16.このままだと
それからさらに数日経った頃――再びフィーナは講師に呼び出しを受けた。
リオはまた、以前のように講師室の前で待機する。
中の会話を聞き取るくらい、リオには造作もないことだ。
「結論から言おう。次の魔術の実技――そこでもし成果を出せなかった場合、単位は出せない。そして、学園の規定通り、必修科目の単位が修得できない場合、君は退学処分となる」
「……! い、いきなりそんなこと……っ。それに、単位が取れなかったとしても、まだ救済措置もあるはずで――」
「残念だが、今回その措置は認められないことになった」
講師の言葉に、フィーナは答えられない様子だった。
――学園の規定はそこまで厳しいものなのか、とリオは純粋に疑問を感じていた。
確かに必修である以上、単位を落とせば進級できないのは事実だろう。
だが、退学処分というのはあまりに早計――というより、重い処置のように思えた。
(……まさかとは思うけど)
リオは何かに勘付いた様子を見せる。
すると、講師室の扉が開いて――出てきたフィーナは明らかに落ち込んだ様子を見せた。
「あっ、リオ――また、待たせてごめんね?」
だが、リオの姿を見ると、また取り繕ったように笑顔を浮かべた。
その姿は明らかに無理をしている――ここ数日、ずっと彼女の努力を目にしてきた。
けれど、その努力が報われることはなく、全てが徒労に終わろうとしている。
帰路につく途中でも――フィーナの様子は変わることはなく、暗い表情を浮かべたままだ。
――リオは小さく溜め息を吐き、口を開く。
「このままだと退学になります」
「っ、聞いていたの?」
フィーナの問いかけに、リオは小さく頷く。
フィーナは何か言おうとしたが、もはや取り繕う意味もないこと思ったのか、
「……分かっているよ」
そう、小さな声で答えることしかできないようだった。
包帯を巻いた手を強く握り、身体を小さく震わせている――誰より悔しい思いをしているのはフィーナだろう。
彼女がそこまで魔術師にこだわる理由を、リオは知らない。
「どうにか、するから」
消え入りそうな声で、どうにか絞り出したのはそんな一言だ。
どうにかする――できるのなら、こんなことにはなっていないだろう。
リオは、今日まで彼女の努力を目にしてきた。
――結論から言えば、今のままでは繰り返したところで見込みはない。
だが、彼女には魔術師としての才能はある――リオはそう踏んでいた。
(……踏み込むつもりはなかったけど)
心の中でそう前置きした上で、
「……魔術の稽古になら、わたしは付き合える――と思います」
リオは、そんな提案を口にした――自分でも、信じられなかったが。
フィーナは驚きに目を見開く。
「魔術の稽古って……リオが?」
「はい」
「リオは魔術も得意、なの?」
疑問に思うのも無理はない。
彼女の前で魔術を披露したことはない――そもそも、リオは魔術師としての資格を有しているわけではない。
だが、リオにも使える魔術はいくつか存在する。
「攻撃魔術なら、それなりには」
リオはそう切り出した。
まさに、フィーナが必要としているもの――攻撃魔術に関しては、リオも扱える。
それは、彼女がかつて教え込まれた技術の一つだからだ。
フィーナはリオの手を握ると、先ほどまでの態度とは一変し――懇願するように言った。
「お願いっ、私に魔術を教えて……!」
今のフィーナにとって、リオはまさに希望に見えるだろう。
包帯の巻いた手で――強く、リオの手を握りしめていた。
「……分かりました」
フィーナの言葉にリオは頷いた。
――自分から切り出した以上、ここで拒絶するわけにもいかないだろう。
(……どうして、こんな提案したんだろうな)
リオは心の中でそんな疑問を抱えながら――屋敷に戻ると、すぐにフィーナとの稽古が始まった。
「よ、よろしくお願いしますっ」
フィーナはリオに対して頭を下げる――さすがに、この状況を誰かに見られると咎められる可能性もあるが、今は気にしている場合でもないだろう。
今から、リオはフィーナの魔術の講師なのだから。




