22.呼び出し
魔術の稽古の途中だったので、フィーナは少し不服そうであったが、話が終わったらすぐに戻ると約束をして待ってもらうことになった。
(一体、何の話だろう)
アーノルドがリオだけを呼び出す――それは、この屋敷に来てから始めてのことだ。
あえてフィーナを一緒に呼び出さない理由がはるはず。
アーノルドは執務室でリオのことを待っていた。
「――寄り道はしないようにと言っていたはずだが」
「申し訳ありません」
執務室に入って早々――アーノルドに咎められ、リオは謝罪の言葉を口にした。
先日、帰りが遅かった件――ちょうど、寄り道をした時のことだ。
おそらくは、屋敷にいる誰かから報告を受けたのだろう――この点に関しては、寄り道をしたいというフィーナの願いを叶えたリオが悪く、素直に謝る以外にはない。
「お呼び出しの理由はその件でしょうか」
「いや、今の話は呼び出したついでだ」
「では、どういった御用でしょうか?」
リオがそう問いかけると、アーノルドは視線を窓の外へ向けた。
すぐに口を開くことはなく、何やら考え込むような仕草を見せた後――
「最近――登下校や学園生活で何か変わったことはないか?」
そう、切り出した。
リオは少しだけ、驚いたような表情を浮かべる。
「変わったこと、とは」
「気になることがあれば何でもいい」
気になること――わざわざ、リオだけを呼び出して聞くことだろうか。
フィーナではなく、リオに聞くのであれば――護衛に関することだろう。
「特に変わったことはありません。お嬢様も魔術師として順調に成長されておりますよ」
リオは護衛の件も問題ないと伝えた上で、フィーナの現状についても報告した。
魔術師として――彼女は間違いなく成長している。
「――そうか」
だが、リオの報告を受けても、アーノルドの表情はあまり嬉しそうには見えなかった。
アーノルドがフィーナに対し冷たいという印象はない――むしろ、今のように近況確認をするためにわざわざ呼び出すくらいには、娘の身を案じているはずだ。
それなのに、魔術師として成長している――その言葉を聞いて、どうして彼は喜ばないのか。
リオは一つ、考えていたことを口にする。
「お嬢様が魔術師になることをお望みではないのですか?」
「そんなことはない」
当然、アーノルドは否定した。
リオはさらに踏み込んだ質問をする。
「では何故、学園側にお嬢様を退学させるように願い出たのです?」
「――」
フィーナの言葉に、アーノルドは驚きの表情を浮かべていた。
同時に、その反応が答え合わせであるということも。
アーノルドも自身の失敗に気付いたようで、小さく溜め息を吐く。
「……質問に質問を返すようだが、何故それを知っている?」
「やはり、そういうことでしたか」
「――カマをかけたか。そういうこともするのだな」
「予想はしていたもので」
――フィーナの退学については、学園側の対応があまりに早急だったことから、何かしらの手引きがあったことには間違いない。
ただ、理由もなく退学とさせるわけにはいかないだろう――学園としても、あくまで生徒に対しては公平であるというスタンスがあるはずだ。
だが、願い出たのがフィーナの父であるアーノルドだとすれば――そこにどういう話し合いがあったのかまでは分からないが、フィーナの現状に理由をつけて、退学の方向に促すこともできるのだろう。
結果的にはフィーナは自身の努力の末、退学を回避することになったのだが――アーノルドが無関係であるのなら、フィーナの魔術師として成長していることに喜ぶはずだ。
それなのに、アーノルドはむしろ複雑そうな表情をしている。
以前から――アーノルドはフィーナが魔術師になることを望んでおらず、何か理由をつけて退学させようとしていたのではないか、と考えていた。
あくまで予想ではあったが、これで事実であるを裏付けられたのだ。
「お嬢様が魔術師を目指すことに反対する理由が?」
「その前に――君は一体、何者だ? 経歴を調査させたが、君の情報は一切存在しないそうだ。他国の生まれであろうと、調べれば少しは情報は得られるはずだというのに」
それもそうだ――幼い頃には両親もおらず、知らない施設に隔離される日々を送っていた。
リオはそもそも、この国の生まれであるかどうかすら分かっていない。
素性について調査される可能性についても考えていた――その上で、、リオから言えることは事実だけだ。
「わたしは護衛として雇われただけ、です。お嬢様とも偶然出会っただけにすぎません」
――リオにとってはそれが全て。
帝都には仕事を探しに来ただけであり、何か意図があってフィーナに近づいたわけでもない――本当に偶然の出会いだったが、今はこうして護衛として仕えている。
「それを信じろと?」
「お嬢様の護衛として傍に置く判断をしたのも、旦那様です」
「フィーナ自身が連れてきて、決闘の結果を考慮しただけだ」
「つまり、わたしを信頼しているのではなく――お嬢様を信頼している、と」
「……どうだろうな。だが、君が相当な実力者であることは私も理解している。何か事を起こすつもりであるのなら、すでに行動に出ているとも思っている」
つまり、完全に信用しているわけではないが、信頼をしたいと考えている――そういうことだろうか。




