はやや嘲笑の混じった反応を見せた。
「冗談を言わないでくれ。君も理解しているだろうが、彼らは金で雇われただけに過ぎないよ。そんな奴らを仲間だとは思わないね」
「……」
その言葉に、リオは答えない――だが、この手のタイプは危険だ。
目的のためなら何でもする――そういう類であることは、この時点で理解できた。
リオは先ほど始末屋が投擲したナイフを一本手に取る。
そして――構えを取った。




