14.簡単には
「っ、ど、どうして、ですか?」
さすがに動揺を隠せず、フィーナは講師に問いかけた。
あまりにも突然のことだが、それでも努めてフィーナは冷静でいようとする。
「聞かなくても君が一番よく分かっているだろう? 授業においては今後、実戦形式で行われるものもある。そんな中――君だけがまだ、攻撃魔術を上手く使えていない」
「……っ」
講師の指摘に、フィーナは押し黙る。
魔術師には色んな道がある――何も、攻撃魔術だけが全てではない。
だが、最低限使えなければならない魔術というものはある――実力に満たない者を魔術師と認めるわけにはいかないのが、学園としてのスタンスだ。
仮に攻撃魔術を使えなかったとしても、卒業することを認められるケースは存在する。
ただ――それはフィーナの目指す魔術師の形ではない。
「こ、攻撃魔術に関しては、今も練習中で……」
「努力は認めよう。君は魔術の授業に対して誰よりも真剣だ――だが、それだけで魔術師と認めるわけにはいかないのが、魔術学園という場所だ」
「それは……」
講師の言葉に何か言おうとして――フィーナは言葉を詰まらせた。
「特に攻撃魔術に関しては魔力のコントロールが上手くいっていない――これは、他の魔術でも起こり得る問題だ。君自身、魔術を扱うことで怪我をする可能性だってある」
指摘の通り――だからこそ、フィーナは何も言えない。
攻撃魔術――その名前の通り、魔術師が攻撃に使うのに、それが失敗するようでは話にならない。
以前に誘拐されそうになった時にだって、フィーナは攻撃魔術が不発に終わってしまった。
あの時はリオが助けてくれたが――果たして、彼女がいなければ今頃どうなっていたか。
魔力がコントロールできないことが怪我に繋がるというのも、否定のできない事実であった。
講師はそこまで言ったところで――さらにフィーナに残酷な現実を突きつける。
「どうあれ、今の君が目指す魔術師の姿は――諦めた方がいい」
「――」
フィーナは驚きに目を見開いた。
それは、今のフィーナの全てを否定する言葉で。
思わず、拳を強く握りしめる。
何でそんなこと――そう感情に任せて言いたくなるのをこらえた。
「私は……そんな簡単には、諦められません」
唇を嚙みしめながら、どうにかフィーナが絞り出したのはそんな言葉だった。
だが、そう宣言したところで――フィーナの危機に変わりはない。
貴族の令嬢だろうと、学園は公平な立場――故に、フィーナが単位を取得できない可能性が高まってしまった。
よりにもよって、今回フィーナを呼び出したのは必修科目の講師であり、この単位が取れなければ進級することはできない。
そうなれば当然、卒業もできなくなってしまう。
「……」
講師室を出ると、そこにはリオの姿があった。
フィーナはリオとこんなところで顔を合わせることになるとは思っておらず、咄嗟に顔を逸らした。
「あっ――リオ、どうしてここに?」
「どうしても何も、いきなり呼び出しを受けたのであれば、何かあったのかと思って」
リオは淡々とした口調でそう言った。
思わず、彼女の方を見てしまう。
表情は読み取りづらいが――もしかしたら心配してくれたのだろうか。
フィーナは取り繕おうとするが――たった今、進級に関わる話をされたばかりで。
――視線を合わせることはできず、フィーナはどうにか切り出せたのは、
「……ううん、何でもない。今日はちょっと体調が悪いから――早退しようかなって」
そんな、現実逃避とも言える言葉だけだった。
「! では、馬車を呼びます」
――リオはすぐに馬車の手配をしてくれた。
体調不良の早退――確かに、先ほどの話を受けて少し気分が優れなくなったのは本当だ。
けれど――本当なら授業には出るべきだった。
講師に向かって魔術師になることを諦められないと言ったのに。
自分で言い出しておきながら、体調不良という言葉に逃げた事実を受け入れられず――フィーナは余計に自分を責め立てる。
(……何してるんだろう、私は)
リオが呼んでくれた馬車の中でも――フィーナは無言のままだった。
登校中は色々話していたのに、ここまで露骨に元気がなくなっていたら――リオに心配される。
それなのに、何か話題を切り出そうという気にもなれなかった。
「――本当に体調が優れないだけ、ですか?」
「! ど、どうして?」
不意に――リオに問われ、フィーナは動揺を隠せない。
やはり、彼女に心配をかけてしまっているようだ。
「呼び出しを受けてからなので、何かあったのかと思って」
「ほ、本当に何にもないよ!?」
フィーナはどうにか、取り繕った笑顔を浮かべた。
――それがどう見ても、リオにとっては無理をしているようにしか見えないかもしれない。
彼女の視線は――どこかフィーナの心を見透かしているようにも思えた。
だから、顔を合わせるのが気まずくて、フィーナはまた落ち込んだように視線を下へ向ける。
しばしの沈黙の後――フィーナは外の景色に視線を向けながら、口を開く。
「……魔術師に向いていないって、言われちゃった」
それは、先ほど突き付けられた現実だ。
「講師に、ですか?」
「うん……。あ、でも諦めるつもりはないよ!? ただ、面と向かって言われると、ちょっとね」
フィーナはまた、先ほどのことを思い出して暗い表情を浮かべてしまう。
リオがメイドになって間もないのに、こんな姿を見せるわけにはいかない――改めて明るく振る舞おうと思ったが、
「そうですか」
リオは――深く聞いてくることもなかった。
他のメイドならもっと慰めたり、理由を聞いてくれたり、何か方法を考えてくれたり――どうにかフィーナへの解決策を考えてくれるに違いない。
「大丈夫です」「何とかなります」「お嬢様ならきっと」――そんな言葉を求めるのも、ただの現実逃避にしかならない。
けれど、リオは違う――彼女は正確に言えばメイドではなく、護衛なのだから。
(……でも、今は何も聞いてくれない方が、楽かもしれない)
――優しくしてもらっても、何も解決しないことはフィーナが一番よく理解しているからだ。




