26.足止め
リオの突然の行動に、周囲にいた人からは驚きの声が上がる。
「な、何しているの!?」
当然――フィーナが動揺するのも無理はない。
だが、説明をしている状況ではない。
リオの行動に対し、多くの者が驚きの視線を向ける中――鋭い視線をいくつか感じた。
(……追ってくるか?)
リオは様子を確認しつつ――そのまま、建物の壁を蹴り上がって屋上へと辿り着く。
見据えるのは、ここから少し離れたヴェルター家の屋敷だ。
「ちょ、ちょっとリオ! 急に何を――」
「喋ると舌を噛みますので、黙って目を瞑っててください」
「……!」
リオの言葉にフィーナは動揺しつつも、こくりと頷いた。
いつもと違う雰囲気を悟ったのだろう――リオはすぐに動き出した。
こちらを狙っている者も即座に行動に出ており、リオとフィーナを追いかけようとしている――リオは隣の建物へと飛び移った。
(一、二、三――)
数を数えながら、リオは真っすぐヴェルター家の屋敷へ向かう。
フィーナを抱えながらでも、その速さは別格――追手を引き離すことには成功していた。
危なげなくヴェルター家の屋敷まで辿り着くと、リオはフィーナをそっと地面に下ろす。
「お嬢様、屋敷に到着しました」
「えっ、もう……!?」
フィーナが目を開ける――いきなり抱きかかえられたかと思えば、気付けば屋敷にいる。
何もかもが突然のことで、フィーナは何が起こったのかまるで理解できていない様子だった。
「すぐに屋敷の中へ――」
「すごい! リオ、あんなこともできるのね!?」
フィーナは興奮した様子で言った。
状況を何も理解していないので仕方ないのだが――今はフィーナの相手をしている場合ではない。
「お話は後で。すぐに屋敷に」
そう淡々と告げると――リオはその場から姿を消した。
「速……!?」
フィーナが驚くのも無理はない――リオが本気を出せば、人前から消えたように見せるくらい造作もないことだ。
***
「――ちっ、なんて速さだ。屋敷まで逃げられたぞ」
一人の男が舌打ちをした。
ヴェルター家の屋敷から少し離れた路地裏――もう一人の男が言う。
「仕方ない。ここは一度引き下がる――機会はまだある」
「他の奴らと合流するか?」
「いや、逃げ出したということは、こちらに気付いていた可能性が高い。さすがに人数までは把握できないだろうが、何にせよバラバラに――」
「六人」
「――」
背後から聞こえてきた少女の声に、男達は驚きながら振り返った。
そこにいたのは先ほどフィーナを抱えて逃げ出したメイドの少女――リオだ。
屋敷に戻ったはずの彼女が、どうしてこの場に姿を見せたのか――だが、動揺する様子はない。
即座に男達は懐からナイフを取り出す。
一見すればそこらを歩いていても気にならない――そんな男達が、リオの姿を見た途端に見せる殺気が尋常ではなく。
「こんなに早く見つかるとはな」
「しかも、人数まで把握してやがる。このメイド――やはり只者じゃないな」
「何にせよ――仕方ない、足止めをするぞ」
足止め――その言葉はつまり、他の仲間を逃がすためにここで囮になるということだ。
囮といっても、リオに負けるつもりは全くない――そんな自信すら感じられる。だから、
「足止め?」
男の言葉に――リオは小さく笑みを浮かべた。
足止めなとどいう言葉を使うのは、現状をまるで理解できていないからだ。
リオの反応を見て、一人の男は怪訝そうな表情を浮かべる。
「……何がおかしい?」
「おかしいよ。足止めができると思ってることも、まだ――他の仲間が残ってると思ってることも、ね」
「――!」
リオの言葉に、男達は目を見開いた。
「まさか」
「ハッタリだ。たった今、屋敷に戻ったばかりだぞ?」
「これを見れば分かるかな」
リオはそう言いながら、とある物を男達の足元に投げた。
それは――追手の一人が身に着けていた物。
――リオはすでに、追手のうち四人については動けない状態にしてある。
足止めなどと言っている状況ではない――男達は、いかにしてリオから逃げるかを考えなければならないのだ。
だが、男達にはその選択はないようで。
「――二人で仕留めるぞ、こいつは放っておくには危険すぎる」
「ああ」
彼らが選んだのは応戦――リオにとっては好都合だ。




