21.魔術の稽古
「では、今日も魔術の稽古をしていきましょう」
「よろしくお願いします、先生!」
「何度か言っていますが、先生とは呼ばなくていいです」
「はい、師匠!」
「師匠もやめましょう」
――今日も、リオとフィーナは魔術の稽古に励む。
魔術学園は休みの日であったため、朝食を終えたら早速――フィーナが稽古をしたいと申し出てきた。
敷地内の稽古場で、二人が魔術の稽古をする姿はすっかり当たり前のような光景になっている。
ただ、稽古といっても特別なことはしていない。
フィーナにはとにかく、安定して魔術を放てるように指示していた。
「攻撃魔術の中で基礎中の基礎は――『光弾』です。魔力を何らかの属性に変化させる必要もなく、純粋な魔力を打ち出すもの。そして、お嬢様が今、最も成功率の高い攻撃魔術です」
シンプルが故に、癖がない――魔術戦においても、牽制に使われることが多い。
必要な魔力量も少なく済むが、当たれば儲けもの程度の魔術だ。
ただ、込める魔力量を大きくすれば――それだけ威力も高くなる。
フィーナは魔力を下手に込めると暴発の危険があるため、『光弾』としてはかなり威力は低いものだった。
「今日も『光弾』の練習をすればいいのね」
「その前に――以前に使って見せた『火球』の練習もしましょうか」
魔力を火へ性質変化させた場合――一番簡単な魔術として知られるのは『火球』だ。
単純に魔力を打ち出す『光弾』とは違い、『火球』はその名の通り、魔力が火の属性を持つ――ぶつかった際の威力ではなく、燃え盛る火を当てること自体に意味がある魔術だ。
魔力を多く込めなくとも、当てるだけで効果が期待できるもの。
リオが先に、フィーナに対して手本を見せる。
魔力のコントロールに関していえば、リオは魔術師にも引けを取らない。
広げた掌に魔力が集まるとーーそれはすぐに火へと変換された。
「すごい、こんなに早く……」
「お嬢様はまだ魔術を発動するまでに時間がかかっていますが、いずれはこれよりも早くなってもらいます」
リオがさらりと言うと――フィーナは息を呑む。
ここで『できない』と言うようでは魔術師になることはできない。
ただ、リオの言葉を真剣に受け止めた様子だった。
リオはそのまま、『火球』を近くの的へと放つ。
直撃すると――的は勢いよく燃え上がった。
「そしてもう一つ――」
リオはさらに――魔力を再び練り上げると、新たに作り出したのは『水球』だ。
『火球』が直撃し、燃え盛る的に対して、リオは『水球』を放つ。
あっという間に――火を消し去った。
魔術の稽古に使われるこれらの的は魔力に耐性のある素材が使われているため、この程度の魔術であれば何度か利用できるようになっている。
「魔術の属性にも当然――向き不向きはあります。お嬢様は確か、火に適性があるとのことでしたね」
「ええ、お母様が一番得意とした魔術もであるの」
母の得意とした魔術――ならば、なおのこと彼女はその属性にこだわりを持っているかもしれない。
その魔術を極めることは、もちろん悪いことではない。
「得意な属性を伸ばすのは当然のこととして――そうではない魔術もある程度、扱えるようになってもらいます」
「だから、水の魔術?」
「水はあくまで一例ですが、火と水は相反する属性ですから、魔力の性質を変化させるいい練習になります」
魔力を水に例えるなら、熱したものをすぐに冷ます――そんな感覚だろうか。
別の属性の魔術を扱っておけば、その魔術に対する理解も深まることになる。
魔術学園の授業では必修を除けば選択式――基本的には自身の伸ばしたい長所をとにかく伸ばすスタンスの者が多くなるだろう。
そうした魔術の授業とは――リオの教えは少し異なるものだ。
「魔力の性質を変化させる訓練――魔術の発動をより早くさせることへの近道にもなります。魔力のコントロールは結果的に、魔術の成功率を上げることにもなりますから」
「そういうことなら……やってみる」
フィーナは早速、魔力の性質を火へと変換させ――火球を生み出した。
リオに比べればやはり発動まで時間がかかっている。
けれど、以前ならば発動すら困難だったものが、今ではかなりの確率で上手くいっている。
このままいけば、フィーナが目指す魔術師になれる日も夢ではないだろう。
そう思っていた矢先のこと――リオはアーノルドに呼び出された。




