23.警告
リオは真面目にフィーナの護衛を務めているし、今では魔術の稽古に付き合っている。
間違いなく、フィーナにとって信頼のできる相手になっていた。
それだけフィーナが信頼しているのだから――アーノルドとしても立場を変えた、ということだろうか。
「お嬢様には魔術師としての才能があります」
「……そんなことは私も理解している」
「では、どうして反対なさるのですか?」
「……」
「何か事情があるのであれば――わたしにも共有を」
リオはアーノルドにそう告げた。
アーノルドがわざわざリオを呼び出した以上、近況を聞くためだけではないだろう。
こうして、一対一で話す機会も少ない――故に、話すのなら今だ。
アーノルドもリオの実力は理解しているはず。
護衛として、彼女を守るために必要な情報は得ておきたいところだ。
アーノルドはまた、考え込むような表情を見せる。そして、
「――事情か。確かに、君にも話しておいた方がよさそうだな」
アーノルドは静かに、そう言い放った。
「掛けてくれ、少し長くなる話だ」
アーノルドはリオにソファに座るように促した。
リオが座ると、アーノルドはその対面に腰掛け――やがて静かに話し始める。
「まずはこの国の現状について話しておくべきか」
「この国の現状、ですか」
「『ロンズウェル帝国』は現在――隣国である『ガルシオン王国』とは停戦状態にあることは知っているか?」
「はい、その話は聞いたことがあります」
『ロンズウェル帝国』もまた大国として知られるが、隣国である『ガルシオン王国』もまた大国――十数年ほど前には、小競り合いなどというレベルではなく、両国は戦争状態にあった。
現在の皇帝の代になると停戦協定が結ばれたが、今でも国境付近では緊張状態が続いているという。
帝都を十分に栄えており――一見すれば平和そのものに見える。
だが、現実は違う――いつ、まだ国同士の争いが起こってもおかしくはないのだ。
「そして、帝国には現状――大きく分けて二つの勢力が存在する」
「勢力?」
「穏健派と過激派――そう呼んだ方が分かりやすいか。王国との停戦協定の先、和平を結ぶことを望む者と、反対に再び交戦を望む者。今、帝国貴族はこの二つが対立している」
貴族同士の争い――帝国の中枢は皇族と貴族が権限を持つが、そのうち貴族達の勢力は二分されているようだ。
当然、ヴェルター家は大貴族であり、そんな争いの中心にいたって何ら不思議ではないだろう。
さらに、アーノルドは言葉を続ける。
「現皇帝は停戦を望み、王国側も同意した――故に、皇帝は再び戦乱の世を招くことには反対している。だが、貴族の中には戦争によって富を得た者もいる。あるいは武功を立てた者も。つまり、争いによって益があり、それを望んでいる者は少なくはない」
戦いによって富を得た――だから、再び戦いを引き起こそうとしている。
おそらくそれは、帝国にだけ限った話ではないのだろう。
ただ、一つだけ――この場において確認しておかなければならないことがある。
「旦那様はどちらの勢力に属しているんですか?」
「私は戦争に反対している――つまり、穏健派と呼ばれる側だ。皇帝とも連絡を取り合っているからな」
「――そうですか」
リオは少し安堵する――そして、安堵したことに驚いていた。
リオは別に争いを望んでいるわけではない――だが、仮に仕えている相手がどちらの派閥であったとしても、仕事としてなら割り切れると思っていた。
それでも、ヴェルター家が争いを望んでいない側であったことが、リオにとっては安堵できることだったのだ――フィーナがきっと、それを望んでいないから。
「和平については私が主導で進めている。王国側も一枚岩ではないようだが、このまま上手く運べば――数ヶ月以内には実現することになるだろう」
上手く運べば――そこが問題だ。
動きが本格化するまでは、そこまで大きく対立はしていなかったのだろう。
だが、実現に向けて動き始めれば――いずれの動きも活発化する。
自ずと、フィーナが狙われた理由についても察しがついてしまう。
「つまり、お嬢様が狙われる理由は――警告ですか」




