15.協力すれば
リオがフィーナの下で働き始めてから数日――フィーナは魔術の特訓により熱心に取り組むようになっていた。
正確には、リオが初めてフィーナと共に学園に行ったあの日以来――というべきか。
「お嬢様、いつにも増して魔術の訓練に励まれて……」
「でも、噂に聞いたところによると……あまり芳しくないみたい」
「それって、やっぱり攻撃魔術が使えないことが原因で?」
「ええ。そこまで無理をして魔術師を目指されなくてもいいのに……」
ヴェルター家の屋敷に仕えるメイド達は、フィーナの身体を気遣っているのだろう。
魔術師を目指す必要はない――その言葉が、どれほどフィーナを追い詰めることになるか。
そして、本人にその言葉を突き付けるのは――傷つけることになることも分かっている。
リオもまた、陰ながらフィーナの様子を見守っていた。
「はっ、はっ、はぁ……」
フィーナは肩で息をしながら、無理やり魔力を練り上げる――的に対して魔術を発動させようとするが、やはり暴発してしまう。
見れば、フィーナの手は自身の魔力の暴発によって傷ついてしまっていた。
「……っ」
痛みで両手が震えている――それでも、魔術の稽古を続けるのだ。
血の滲むような努力というのは――まさに今のフィーナのことを言うのだろう。
リオはフィーナの手の怪我に気付いていても、彼女が魔術の稽古をするのを止めなかった。
怪我をしているから止める――それでは、彼女の目指す魔術師にはなれないのだろう。
だが、他のメイドが気付けばすぐに駆け寄って――治療を始める。
フィーナは「大丈夫だから」と笑顔で言うが、怪我をしながらも無理に稽古を続けるのは止められて当然だ。
その時は大人しく従って引き下がるが――フィーナは夜中になると一人、こっそりと起きて訓練をしていた。
ただ、昼間のように攻撃魔術を発動させて暴発してしまっては、音で誰かに気付かれる可能性がある。
だから、魔力を練り上げる稽古を続けていた――夜中の遅い時間まで、誰にも気付かれないように何度も、的に向かって魔術を放つイメージを浮かべているのだろう。
(――やり方自体は間違ってない)
リオはまた、フィーナに気付かれないように気配を殺しながら見ていた。
ヴェルター家の敷地内とはいえ、遅い時間になれば狙ってくる者がいるかもしれない。
リオの役目はフィーナを守ること――だから、彼女の稽古に対して口出しをするつもりはなかった。
それに、イメージトレーニングを繰り返すのは、魔術を発動する上でも効果的だ。
フィーナがそれを知っているのかは定かではないが、やはり魔術師としての素質は十分にあるのだろう。
ただ、今のままではどうあれ上手くいかないだろう。
理由は単純――ここまで繰り返しても、攻撃魔術の発動に至っていないからだ。
努力を否定するわけではないが、一人でやるにも限界はある。
フィーナが上手く発動できないのは攻撃魔術だけであることを踏まえれば――魔術師に向いていない、とそれだけで断定するのは早計だろう。
だからこそ、攻撃魔術だけが失敗する理由――その根本的な原因を解決しなければ、これ以上の進展は見込めないのだ。
(わたしが協力すれば、可能性はあるけど)
――そこまでする義理はない。
リオの役目はあくまでフィーナの護衛であり、彼女の魔術師になる手助けではない。
仕事においては、あくまで受けた範囲でするべきだと――リオはレイシアから教わった。
その言葉に従うのであれば、こうして見守るまでは仕事の範囲であるが、フィーナに魔術を教えることは仕事の範囲外のことである。
冷たい言い方になるかもしれないが、リオは現状で十分に役目を果たしているのだ。
だから――踏み込むような真似はしない。
(護衛としては、それが正しい)
ひたすらに魔術の稽古に励むフィーナのことを見守りながら、夜は静かに更けていった。
投稿順を間違えたので、14話の内容が変わって15話を投稿しております。




