24.面倒事
フィーナと出会った時、彼女は攫われそうになっていた。
彼女を攫うのは、和平を主導するヴェルター家の娘であるから。
フィーナを狙っている連中――彼らはフィーナを誘拐して、アーノルドに脅しをかけるつもりだったのだろう。
ヴェルター家は皇族に次いで権力を持つ大貴族――和平を結ぶ上でも主導をしているリーダー的な存在。
彼らにとっては最も邪魔な存在、というわけだ。
「すでに警告などという言葉で済む話ではないな」
「お嬢様は、このことを?」
「和平交渉を進めていることは知っている。だが、そのせいで狙われていることは――教えてはいない」
「それは、どうしてですか?」
「――あの子に余計な不安を与えたくないからだ」
アーノルドは俯き加減にそう言った。
その表情はフィーナのことを案じている――あえて教えていないのだろう。
狙われている理由を話したところで、フィーナが和平交渉に反対することはないだろう。
だから、不安を与えたくないという理由には納得する。
「魔術学園を辞めさせようとしたのは――なるべく目の届く範囲に置きたいから、というわけですか」
「……それだけではない」
「他にも理由はあると?」
「私は――あの子が攻撃魔術が苦手なのも、その理由も知っている」
フィーナが攻撃魔術が苦手な理由――それは、母を傷つけたことに起因するトラウマだ。
アーノルドの視線は、部屋に飾ってある一枚の絵に向けられていた。
フィーナによく似ている――母の肖像画だろう。
「私は今でも、無理をしてまで魔術師を目指してほしいとは思わない。そして、娘に危険な目にも遭ってほしくはない――そう思うことは悪いことか?」
アーノルドはリオにそう問いかけてきた。
全ては娘であるフィーナの身を案じてのことだ。
その気持ちを、リオには否定することはできない。だが、
「悪いとは思いません。それでも、魔術師を目指すお嬢様の夢について、邪魔をしたいわけではない――違いますか?」
魔術師を目指してほしくはない――そう言っているが、フィーナが魔術学園に通うことを結局、認めてはいる。
リオが魔術を教えることについても、だ。
アーノルドも迷っているのだろう――和平交渉で彼女が狙われているということ、無理をしてまで魔術師をフィーナが目指しているのではないかということ。
だが、フィーナは努力家であり、そんな姿を見て――面と向かって魔術師を諦めろとは、アーノルドが言えるはずもなく。
「そう、だな。私は今でも悩んでいる――魔術師を目指すあの子のことを、応援するべきなのかどうか。だが、母の面影を追うあの子に対して、魔術師を諦めろとは言えんな」
アーノルドは父親の立場として悩んでいるようだった。
小さく息を吐き出して――アーノルドは言葉を続ける。
「私がこの話を君にするのは、フィーナが君を護衛として信頼しているからだ。娘――フィーナには、今後も事実を伏せたままに護衛に就いてもらいたい」
「その点に関しましては、理解しました」
「今後、向こうが何か仕掛けてくる可能性は十分にある。警戒は常に怠らないように。話は以上だ――魔術の稽古に付き合ってやってくれ」
アーノルドにそう言われ、リオは執務室を後にする。
扉を閉じたところで――リオは溜め息を吐いた。
(……思ったより、面倒事に巻き込まれたかもしれない)
自分の能力を生かして護衛の仕事を得たつもりであったが――まさか、フィーナがこんな大きな問題を抱えているとは。
リオは親代わりでもあるレイシアとのある約束のことを思い出していた。
「これからお前が普通の人間として生きていくために――一つ約束しろ。もう、人は殺すな」
――リオはその言葉に従った。
初めは命令という形で、今はきちんと自分の意思で。
それが当たり前だということを、レイシアから教わったからだ。
以前にフィーナを狙った程度の相手ならば、殺さずに済んだ。
あれくらいの連中が、いくらフィーナを狙ったとしても――リオならば守り切れる。
だが、アーノルドの話を聞く限りでは――今後はもっと動きが活発化してくる可能性が高い。
より実力のある者が、フィーナを狙ってくることになる。
そうなった時――果たして、リオは相手を殺さずにいられるだろうか。
レイシアとの――家族との約束を守ることができるだろうか。
「……」
「――リオっ」
リオが考え込んでいると――少し離れたところから名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
廊下の向こうから駆けてきたのはフィーナだ。




